第125話 温泉

 俺たちは、帝国に行く途中、連邦のエルナトに寄って観光を楽しんでいた。


 その日は、宇宙船に戻らずエルナトの市街地からほど近い温泉旅館に泊まることにした。

 ずっと宇宙船の中では息が詰まってしまう。温泉でゆっくりできれば息抜きにちょうどいい。


 俺が考えていたのは、温泉でのんびりだったのだが、ブルドラは違ったようだ。


「温泉といえば、芸者にコンパニオンを呼んで宴会だな」

「え、三人で宴会するのか?」

「三人ではない。芸者とコンパニオンを三人ずつ呼べば全部で九人だ」

「芸者とコンパニオン両方呼ぶのか! 呼ぶとしてもどちらかでいいんじゃないか」

「宴会は賑やかな方がいいだろう」

「宴会、楽しみ」


 あれ、チハルも乗り気なのか。なら、仕方ないか。

 俺たちは芸者とコンパニオンを呼び、盛大に宴会を開くことになった。

 まあ、これくらいならリリスに知られても怒られないだろう。


 ブルドラとチハルは大いに盛り上がって、ブルドラは芸者二人とお座敷遊びに興じている。

 チハルは、コンパニオン二人に挟まれ可愛がられている。

 俺の隣にも芸者とコンパニオンがいるが、引きこもりだった俺には、少し敷居が高い。


「はい、チハルちゃん、これ食べて。あーん」

 パク。もぐもぐ。

「おいしい」

「じゃあ、次はこっちね。あーん」

 パク。もぐもぐ。

「これも、おいしい」

「チハルちゃん、可愛いわね。じゃあ、これ飲んで」

 チュウ、チュウ、チュウ。

「ぷはー。ピリピリしておいしい」


「おい、チハル、何飲んでるんだ」

 ストローが挿さったコップには、泡立った飲み物が入っていた。


「ビール?」

「子供がお酒を飲んだら駄目だろう」

「アンドロイドだから平気?」

「そうなのか? その割には喋り方が変じゃないか」

「そんなことない?」


「まあまあ、お子様ビールだから平気よ」

「お子様ビールなのか。って、あれ泡が出てるけど、炭酸飲料なのか!」

「そうよ。お兄さんも、お茶なんか飲んでないで、ビールがいいんじゃない?」


 転生してから今まで炭酸飲料にお目にかかれていなかったが、こんな所にあったとは。


「俺もビールをもらおうかな」

「はーい。ビールですね。さあ、どうぞ」


 トク、トク、トク。


 グラスにビールが注がれ、程よく泡が立つ。


 俺はそれを一気に飲み干した。

 クウー。久しぶりの炭酸が喉に効くなぁ。


「あら、お兄さん、いい飲みっぷり。さあ、どうぞどうぞ」

 空のグラスにビールが注ぎ足される。

 俺は調子に乗ってどんどんビールを呷っていった。


 気がつくと、俺は酔っ払って寝てしまったようだ。部屋で寝かされていた。

 俺に出されたのは、お子様ビールでなく、ちゃんとアルコールの入ったビールだったらしい。

 既に成人している男性だ。ビールと言えば、当然、本物のビールが出てくる。


 転生してからビールを飲んだのは初めてだが、幸い頭が痛くなったり、気持ち悪くなったりはしていない。

 むしろ、少し寝たら酔いも覚めたようだ。これなら温泉に入っても大丈夫だろう。


 周りを見回すと、チハルもブルドラもいない。まだ、宴会で盛り上がっているのだろうか。


「丁度いい、一人でゆっくり温泉に浸かってこよう。確か、貸切露天風呂があったな。そこにしよう」


 俺はフロントに貸切露天風呂の利用を申し出て、一人で温泉を堪能することにした。


 体を流してから、ゆっくりと湯船に浸かる。

「はあー。できればリリスと来たかったな」

「今度、一緒に来ればいい」

「そうだな。そうしよう。って、チハル!なんで一緒に入っている」


「キャプテンが温泉に行くのが見えたからついてきた」

「だからって、一緒に入ることはないだろう。女湯に行け」

「自分だけ貸切なんてずるい」


「そういわれても、混浴はまずいだろ」

「大丈夫、謎の光や湯気で肝心の所は見えない」


「はあー。そうですか。もうどうでもいいや」

 温泉に入ってくつろいでいると、どうでもよくなってきた。

 まあ、チハルなら混浴してもギリギリセーフだろう。


「ブルドラはどうしてるんだ?」

「お姉さん達と二次会」


「一人で六人を相手にしているのか。元気だな」

「ん?四人だけど」

「二人帰ったのか」

「帰ってない。二人は私と一緒」


「え? 一緒って……」


「チハルちゃん、お待たせー」

「やーだー。お兄さんも入ってたの?」

 コンパニオンの二人も入って来た。

 流石に、これはアウトだろう。


「俺は、もう出るから」

「もうー。お兄さん、意識し過ぎよ」

「気にしないで、一緒に入ればいいのに、スケベなんだから」


 ゆっくり温泉に入りたかったのに、俺は、大慌てで風呂を出ることになってしまった。


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