第130話 昔々聖女シリスメリヤは、流れ着いた星

 ハルルナ皇女達とこの星に到着してから早一年、やっと生活の基盤が整ったといったところでしょうか。


 ハルルナ皇女も正式にダイダロスと結婚することとなり、今日は建立したばかりの神殿で、新郎新婦と結婚式の打ち合わせです。


「ですから、結婚式に合わせて、ハルルナ皇女には皇王になっていただかないと」

「えー。皇女のままでは駄目かな」

「私はそれでも構わないですけれど、あなたの臣下達がそれでは納得しないでしょ」


「そうだぞ、ルル。ここまで付いてきてくれた皆のためにもちゃんとしないと」

「でも、シリウスから出てきちゃったのに、皇王を名乗っていいのかな」


「でしたら、シリウス皇国とは別に、この星に新しい皇国を造って、その皇王となればよろしいではないですか」

「新しい皇国ですか……。シリスは聖女としてそれで構わないの? 元々シリウスは、大神に仕えていた女神の名でしょ。それを捨てることにならない」


「それは別に構わないです。元々、降臨した星の名前に、大神の名をつけるのは畏れ多すぎるので、女神シリウスの名前にしただけですから。

 そうしたら、国の名前も、皇王の名前もシリウスになってしまって、本来なら、皇王は大神の転生体ですから、シリウスを名乗るのは変なのですが」


「本当は、皇王に仕える聖女が、女神シリウスの転生体なのよね?」

「そうです」

「ということは、シリスは女神シリウスの転生体なの?」

「そうです」

「本当なの?」

「本当です!」

「大体、私は本当に大神の転生体なの? そんな自覚全くないのだけど」

「大神の転生体といっても、その分体『神の左目』のさらにその一部に過ぎませんから、人によって自覚できたり、できなかったり、その能力も個人差があります」

「そんなものなの」

「そんなものです」


 ハルルナ皇女には前世の記憶がないようです。

 そのため、大神の転生体といわれてもピンとこないのでしょう。

 もっとも、これから目覚める可能性もありますが。


「それなら、新しい皇国の名前をつけた方がいいんじゃないか」

「そうね。その方がいいわね」


「でしたら、セレストはいかがでしょうか」

「セレスト? 私のミドルネーム」


「セレストは、大神がシリウスに来る前にいた場所で、皇王になられる方のミドルネームとして使われています」

「セレスト皇国か。ルルの名前から取っているならいいんじゃないか」


「なにか、少し恥ずかしいわね」

「大丈夫です。すぐなれます」


「? ああ、シリスは、女神シリウスの転生体だったな。降臨して星に自分の名前がつけられた時の記憶があるのか」

「そうですが、遠い昔のことです」


「本当なの?」

「本当です。嘘をついたり、悪いことをすると『徳』が下がりますから、基本、嘘はつきません。お二人も一緒ですよ。『徳』が下がると、ろくな所に転生できませんよ」


「俺も転生するのか?」

「大抵の人が、記憶がないだけで、転生を繰り返しています。『徳』を積めば天使になれますよ」

「そうなのか」


 ダイダロスが感心していると、突然私たちの目の前に光の柱が現れ、それが消えると、そこに誰かが立っていました。


「キャァッ」

 ハルルナ皇女が小さく悲鳴をあげます。


「何奴! ダイダロスアタッーいたたたた」

 シールドを盾にダイダロスが相手に突っ込もうとしたところを、私は彼の首根っこを掴んで、強引に動きを止めます。


「痛いじゃないですか、なんで止めるんです」

「その、自分の名前を叫んでアタックするのは、危ないから止めろといっているでしょう。それに、彼女は敵ではないから安心して」

 転送で現れたのは若い女性でした。


「シリウス、久しぶりね」

「どなただったでしょか?」

 ハルルナ皇女は彼女と面識がないようです。それもそのはず、彼女が言っているシリウスは女神シリウス、私のことだからです。


「スピカ、転送で突然現れるには止めて。と、毎回言ってるでしょ」

 私は彼女、スピカに文句を言います。


「シリスの知り合いなの?」

「女神スピカの顕現体です」

「スピカ神聖教の乙女巫なの」


「もしかして、そちらが今代の皇王様なの?」

「そうよ。だからちゃんと礼を取りなさい。それと、今の私はシリスメリヤよ。シリスと呼んで」


「これは失礼しました。スピカ神聖教の乙女巫スピカです」

「ハルルナよ。今はまだ皇女よ」


「そうですか。それにしても、随分と田舎の星に来たみたいですけど、シリウスーでなくてシリスは、ちゃんと仕えてますか? ご不満があれば、神聖国で受け入れることもできますが」

「大丈夫ですよ。不満はありません」


「スピカ、私の仕事を取らないで」

「ああ、そうね。これはあなたへの罰でしたものね」


「罰?」

「あーあーあー。スピカ、私の個室で二人だけで話しましょう」


 スピカが余計なことを言いそうになったので、私は、スピカを引っ張って、自分の個室に連れて行くことにしました。


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