第142話 その頃竜姫は、裁判所

 私が法廷に足を踏み入れると、全員が起立し、頭を下げて私を迎え入れる。


 私の今日の仕事は帝王の代理として裁判に出席すること。

 帝王の代理といっても、別に何をするでもない、ただ座っているだけ。

 退屈な仕事であるが、公爵からの指示だ、従うしかない。


 私は一段高い席に着席すると、全員が頭を上げ着席した。


 普段ならこの後裁判が終わるまで、ただボーっとしているだけであるが、今日はいつもと違った。

 それは、証人席にいるはずのない者がいたから。


 あれは、ドラゴン! 間違いなく同族。なぜドラゴンがこんな所にいるのだろう?

 もしかすると私を救い出しに来てくれた者なのか?!


 淡い期待を込めてその者を見ると、あちらは値踏みするような視線で私を見ていた。


 キモ!


 ここから逃げ出したいのは山々だが、この者に頼るのは耐え難い。


 だが、同族に会うのは何十年ぶりになる。ここは我慢してでも現状を伝えて助けてもらった方がいいだろうか?

 私が迷っているうちに裁判は進んでいった。


 気がつくと、同族の男と一緒にいた少年が証言を行っていた。


「えー。被害者で、証拠の提出者のセイヤです。一応皇王ですが、職業は個人事業主です」


 え?! 皇王? 皇王ってあの皇王なの?


 私が呆気に取られていると、セイヤと名乗る少年は左手に魔力を込めた。


 左手の甲に皇王の紋章が現れ光輝いた。


 なんと、本当に皇王なのか!

 それにしてもなんですかあの魔力は、ドラゴンにも匹敵する。いや、それ以上か。


 それを見た私は、皇王に助けを求めることにした。

 皇王は昔、龍神の願いを聞いて、助けてくれたことがあると話に聞いている。


 どうにか皇王と話ができないだろうか。

 私が考えを巡らせていると、都合がいいことに、被告人が皇王に食ってかかっていた。


「やめなさい! それ以上は皇王への侮辱ですよ。発言を撤回し、皇王に謝罪しなさい」


 私は被告人の発言を制止し、謝罪するように促した。

 これで、後から私も謝罪する場を設ければ、皇王と話をすることができるだろう。


 そう軽く考えていたら、意外なことに被告人がこちらに矛先を向けて来た。


「なぜ私が、こんな奴に謝罪しなければならないのよ。第一、竜姫だか、なんだか知らないけど、偉そうに。ドラゴンだという話だけど、本当はどうなんだか」


 被告人は男爵令嬢だったはず。この子、常識がないのかしら。帝国でそんな発言をすれば、即打首なのに。


「王族をドラゴンでないと疑うのは不敬ですよ。今のは聞かなかったことにして差し上げますから。口を慎みなさい」

 私は助け舟を出したのですが、被告人には伝わらなかったようです。


「なにを偉そうに。本当にドラゴンだとしても、だから何よ。ドラゴンなんて、所詮畜生じゃない。偉そうにするんじゃないわよ!」


「そうですか。それは残念です」

 一度は見逃すように発言してみましたが、これではかばいようがありません。


 私の意思など関係なく、そば付きの騎士が男爵令嬢の首をはねました。

 初めてのことではないので、動揺することもありません。


「法廷が汚れてしまいました。今日は閉廷ですね。皇王には私が謝罪します。別室にお越しください」


 無駄に血が流れてしまいましたが、お陰で自然な流れで皇王と話す機会ができました。

 おまけに、都合がいいことに、返り血を浴びた騎士を警備という名の監視から外すことができました。


 控室に移ると、すぐに皇王たちもやってきました。


「この度は誠に申し訳ございませんでした」

「いえ、竜姫様に謝罪していただくことはありません」

「そう言っていただけるなら助かります。どうぞお座りください」


 私は皇王たちに控室のソファーに座るように勧める。

「ゴルドビッチ将軍だったかしら、案内ご苦労様、下がっていいわ」

「ですが、それですと護衛がいなくなってしまいます」

「それなら、入り口の外を守ってもらえるかしら。少し、皇王と込み入った話をしたいの」

「了解しました」


 将軍が外に出たのを確認すると、私は皇王に話かけました。


「皇王様、そちらの方はドラゴンですよね?」

「そうですね」

「俺様はブルドラだ」


「なぜドラゴンとご一緒なのですか?」

「実はブルドラは、俺の星で唯一のドラゴンなのです。それで配偶者を見つけるために、他のドラゴンがいる星に連れて行くように依頼されまして」

「俺様はハーレムを作るのだ。お前もそれに加えてやろう」


「結構です!」


 ハーレムを作ろうなんてなんて軽薄な。


「それで、ドラゴンパークを探しているのですが、竜姫様はご存知ありませんか?」

「名前は聞いたことがありますが、場所まではちょっと……。お父様なら知っているかもしれませんが」

「帝王様ですか。お会いすることはできるでしょうか」

「それは無理だと思います」

「そうですか……」


「ただ、皇王様が私の依頼を受けてくださるなら、お父様にお会いできますよ」

「宇宙船を使う個人事業主ができる依頼ならお受けいたしますが、どのような依頼でしょうか?」


「そういえば個人事業主だとおっしゃられていましたね。でしたら、私をフォーマルハウトまで連れて行ってください。そして、お父様たちを助け出して欲しいのです」


「お父様というのは、帝王のことですよね。助け出すとはどういうことです?」


「実は……」

 私は皇王に帝国の実情を話すことにした。


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