第131話 昔々聖女シリスメリヤは、個室

 私は、神殿に突然転送で現れたスピカを自分の個室に押し込めます。


「スピカ、迂闊なことを言わないでよ」

「あら、今代の神の左目は、女神シリウスがしでかしたことを知らないのね」

「前世の記憶がないのよ」

「そのうち思い出すかもしれないわよ。あなたのせいで、とんでもない所に転生させられたと」

「だからこそ、あまり刺激するようなことは言わないで!」


 私は転生管理官をしていた頃、大神である神の左目をそれと気づかず、本来なら天界に送らなければいけないところを放置されたゲーム世界に転生させて、その世界に閉じ込めてしまったことがあります。

 それは、人間にはありえない魔力を持っていたので、これを天界に送ったら危険だと感じたための措置でしたが、まさか、それが、ただの人間ではなく神の左目だったとは……。


 そのミスの罰として、私は転生管理官から神の左目をサポートする係に降格になり、そのうえ、私もそのゲーム世界に送られてしまったのです。


「しかし、分体の一部でもあれだけの魔力があるのね。完全状態ならすごいでしょうね」

「そうなのよ。最初に会った時は、こちらの存在が消されていく程だったんだから」


「それで、神の左目の一部はどの位集まったの」

「大体半分ぐらいかしら」

「まあ、後何年かかるかわからないけど、がんばってね」


 スピカのいう神の左目の一部とは、転生して閉じ込めたはずの何度も繰り返されるゲーム世界で、ヒロインが死ぬなどしてやり直しが発生するたびに、大神の分体である神の左目が更に分割され、他の世界に少しづつ転生していたのです。

 魔力の総量が多いため、少し減っただけでは気づけなかったのです。気づいた時にはいくつもに分割され、あちこちの世界に転生した後でした。

 そのため、私は、あちこちに飛び散ってしまった神の左目を集めて回るはめになってしまったのです。


「しかし、よく毎回聖女としてそばに仕えられるものね。転生先は選べても、その子が聖女になれるとは限らないでしょう」

「それはカラクリがあるのよ。双子が生まれた場合、下の子は教会で育てるように決まりを作ってあるの」

「つまり、双子に転生すれば教会で育つことになるのね」

「しかも、それが権力者の娘なら大抵苦労せずに聖女になれるわ」

「なるほど、考えたわね」


「それに、神の左目も皇王に転生させてもらっているから、見つけるのも簡単だしね」

 皇王なら目印の紋章があるのですぐにわかります。


 各地の転生管理室に、神の左目を見つけ次第、こちらの皇王に転生させるように伝えてあるのです。

 最初は自分で異世界まで探して回っていましたが、今は、ここで待っていれば集まってくるので、効率的です。


 わざわざ、転生させてもらっているのは、一応、罰ということですから、自分で見つけた体をとるためです。


「それはそうと、転送装置を使って突然現れるのは止めてよね」

「ごめん、ごめん。だけど、シャトルポッドを使うより、手軽で早いんだもの」


「今時、転送装置を使っているのは、あなたくらいなものよ」

「便利なのにね」


「便利かもしれないけど、事故が多過ぎでしょ。二人に分裂しちゃったり、逆に消えちゃったり。壁にめり込んじゃったりなんてことも」

「そんなこともあったわね」


「第一、一旦、量子レベルまで分解してから、再構築した人間が、元と同じ人間と呼べるのか疑問よ」

「そんな議論もあったわね。だけど、転生を繰り返している私たちには今更でしょ」


「まあ、それはそうかもしれないけど」


「それに、転送装置を使うときは、女神の力で幸運値を最大にしてるから、滅多なことでは事故は起きないわよ」

「そんな、高を括っていると痛い目をみるわよ。最悪、ハエと入れ替わったり、融合しちゃうかもしれないから」

「ハエは勘弁してほしいんだけど」


「兎に角、転送装置を使ってもいいけど、来るときは事前に連絡してね」

「わかったわよ」


 返事はいいのだけど、毎回注意するけど、次に来るときは必ず忘れているのよね。困った人だ。


「それにしても、なんでこんな田舎に引っ越したの?」

「それが、あなたに攻撃しようとした男がいたでしょ」

「ああ、ダイダロスとかいってたかしら?」

「その彼が、最終兵器とも呼べる物を作り上げてしまって、放置するわけにはいかなくなったのよ。戦争になって、人が大量に死ねば、神の左目の徳が下がることになりかねないから」

「最終兵器? どんな物なの」


 私はオメガユニットについて、スピカに説明する。


「成る程、異世界から魔力を引き出して使うのね。平和利用されれば恩恵は計り知れないけど、兵器に使われると致命的だわね」

「そうなのよ。現時点ではまだ時期尚早な技術だと思うの」

「そうだわね。これに関する研究は制限した方がいいかもね」

「そうね。その方がいいわね」


「それで、そのダイダロスという男は、神の左目の側に置いておいて平気なの?」

「彼自身は、技術者で、政治的な野心はないから、心配しなくても大丈夫よ。それよりは、一緒についてきた家臣団の方が問題かもね」


「三人だけで引っ越してきたわけではないのね」

「家臣八名とメイドがついてきたのだけど、ここって文明が未発達でしょ。家臣たちが自分たちが神のように振る舞っているのよ。元からの住民たちも彼らを神のようにみているし。困ったものだわ」


「文明が未発達では仕方がないわね。早く教育して発展させるしかないでしょう。それとも家臣団を粛清してしまうか」

「粛清するわけにはいかないから、住民たちの教育に力を入れるわ」

「頑張ってね」


「他人事だと思ってない?」

「そんなことないわよ。これでも神聖国の代表だから、私も色々と大変なのよ」

「そうだったわね。私も頑張りますか」

 私は気合を入れ直します。


 その後も、久しぶりに、同僚の女神とゆっくりお喋りをするのでした。


  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る