第124話 チキンレース
俺とチハル、それにブルドラの三人は、ドラゴンパークの情報を求めて帝国に向けて出発した。
まずはゲート4の入り口に向かう。
ゲートの入り口まではおよそ二週間だ。ワープ4までしか出せないので結構日数がかかる。
そこからゲートを抜けて、連邦の星域のエリアEに入り、そこを突っ切って帝国領へ向かう。
さて、肝心の将軍は今どこにいるだろう。連絡をとって居場所を聞かないと。
俺はカードで将軍に通知を送る。
カードにはステファから通知が来ていた。かなりご立腹のようだ。一応謝りに通知を送っておこう。
リリスにも事情を書いた通知を送っておく。
暫く待っていると、将軍から返事が来た。
それによると将軍は今、エリアSのハマル星系にいるようだ。
ハマル星系なら、エリアEにある、エルナト星系を経由して、通常なら、ゲートを抜けてから一週間といったところだ。
ただ、俺なら無補給で進めるため、最短で五日あれば着けるはずだが、どうしたものだろう。
「ブルドラ、俺の知り合いはハマル星系にいるらしいんだが、途中エルナト星系があるんだが寄って行くか? 通過すればそれだけ早く着けるが」
「別に今更急いでおらん。エルナトで観光してから行けばいいだろう」
「そうか、ではそうさせてもらうか」
こんなことでもないと、なかなか他の星を観光する機会もない。
「チハル、そういうことだから、まずはエルナトに向かってくれ」
「了解。エルナトに向かう」
将軍には三週間後にハマルに到着する予定と通知し、エルナトで二日時間を取ることにした。
セレストを出て順調に進み、ゲートも抜け、その後は高速航路をワープ6で飛ばして、エルナトに到着したのは予定通り、十六日目であった。
その間、ブルドラに前世について聞いてみたが、ほとんど記憶がなく、前世がこの世界なのか、異世界なのかわからなかった。
少なくとも、俺と同じ異世界から転生してきた感じではなかった。もっとも、同じ異世界の宇宙人という可能性はあるのだが。
まあ、同じ異世界の転生者に会ったとしても、別に元の世界に戻りたいわけでもなし、ちょっと懐かしいと感じる程度である。
到着したエルナトは、アルデバラン、ベテルギウス、リゲルに次ぐ連邦四番目の星系で、エリアEの中核となる星系の一つであった。
帝国とも接することから、アルデバランから帝国の帝都アンタレスに行く場合の中継地となっていた。
宇宙ステーションでは、宇宙船が引っ切り無しに行き交っていた。その数はシリウスのステーションより多いほどだ。
俺たちはステーションにハルクを係留すると、シャトルバスに乗り換えて地上に降り立った。
「おお、これが都会か。この街並み、セレストの田舎とは大違いだな」
エルナトの街並みは、高層ではないが、ビルがいくつか見られ、他の建物のほとんどが、二階もしくは三階建てで、一階は商店という、日本の地方都市のような感じだった。
「まずは腹ごしらえ」
「そうだな。船のフードディスペンサーの食事も悪くないが、俺様は本物の肉が食いたいぞ」
「その通り、肉は本物に限る」
チハルとブルドラは船に乗っている間に、随分と親密になったようだ。
ブルドラはやはり肉食なのか? それにしても、チハルは肉が好きだな。
「なら、あそこにステーキ屋があるぞ」
「よし、そこにしよう」
「急ぐ」
チハルに手を引かれステーキ屋に入る。
「いらっしゃいませ」
「とりあえず、俺様は三ポンド」
「一ポンド」
「二人とも席に案内される前に注文か。気が早いな。俺は半ポンドで十分かな」
「もっと食わないと、俺様のように強くなれないぞ」
「いや、別にブルドラほど強くなりたいと思ってないから。それより、チハルは一ポンドも食べられるのか」
「大丈夫」
「そうか。それじゃあそれでお願いします」
「サイドメニューはいかがですか」
「いらん」
「必要ない」
「じゃあ俺はサラダとライスを」
「かしこまりました。あちらのお席でお待ちください」
「サラダなど食べても力は出んぞ」
「いや、健康のため、野菜もとった方がいいんだぞ」
ドラゴンやアンドロイドにも通じるかは、わからないが。
それほど待たずに肉の塊が出てきた。
二人ともそれをペロリと平らげていた。
ステーキ屋を出ると、ブルドラが余計な物を見つけた。
「何やらレース大会をやっているようだぞ」
看板には、チキンレース大会、開催中。と書かれていた。
おいおい、随分と物騒なレース大会を開催しているな。
チキンレースといえばあれだろう、正面から衝突コースで飛ばして来て、どちらが最後まで避けないでいられるかという。度胸試し的な我慢比べ。
チハルが出たいと言い出したらどうするんだ。チハルなら絶対に避けない気がする。
「キャプテン」
そらきた。
「見に行くだけだぞ。出場はしないからな」
「当然。出られるわけがない」
今回は随分と聞き分けがいいな。チハルはスピードを出したいだけで、スリルを味わいたいわけではないのか?
「見に行くのか? 俺様が行くと大変なことになりそうな気もするが、それも一興か」
ブルドラは出場する気じゃないだろうな。
「二人とも見に行くだけだからな」
俺は念を押してから大会会場に向かった。
会場は競馬場のような場所だった。
あれ? 俺が思っていたのと違うぞ。
「キャプテン、一番前の席が空いている」
チハルに言われて最前列に座る。
ちょうどレースが始まるところのようだ。
ファンファーレが鳴り響、鶏がスタートラインに並ぶ。
チキンレースって、鶏レースのことだったのか。そりゃあチハルが出られるわけないわな。
ホイッスルが鳴り、鶏たちが一斉にスタートして走り出した。
鶏って思ったより速いんだな。足が速くなるように品種改良されているのだろうか。
競走馬と同じように、血統とかあるのかもしれない。
鶏たちはコーナーを回って、あっという間に目の前に迫って来た。目の前の正面ストレートをこのまま全力で通過すると思っていたところで、思わぬ事態が発生した。
なぜか、俺たちの目の前に来た鶏から、パタパタと倒れていった。
一体何事だろう。見た目には死んだように見える。
これは、異常事態なのだろう。会場内が騒めいている。
「思った通りになったな」
「ブルドラが何かしたのか!」
「俺様はなにもしていないが、鶏が俺様に気付いて死んだふりをしているな」
「死んだふりなのか?」
「そうだな。あいつら強者に出くわすと、死んだふりをする習性があるのだ」
そんなこと、聞いたことがないけど、異世界では常識なのか。
「そんな話、初めて知った」
チハルが知らないということは、異世界でも常識ではないらしい。ドラゴン限定か?
兎に角、このままブルドラがここにいるとレースが成り立たない。俺たちは急いでその場を離れることにした。
すると、鶏は何事もなかったかのように起き上がり、また走り出した。
騒ぎにはなったが、捕まるような大事にならずに済んでよかった。
「こうなるとわかっていたなら最初から言ってくれよ」
「すまん、すまん。人型なら大丈夫かもと思ったのだが。俺様の強さは隠しきれなかったようだな」
しかし、そういった面では、人より鶏の方が敏感なんだな。
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