第139話 帝都

 ハマルでウィリーさんを加えた俺たちは、五日かけて帝都アンタレス星に到着した。


「あの物騒なのはなんです?」

「あれは帝都防衛の要、M4要塞だね」

 俺の疑問にウィリーさんが答えてくれた。


 アンタレスの衛星軌道にあるM4要塞は、衛星全体が砲門で埋め尽くされていた。


「あの砲門全てがパルサー砲で、敵のシールドを破壊するんだ」

「パルサー砲? ビーム砲とは違うんですか?」

「よく知らないが、ビーム砲より強力なんだ」


「パルサー砲もビーム砲の一種。シールドの波長に合わせて、ビームの波長を変更することができ、効果的にシールドを破壊することができる」

「へー。そうなのか」

 ウィリーさんが感心している。チハル、解説ありがとう。


「俺様とどちらが強いか、一度やり合ってみる必要がありそうだな」

「おいおい、ブルドラ、やめてくれよ」

 ブルドラは、シャトルのシールドも破れなかった。とても勝ち目がないだろう。


 俺たちはM4要塞の横を通り抜け、アンタレスのステーションにハルクを係留する。


「これからどうします? 裁判が行われるのは三日後ですよね」

「折角だ、僕がアンタレスを案内しよう」


「ウィリーさんが……。出歩いても大丈夫なんですか?」

「そうだな、少し変装すれば問題ないだろう」

「変装ですか……」


 帽子と眼鏡と付け髭といったところだろうかと思っていたら、ウィリーさんがしてきた変装は女装だった。


 まあ、ウィリーさんは、細身でイケメンなので、女装しても全く違和感がなかったが、逆に違和感がなさすぎる。これが初めてではないはずだ。

 そういう趣味の人だったのか……。

 俺は、疑惑の目でウィリーさんを見る。


「別に女装が趣味ではないのよ。仕事でやり慣れているだけですの」

「仕事で女装するんですか?」

「事故調査には、潜入調査もあるのよ」

「そんなことまでしてるんですか……」


 ウィリーさんは、見た目だけでなく、言葉使いや、所作までも女性のものになっていた。仕事のためとはいえ、随分と力が入っていると、俺は感心した。


「それでは下まで降りましょうか」


 俺たちが地上に降りるために向かった先は、軌道エレベーターであった。


「これで降りるのか?」

「そうですよ」

「順番待ちしている人がいるではないか、俺様は飛び降りてもいいんだが」


「ブルドラ、そんなに目立つことするなよ」

「それほど待たずとも、すぐ順番が来ますから」

「仕方がない。待つのは少しだけだぞ」


 なんとかブルドラが切れる前に順番が来て、無事に軌道エレベーターに乗ることができた。


「軌道エレベーターなんて、初めて乗りましたが、シャトルバスとさほど変わりませんね。軌道エレベーターにする意味があるんですか?」

「帝都上空は、一般には飛行禁止なんですよ」

「そうなんですか……」


「位置エネルギー交換システムにより、シャトルバスに比べて消費魔力は十分の一以下」

「あら、チハルちゃんは詳しいわね」


「飛び降りれば、魔力なんぞかからないぞ」

「でも、登る時は魔力が必要だろう」

「うむ。確かに登るのは大変だな」


「ほら、街並みがハッキリ見えてきましたよ」

「凄い高層ビル群ですね」


 起動エレベータが地上に近付くにつれ、地上の様子がハッキリ見えるようになった。

 帝都アンタレスは、近未来的な高層ビルが立ち並んでいた。

「壊しがいがありそうだな」

「ブルドラ、間違ってもドラゴンになって壊すなよ」


 地上に到着し外に出ると、高層ビルが見上げるようだったが、道幅が異常に広くとってあった。

 交通量は少なく、行き交う人も疎らだ。ラッシュ時には混み合うのだろうか?


「随分とスペースがとってありますね」

「そうですね。これはドラゴンが通れるように広くされているらしいですよ」

「おお、俺様のために道を広げてあるのか。賢い選択だな」


 別に、ブルドラのためじゃないけどな。だが、これだけ広ければ、ドラゴンが通っても周りの建物に被害が出ることはないだろう。


「少しあれに乗って散策してみますか?」

 ウィリーさんが指す先には、キックボードのような物が貸し出されていた。


「歩くのは大変そうだし、そうしよう」


「あの板切れに乗るのか、飛んだ方が速いだろう」

「ブルドラ、ドラゴンに戻るのはなしだぞ」

「このままでも飛べるが。ほれ」


 ブルドラが目の前で浮き上がった。


「飛べるのはわかったから。目立つからやめてくれ!」

「目立っては駄目なのか?」

「そのためにウィリーさんは変装してるんだろ」

 あれは、逆に目立っている気もするが。身元がわからなければいいのだろう。

「なんだつまらん」


 四人でキックボードを借りて、散策に出発する。

 このキックボードには車輪がなく、わずかに空中に浮いていた。

 スピードは自転車と同じくらいだろうか。最高速度は結構速く感じる。

 シールドがあるので、安全は確保されているようだ。


「これは、これで、なかなか面白いな。ヨッ、ハッ」

「ブルドラ、そんな曲芸のようなことをしていると周りに迷惑だぞ」

「周りに人などいないではないか」

「それは、お前の様子を見て、皆んな避けてるからだよ」

 まったく俺様な、迷惑な奴である。


 ドラゴンは皆こんな感じなのだろうか? だとすると、帝王もろくでもないな。


「キャプテン、ビルが崩壊している」

 チハルが指差す方に、瓦礫の山が見える。


「建て替え工事中なのか?」

「これは、帝王が一撃で破壊したとされる、遺構です」


「ほー。これを一撃で。帝王もなかなかやるではないか」

「ブルドラ、俺様もやってみようとか考えるなよ」

「駄目なのか?」

「駄目に決まっているだろう」


 ブルドラを都会に連れてくるのは危険だな。山の中でのんびりさせておくべきだった。


「あっちに見える緑は公園か?」

「あれは公爵の屋敷ね」

「へー。随分と広いんだな。公爵の屋敷があれだと、王宮はよほど広いんだろうな」

「王宮は、あそこに見える山がそうよ」


 ウィリーさんは遠くに霞んで見える山を指す。

 中心街からは随分と遠そうだな。


 その後も、あちこち回り、裁判所の場所も確認してから、その日はウィリーさんおすすめのホテルに泊まることになった。


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