第123話 転生者
ドラゴンが人型に姿を変えたので、俺たちはハルクに乗り込み、ブルドラを迎え入れる。
「お主がセイヤか」
「ブルドラさんでいいのですよね?」
あの巨大なドラゴンが人型になれるなんて、流石は異世界だ。
「フランクにブルドラで構わん。転生前に使っていた名前があった筈だが、昔過ぎて忘れてしまった」
「じゃあ、そうさせてもらうが、ドラゴンって転生するんだな」
「ドラゴンだから転生したわけじゃない。転生前は人間だった、と思う。転生する時に最強にしてくれと神に願ったら、ドラゴンにされてしまった」
ああ、そうね。そういうところ、神様は結構適当だよね。
俺も魔力に極振りしたら、魔法が使えなかったし。自業自得とはいえ、ちょっとは注意してくれてもいいと思うんだよね。
「それだけならまだしも、この星で目覚めてみれば、ドラゴンは俺様しかいないじゃないか。俺様最強でハーレムを夢見ていたのに、なんて所に転生させやがるんだ」
「それは災難だったな。でもそうすると、転生前はこの星に住んでいたわけじゃないんだな」
「そうだな。この星はセレストといったか。少なくともこの星じゃなかった。元いた星の名は……。それも忘れたな」
ドラゴンって物忘れが酷いのか? それともそれだけ長い時間生きていたのか。
記憶がハッキリしないとなると、もしかすると、俺と同じように異世界から来た可能性もあるのか。
「ところで、そっちの女の子二人はなんだ」
「ああ、そうだ。エイリアンのステファとアシスタントのチハルだ」
「エイリアンじゃないわよ。シリウスから来たステファニアよ。ステファでいいわよ」
「アシスタントのチハル」
「シリウス? 確かどこかで聞いた覚えが……」
ブルドラは人差し指で頭を何度も突く。刺激を与えれば思い出すのだろうか。
「そうだ、シリウスといえば、俺様を転生させた女神じゃなかったか?」
「確かにシリウスは女神様の名前よ」
そういえば、俺を転生させた神様はなんて名前だったのだろう。女神ではなかったからシリウスではないだろうけど。
「それで、他の星に連れて行けということだったが」
「そうだ、他のドラゴンがいる星に連れて行って欲しい」
「それは依頼ということでいいのかな」
「依頼?」
「ああ、一応、宇宙船で稼ぐ個人事業主なもんで」
「そうか、なら依頼としよう」
「では、報酬はドラゴンの角でお願いする」
「角か……。それは無理だな。角がなかったら女にモテない。ハーレムを作るために女がいる所に行くのに、それでは本末転倒だ」
「角がないと女性にモテないのか?」
「ドラゴンは女を奪い合って争った時に、負けると相手に角を取られてしまうのだ」
「角なしは負け犬ということか」
「その通りだ。それだけ角は大事ということだ」
さて、困ったぞ。角を手に入れるのに、どうしてもブルドラさんを倒さなければならないのか……。
「キャプテン、別に他のドラゴンの角でもいいのでは?」
「チハルの言うとおりだ! 報酬は、ブルドラが倒したドラゴンの角でいいぞ」
「なるほど、ハーレムを作ろうと思ったら、何匹もドラゴンを倒すことになるだろうからな。一つくらいくれてやろう」
「それでは交渉成立ということで。それで、どこに行けばいいんだ?」
「いや、俺様は知らんぞ?」
「ドラゴンがたくさん住んでいる星を知っているんじゃないのか?」
「知らん! だいたい俺様はこの星から出たことないからな。知る訳がないだろう」
「それは困ったな。目的地がわからないと……。そうだ。ステファならドラゴンがどこにいるか知っているんじゃないか?」
なにせ、自称ドラゴンチェイサーだからな。
「私? 私も詳しく知らないけど、帝国にはドラゴンパークという星があるそうよ」
「パーク? 動物園みたいな感じなのか」
「保護区みたいな所だと思うわよ」
「保護区か。そうなると、そこからブルドラさんの嫁をたくさん連れ帰るのは難しいだろうな」
「俺様は別にここに帰って来なくても構わないのだが」
「そうなのか。それならドラゴンパークに行ってみるか」
「ちょっと待って! ブルドラさんが行っちゃったら、この星のドラゴンが絶滅しちゃうわよ」
「それってまずいのか?」
食物連鎖の頂点がいなくなってしまったら、生態系に影響が出るだろうか。
「まずいわよ!」
「やっぱり、そうなのか」
「私がすぐにドラゴンに会えなくなるじゃない」
真面目に考えていた俺が馬鹿だった。ステファの言うことを信じてはいけない。
とはいえ、絶滅してしまうのも、確かにまずい気もする。
「ブルドラの代わりにこっちに来てくれるドラゴンがいるかな?」
「それは、交渉次第ではないか」
「そうだな。着いてから考えることにしよう。それで、そのドラゴンパークは帝国のどこにあるんだ?」
「??? さぁー」
「さあー。ってステファは知ってるんじゃないのか?」
「噂を聞いたことがあるだけよ。本当にあるかもわからないわよ」
「……」
ステファの言うことを信じてはいけない。
「噂があるなら、帝国には行って確かめてみればよいではないか」
「それしかないかな……」
帝国にはあまり行きたくなかったが、仕方がない。帝国に他に知り合いはいないし、訪ねてみるか。
俺は気乗りしなかったが、帝国の将軍に会いに行くことにした。
「ステファ、それじゃあ、ちょっと帝国に行ってくるからと、リリスに説明して来てくれ」
「え、リリスさんを置いて、このまま行く気なの?」
「大公に、ドラゴン退治は危険だからリリスを連れて行っては駄目だ、と釘を刺されているんだ。これ以上大公の心情を悪くできないし、かといって、リリスに会えば、連れて行けと言われるに決まっている。俺はリリスに頼まれたら断れない」
「そうか……。そうね。リリスさんは一緒に行くと譲らないでしょうね」
「そういうわけだからよろしく」
「わかったわ。そういうことなら、言ってきてあげる。少し待っててね」
ステファはシャトルポッドに乗ってリリスの元に向かった。
よし、邪魔者は消えた。
「チハル、急いで帝国に向けて出発だ」
「ステファは?」
「ステファは置いていく、大使なんだからセレストを離れて、帝国なんかに連れて行けるわけがないだろう。それに、ステファはトラブルの元にしかならない」
「了解。すぐに発進準備する」
多分、ステファにはリリスの説得は無理だ。リリスと一緒に戻ってくることになる。
そうなればリリスも連れていかなければならなくなる。
俺としてはリリスを連れていきたいところだが、大公の手前そういうわけにはいかない。
なんとしてでも大公の許しをもらい、リリスと結婚を決めなければ。そのために、今は我慢だ。
「なんだ、行くのはこの三人だけか? 色気が足りんな」
「ドラゴンパークに着けば好き放題なんだから、それまで我慢してくれ」
「仕方ないな」
「キャプテン、発進準備完了」
「では、帝国に向けて出発だ」
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