第134話 その頃カイトは、ジェミニスII

「しかし、セイヤには感謝しないとな。こんな貴重なレアメタルが採れる場所、なかなかないよな」

 セイヤに教えてもらった宙域では、貴重なレアメタルが山のように取れる。

 特にその中でも、コスモメタルFは、近隣宙域では取り尽くされていると思われている物で、非常に価値が高い。

 そのため、積載量が少ないジェミニスIIでも十分に元が取れるのである。


 今回も、一月近くかけて船一杯にコスモメタルFを集めてきた。

 これを売れば、新しい船を買うことも夢ではない。


 ジェミニスIIも悪い船ではないが、中古だからな。いつ故障するかわかったものではない。

 まあ、新しい船はともかくとして、この外装の装飾だけは早急になんとかしないとな。


 船の外装には、アイドルのキャラバン船だった頃の、猫耳カルテットの絵が描かれたままだった。


 無事に通常航路に戻り、ドックに向かおうとしたところで、カードに通知が来ているのに気がついた。

「ステファからか? お、何度も何度も、緊急の用だったのか!」

 俺は慌てて通知の内容を確認する。


 通知の内容は、セイヤがステファたちをおいて帝国に行ってしまったので、自分たちを帝国に連れていって欲しいというものだった。


 最初に送られて来た通知は、穏やかに、ドックまで連れて行ってというものだったが、回を重ねるごとに語調が荒くなっていき、最後には命令口調で帝国まで連れていけに変わっていた。


 しかし、セイヤがなんで帝国に行ったのかはわからないが、セイヤもステファも自由だな。とても王族とは思えない。今でも何かの冗談ではないかと思えるほどだ。


「王族ってみんなこんなかな? 俺の想像とだいぶ違うんだけど」


 そういえば、子供の頃両親が「お母ちゃんはな、昔お姫様だったんだぞ」「そんなこともあったわね。ガハハハハ」なんて言っていたことがあったな。

 その時は、こんな八百屋の肝っ玉母ちゃんが、お姫様のはずないだろうと呆れて聞いていたが、セイヤたちと接していると、完全に冗談だとは思いきれなくなってくるな。

 まあ、父ちゃんは冴えないサラリーマンだったというし、子供を楽しませるための冗談だったのだろうけど。


 そんなことより、ステファからのお願いをどうするかだな。

 これは、かなり気が立っているようだし、下手に逆らわない方がいいだろう。

 規定の報酬をもらえれば、依頼として受けるのが得策かもしれない。


 それで、セイヤの星はどっち方面だ?

 俺は、通知にあった座標の方向を確認する。


 すると、探知器がそちら方面に向かっている艦隊を捉えた。

 セイヤの星は一般には知られていないはずだ。それなのに艦隊が向かっているのはおかしいよな。

 セイヤはいないようだから、ステファに知らせておくか。


 俺は艦隊が向かっていることを通知すると、艦隊を追う様にセイヤの星に向かった。

 セイヤの星までは、ここから五日くらいか。


 セイヤの星に向かって航行を開始して二日目、なぜか艦隊が方向転換して戻って来た。


 まさか、こちらが後を付いていくことに警戒して、攻撃してくるんじゃないだろうな。

 一瞬、緊張したが。何事もなくすれ違って、艦隊は元来た方向に去っていった。


 なんだったのだろう?


 すれ違い様に確認したところによると、ユートピア号を中心とした九隻の艦隊であった。


 ユートピア号は、スピカ神聖国の乙女巫が乗る船のはずだ。

 直径二十五キロメートルを超える超大型艦で、その中には森林地帯や農園があり、生命維持装置や、フードディスペンサーを使わなくても自給自足ができるといわれている。

 家畜たちも飼われていて、とても宇宙船の中だとは思えない、文字通りユートピアの様な環境だということだ。


 一応、艦隊が去っていったことをステファに通知し、引き続き俺はセイヤの星に向かう。


 四日後、指定されて座標の星に着いた。

 セイヤが言っていた通り、農業が中心に行われている。田舎の星のようだ。


 そこで、俺はステファと、聖女のララサさん、侍女のアリアさん、それと、今回初めて会ったヨーコちゃんを乗せると、帝国に向けて出発した。


 美人美女ばかり、四人も乗せていると、まるでハーレムだが、それが全てセイヤの女だと思うと、ちょっとセイヤに殺意を覚えるほどだ。


 もっとも、全てセイヤの女といったが、ステファはドラゴンが目的だし、アリアさんはリリスさんを追いかけるためのようだ。

 全員がセイヤの関係者ではあるが、セイヤの女といったらいい過ぎなのだろう。


 セイヤも自分の婚約者は、リリスさんだけだといっていたしな。

 もしかしたら、俺にもワンチャンあるだろうか。


 そんな下心を隠したまま、四人を乗せ先ずはドックを目指す。

 ここで積荷のレアメタルを下さないと、居住スペースも圧迫していた。

 積荷を下ろしている間に、魔力の充填も行おう。


「え、ドックに寄るの?」

「積荷を下ろして、魔力の充填も行わないとな」

「そうか、セイヤがいないから、魔力の充填をしながらいかなければならないのね……。これだと距離が開く一方ね」

「それは仕方がないだろう。セイヤが特殊過ぎるんだ」


 セイヤは王族、俺はただの一般市民だからな。

 俺の母ちゃんが本当にお姫様だったなら、俺にも特殊な能力があったのかな……。


 そんな、ありえないことを考えながら、ステファに急かされ、ドックに急ぐのであった。


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