女神編

第127話 その頃ステファは、セレスト

 セイヤがドラゴンの角を得るために、ドラゴンパーク星を探しに帝国へ行くというので、セイヤの代わりに、リリスさんにそのことを伝えに行くことになった。


 私はシャトルポッドに乗り込むとハルクを出発し、リリスさんのいる大公の屋敷に向かう。

 シャトルポッドなら、ほんの数分で到着できる。


 大公の屋敷の庭に着陸すると、リリスさんがアリアさんを連れて慌ててやって来た。


「ステファさん? セイヤ様はどうされたのですか。まさか、セイヤ様に何かあったのですか!」

「セイヤはハルクにいるけど、別に元気だよ」

「そうですか、それはよかったです。それで、ステファさんは、なぜ一人でここに? ドラゴンは見つかったのですか?」

「見つかるには見つかったんだけど、それがいろいろあって……」


 私は、リリスさんに事情を説明して、これからドラゴンを探しに帝国に行くと伝えた。


「そうですか、これから帝国に行くのですね。でしたら私も付いていきます」

「セイヤは、大公が禁止しているので連れて行けないと言っているわよ」


「それは……。でしたら今からお父様に許可を取って来ますから、少し待っていてもらえますか」

「わかったわ。でも早くしてよ」

「すぐに行って来ますから」

 そう言って、リリスさんはアリアさんと屋敷の中に走っていった。


 私は、シャトルポッドの前で立ったまま少し待つことにした。


 しかし、本当にこの星はのどかである。

 シリウスではこんな平和に過ごすことはできない。


 そんなことを考えながら待つこと十分。

 やはり説得は難しいようだ。リリスさんに申し訳ないが諦めてもらおう。

 そう思った時だった。


 バァアーン!


 耳をつんざくような爆発音とともに、屋敷の壁が吹き飛んだ。

 一体何が! 爆弾でも爆発したのか?


 何事かと警戒していると、壊れた壁の隙間からリリスさんが、何事もなかったかのように現れた。

 少し遅れて、アリアさんもやってくる。こちらは、普段と違って、取り乱しているようで、少し顔色が悪い。


「ステファさん、お待たせしました。許可が取れたので行きましょう」

「壁が吹き飛んだけど、大丈夫なの?」

「気にしないでください。お父様が、余りにも聞き分けがないので、少し怒りが爆発してしまっただけですから」


 怒りが爆発したって、本当に爆発したように見えるけど、どういうことだろう。

 私が困惑していると、アリアさんが説明してくれた。


「お嬢様が怒りに任せて『ギガド』を使用したんです」

「ギガド?」

「ギガドは、呪文の詠唱の代わりに、怒りによって魔力を爆発させて対象を吹き飛ばす『爆怒』の上級魔法です」


「つまり、リリスさんが魔法で壁を吹き飛ばしたということ?」

「お恥ずかしい限りですわ。オホホホホ」


 リリスさんが恥ずかしそうに笑った。

 なぜか、アリアさんが一歩退いて、リリスさんとの距離をとった。

 私は、リリスさんを怒らせることだけはするまいと心に誓ったのだった。


「それではステファさん、セイヤ様の所に行きましょう」

「え、そ、そうね」


 私たち三人はシャトルポッドに乗り込むと、セイヤの待っている筈の座標を目指した。

 しかし、目的の場所に着いてもセイヤの乗るハルクが見当たらない。

 座標を間違えただろうかとデルタに確認する。


「デルタ、ハルクはどこにあるの?」

『本船は既に帝国に向けて出発しました』

「出発した?私を置いていったの」

『シャトルポッドが出て、すぐに発進しました。既にワープ速度で航行中です』


「ステファさん、それって、このシャトルポッドでは追いつけないってことですか?」

「そうよ。セイヤのやつ、初めから私も置いていくつもりだったのよ!」

「そんな。また、置いてきぼりなんて……」


 私は、頭にきたが、リリスさんは悲しそうだ。

 ここで、私は先程の壁の爆発を思い出した。今は悲しんでいるが、これが、私と同じ怒りに変わったら大変だ。

 シャトルポッドの中でギガドを使われたら、シールドがあっても無事では済まないだろう。

 私は怒りを鎮めて、リリスさんに提案した。


「とりあえず、地上に下りてから対応を考えましょうよ」

「そうですね。なんとかしてセイヤ様に追いつかないと」


 リリスさんはセイヤを追いかける気でいるようだ。

 そうなるとワープできる宇宙船が必要になるわけだが、すぐに思いつくのはヨーコが乗って来たハルムになる。私もそれに同乗して来たわけであるが、セイヤを追いかけるために出してもらえるだろうか?


「リリスさん、下りる場所だけど、セレストの王宮にしようと思うのよ」

「私は構いませんが、なぜですか?」

「ヨーコちゃんに宇宙船を出せないか、お願いしてみようと思うのよ」

「そうですね。それがいいですね」


 リリスさんも納得したので、シャトルポッドをセレストの王宮に下ろすことにした。


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