第128話 その頃ヨーコは、王宮
セイヤ様達はドラゴン島にシャトルポッドで向かいました。
「私もセイヤ様と一緒に行きたかったな。そりゃあ、私が行っても役に立たないのはわかるけど、折角セレストまで来たのに、出かける機会が全くないんだもの」
思わず愚痴が口から溢れてしまいます。
「こんなことでは駄目ね。大使としての仕事をしっかりやって、セイヤ様の信頼を得なくちゃ」
私は気持ちを切り替えて職務に専念します。
と、いっても、殆どの仕事は補佐官がやってくれるので、私はそれに承認のサインをするだけで済んでしまいます。
こんなことで、セイヤ様の信頼を得られるのか心配になりますが、他にできることもありません。
そういった意味で、今回、予知が当たったことはラッキーでした。少しはセイヤ様に見直してもらえたでしょう。
「頭も撫でてもらえたし。ふふふ」
執務に戻ってからしばらく経つと、王宮の庭にシャトルポッドが戻って来ました。もうドラゴンの討伐が済んだのでしょうか?
私は急いでシャトルポッドの所に向かいます。
「お帰りなさい。ドラゴンは見つかりましたか? って、あれ? リリスさんにアリアさん。セイヤ様ではなかったのですか」
「ヨーコちゃん、お願い。宇宙船を貸してよ」
いきなりステファさんに泣きつかれてしまいました。
「なんですか突然。そんなの無理に決まってます」
「ステファさん、事情も説明せずにいきなりすぎです」
「あ、そうね。実は……」
リリスさんに注意されて、ステファさんが事情を話し始めます。
「と、いうことで宇宙船を出してもらいたいのよ」
「セイヤ様が帝国に行かれたのですか。今度は私も連れて行ってくれるって約束したのに。わかりました。私たちも帝国に向かいましょう。補佐官の二人に話してきますね」
私は急いで、王宮内の執務室に戻り、補佐官二人に事情を説明します。
「ヨーコ様、宇宙船を出すのは無理です」
「なんで。セイヤ様を追いかけるためなのよ」
「ヨーコ様はそれでもいいかもしれませんが、私達がここから離れてしまったら仕事が滞ってしまいます」
それは、暗に私は要らないといわれているのでしょうか。ショックです。本当の事だけに言い返すこともできません。
私は諦めてすごすごと執務室を出ると、リリスさんのもとに向かいます。
「ヨーコちゃん、どうでした」
「すみません。駄目でした。二人がここを離れるのは仕事に支障が出るそうです」
「そうか。なら、宇宙船だけでも借りられないかな。私C級のライセンスを持っているし」
「ステファさんは宇宙船の免許をお持ちなのですか。王女様ですよね?」
「少し、都合で取ることになったのよ」
「そうですか。でも駄目です。乗ってきたのは、ハルムですから、免許を持っている人が二人必要です。ハルツだったら一人でよかったのですが」
贅沢しないで、八人乗りのハルムでなく、六人乗りのハルツにすればよかった。
だけど、この二つ、乗れる人数以上に居住スペースが大きく違うのよね。
隣の星に行くだけならまだしも、長距離移動なら、やっぱりハルムを選びたくなるわよね。
「そっか。そうだったわね。リリスさん達はシャトルポッドしか操縦できないし。困ったわね」
「リリスさんはシャトルポッドの免許をお持ちなのですか!」
「はい、一応。ただ、取ってから操縦する機会はありませんでしたが。ですが、こうなると、宇宙船のライセンスも取っておくべきでしたね」
「今から取るにも一週間はかかるし、第一、講習会場まで行く手段がないわね」
ステファさんが宇宙船の免許を持っているのにも驚きましたが、それ以上に、いつも穏やかで淑女の鑑のようなリリスさんが、シャトルポッドとはいえ免許を持っているのにびっくりしました。
私もうかうかしていられません。セイヤ様に認められるようにもっと努力しないと。
「一番近い講習会場はドックでしたか……。そうだ。カイトさんにお願いしてみたらどうでしょう」
「カイトか、そうね。帝国までは無理でも、ドックまでなら連れて行ってもらえるかもしれないわよね」
「その、カイトさんという方はどなたです」
リリスさんが知っている人で、ステファさんとは親しそうです。いったいどんな人でしょう?
「私がライセンスを取るときに一緒に講習を受けた仲間だよ。その時、セイヤも一緒だったから、セイヤとも親しい仲で、シリウスでもいろいろと手伝ってもらっているのよ」
「そうですか、そんな方が近くにいらっしゃるのですか」
「採取に出ていればここから五日位かしら。ドックにいれば十日ね」
「それだと、カイトさんが来るまでに最低五日、ドックまで十日、免許取得に一週間、ドックから戻って来るのに十日で、ここを出発できるのは一月以上先になってしまいますよ」
「そんなにはかからないわよ。カイトが来た時点で、ライセンス持ちが二人になるから、ドックまではハルムで行って、カイトの船は曳航していけばいいから」
「そうすれば大幅に時間が短縮できますね」
「それでも、セイヤより十日以上遅れることになるけどね」
「他に方法がなければ仕方がありません」
「そうね。とりあえず、カイトに連絡をとってみるわ」
ステファさんがカードで通知を送る。すると、すぐに返事が返ってきた。
「あちゃー。エラーだわ。カイトの奴どこに行ってるのよ」
返ってきたのは、通信エリア外のエラーだったようです。
「採取で航路外を奥まで入っている可能性がありますね」
「そうだったわ。あそこの奥はカードでも通知が届かなかったわね。近くまで来ているのに逆に連絡が付かないとは。通知が届く所まで戻って来るまで待つしかないか」
「困りましたね……」
「もう頭にきた。セイヤに文句の一つも言わないと気が済まないわよ」
ステファさんがセイヤ様に、連続して苦情の通知を送っているようです。
それ、迷惑通知ですから、頭にきたとはいえ、やめてあげてください。
結局、カイトさんに連絡が付いたのは二週間後のことでした。
「やっとか」
ステファさんが、呆れたように通知を確認すると、そのまま動きが止まってしまいました。
「ステファさん、どうしたのですか」
ステファさんのただならぬ様子にリリスさんが声をかけます。
「これ」
ステファさんから渡されたカードには、カイトさんから送られてきた通知が表示されていて、それは『艦隊がセレストに向かっている』という、皆を震撼させる、とんでもない内容でした。
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