第132話 その頃リリスは、ユートピア号

 正体不明の艦隊がセレストに向かっているとの、カイトさんからの知らせを受け、警戒していたところに、神殿に何者かが転移して来たようです。


 私とアリアは急ぎ、シャトルポッドで神殿に向かいます。


「正体不明の艦隊からの侵入者でしょうか?」

「どうかしら……。艦隊はまだ、ここから四日以上かかる距離にいるはずだわ。転移してくるには距離がありすぎる気がするわね」

「先行している船がいるのでしょうか?」

「その可能性はゼロではないけれど、オメガユニットの警戒網に掛かっていないということは、その可能性は低いわね」


「ステファさんを連れてこなくてよかったのですか?」

「ステファさんは、この星の人ではないですからね。巻き込むのもどうかと……。まあ、相手と揉めることになったら仲裁してもらいましょう。それに、相手は一人のようですし」


 アリアと話をしている間に神殿に到着しました。

 私とアリアは神殿に踏み込みます。


 バタン!


「ララサ、無事? 侵入者はどこ!」

「お姉さま。侵入者は、そちらのスピカ神聖教の乙女巫だそうです」

「スピカ?」

 女神スピカが転送で来たのですか。人騒がせな。いえ、これは好都合です。


「敵対する気はありません。昔の知人を訪ねて来ただけです。穏便にお願いします」


「わかりました。話を聞きましょう。一緒に来てください」


 私は、スピカを引き立てて、シャトルポッドに押し込みます。


「アリア、発進して衛星軌道の上に出て」

「お嬢様、それですとオメガユニットの防空圏を超えてしまいます」


「わかっているわ。大丈夫だから、言う通りにして」

「畏まりました」


 アリアが操縦してシャトルポッドを発進させます。


「あの、私はどこに連れて行かれるのでしょう」

 スピカが心配そうに尋ねてきます。


「転送が使える所まで連れて行くのよ」

「え?」

「あなたが許可なく転送で現れたから、オメガユニットが警戒モードに入ったわ」

「オメガユニットって、最終兵器の」

「そのせいで転送が使えないでしょ」

「帰ろうと思ったら転送できなかったけれど、転送が妨害されていたのね」

「だから、転送で突然現れるには止めて。と、毎回言ってるでしょ」

「すみません。お手数かけます。って、あれ?」


「まだ気が付かないの?」

「え? あーーあ!」

 スピカがビックリして人を指さす。


「皇王セイヤ様の婚約者のリリスメリヤよ。リリスと呼んでね」

「婚約者なの?」


「今、オメガユニットの防空圏外に出るから、そうしたら私を連れて転移して」

「シリ……、リリスを連れて行くの?」

「スピカの船でセイヤ様を追いかけるのよ」


「お嬢様、何を言っているのです?」

「聞いての通りよ。私はスピカの船でセイヤ様の後を追うわ。私たちが転移したら、アリアはセレストに戻ってちょうだい」

「お嬢様を一人で行かせるわけにはいきません。私も一緒に行きます!」

「ごめんなさい。アリアを転送するのは無理なの。今回は諦めてちょうだい」

「そんな……」


「そろそろ転送が使えそうよ」

「それじゃあお願い」

「転送」


「お嬢様!」


 アリアを残して私とスピカは、スピカの船に転移したのだった。


「ようこそ我が船『ユートピア号』に」

「無事に転送できたのね。しかし、よくもこんな長距離を転送できたものね? セレストまで四日の距離よ」

「以前に一度転送してますからね。ポイントが打ってあるのよ」

 いつの間にそんな物、打ったのでしょうか。

 でも、お陰で、カイトさんを待つより一週間以上時間を短縮できるわ。


「無理を言って悪いけど、早速、帝国に向かってくれるかしら」

「それは構わないけど、何があったの?」


「セイヤ様はドラゴンを探しに帝国に行ってしまったのよ。もう、こんなことなら、今まで通りに引き篭っていてもらった方がよかったわ」

「なんでまた、ドラゴンなんか?」


「私のお父様が、結婚を許可する条件に、ドラゴンの角を取ってこいと言い出したのよ」

「そういえば、婚約者だといっていませんでしたか? なんで今回は、聖女じゃないんです」


「今回は、神の左目の転生体がなぜか男だったのよ。それなら、聖女より妻の方がそばにいられるでしょ。生まれてすぐにそれに気づいたから、妹と立場を入れ替えたのよ」


 本当は私が教会に預けられて聖女になるはずでした。

 ですが、今代の神の左目の転生体が男だと知った私は、魔法でララサと、区別のためにつけられた印を入れ替えたのです。

 本当なら私が妹のララサで、ララサが姉のリリスだったのです。


「あの聖女とは、姉妹だったのですか。彼女は、とばっちりを食って聖女にさせられてしまったのですね」


 ララサには申し訳ないことをしたと思いますが、またとない機会なのです。

 私も一度でいいから男の人と結婚してみたかったのです。

 今までずっと、聖女として神の左目のそばに仕えて、男の人と全く付き合うこともできなかったのですから。一度くらいいいですよね。


「なんです。罪悪感があるんですか?」

「少しね……」


 なので、ララサが私に呪いを掛けた時も、甘んじてそれを受け入れたのです。お陰で「ブタ公女」と呼ばれることになってしまいましたが、セイヤ様に嫌われなければ、そんなことはどうでもよかったのです。


「女神なのに、聖女でないのはまずくありませんか?」

「それは大丈夫よ。最初の時はメイドだったし」

「そうなのですか?」


「そんなことより、早く出発して。こうしている間にセイヤ様に何かあったら大変よ」

「はいはい。わかりました」


 私とスピカは転送室を出ると、足早に、ブリッジに向かうのでした。


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