第117話 ちょっと前カイトは、バッタ討伐

 俺は、マーガレット嬢の指名依頼を受け、バッタ退治のためフルド辺境伯領に来ていた。


 バッタといっても、地上にいるバッタと違い、体長は一メートルにもなる巨大な虫だ。

 雑食性で、岩や金属でも食べてしまう厄介者である。

 全身が金属の鎧のようになっていて、宇宙船のビーム砲でもなければ退治することはできない。

 それが集団で襲ってくるのだ、注意していないと、宇宙船に乗っていてもやられることもある。


 俺は、マーガレット嬢から武器の提供を受けたこともあり、危なげなく討伐数を伸ばしていた。

 これもセイヤに紹介してもらったおかげである。感謝、感謝。


 そんなことを考えながらバッタを退治していると、当の本人であるセイヤから通知があった。


「なになに。秘密兵器を送ったから受け取ってくれ。だと」

 秘密兵器? 何のことだ?


 疑問に思ったが、セイヤからの通知なので、指示された場所まで行ってみることにした。


 指示された場所は、トラペジウムと呼ばれる、新しく星が生み出される、四重星とガス物質が渦巻いている難所であった。


「おいおい、まさか、ここを横切ってくるんじゃないだろうな?」

 この船では、とてもではないが無事に通過できそうにない。


 暫く待っていると、トラペジウムの中心付近から、明らかに難破船であろう貨物船が現れた。

 あれが、秘密兵器なのか?

 貨物船は巨大ではあるが、秘密兵器らしい武装をしているわけではなかった。

「それとも貨物として積んでいるのか?」


 だが、近付いてみると、貨物船の周りを四つの球体が回っていた。

「何だ、ありゃ!」

 不思議に思っていると、通信が入った。


『カイト、こちらチハル』

「やあ、チハルちゃん。まさか、貨物船に乗ってるの?」


『いえ、今はプロキオン』

「そんな遠くからよく繋がるね」


『ハルクとオメガユニットがリンクされている』

「オメガユニット? 貨物船のことかい」


『それではなく、周りを飛んでいる球体』

「ああ、球体の方ね。もしかして、それをリモートで動かしてるのかい」


『そう。オメガユニットをリモートで操作して、貨物船を牽引してきた』

「それは随分と器用だね」


『作戦を伝える』

「作戦?」


『秘密兵器によるバッタ殲滅作戦』

「殲滅作戦か。期待していいのかな?」


『画期的な作戦。期待していい』

「そうか。それで内容は?」


『貨物船には廃棄予定の食品が積まれている。それを散布しバッタを誘き寄せる』

「なるほど」


『集まったバッタを一網打尽』

「ほう。それで」


『それで終わり』

「それで終わりって、どうやって一網打尽にするの。簡単にはできないよ」


『任せて、簡単。そのための秘密兵器』

「本当に任せて大丈夫なの?」


『大丈夫。ここまで来るのが大変だった。ここまで来れば九分九厘成功』

「まあ、あそこを抜けて来たならそうだろう」


『ちなみに、九分九厘は、9.9パーセント』

「それ、全然高くないじゃん!」


『今のは冗談。九分九厘は0.99。つまり、九九パーセント』

「冗談言うんだ……」


『それじゃあ、バッタのいる所まで先導よろしく』

「わかった。じゃあ着いてきて」


 俺は、オメガユニットと貨物船を誘導して、バッタの生息地に向かった。


 バッタの生息地に着くと、貨物船からコンテナごと積荷を下ろすと、そのままぶちまけた。

 中身は救援物資の食料品だった物で、今は、乾燥して干からびていた。

 それでも、バッタにとってはご馳走だったようで、瞬く間に餌に群がった。


「チハルちゃん。作戦通りにうまく集まったけど大丈夫なの?」

『問題ない。今から殲滅する。後ろに下がって』


 俺は貨物船の後ろまで船を移動させた。


「チハルちゃん、オッケーだよ」

『それじゃあ、いく。レンジ角四十五度。ビーム砲発射』


 四基のオメガユニットが連携して放ったビーム砲は、艦隊の集中砲火に匹敵した。

 あれだけいたバッタたちが、瞬く間に蒸発してしまった。


「凄い威力だな。あっという間か!」

 流石は秘密兵器というだけのことはある。


 だが、バッタ退治はそれだけでは済まなかった。

 バッタたちはいくつかのグループに分かれていたからだ。

 俺は、貨物船をそのグループに誘導し、同じことを後三度繰り返すことになった。


「よし、これで全てのバッタを殲滅できたはずだ。チハルちゃん、ご苦労様」

『オメガユニットの長距離センサーに巨大な影がある。なに?」

「巨大な影? どっち方面」

『星域外方面、六時の方向」


 星域外といえばバッタたちがきた方向だ。新たなグループだろうか。

 俺はそちらの方を確認する。


「何だありゃ!」

『なに?』

「巨大なバッタだ」

 目測で、全長数キロメートルに及ぶ巨大なバッタ。王様バッタだった。


「あんなのどうするんだ?」

『大丈夫。オメガユニットは無敵』

「そうはいっても、サイズが違いすぎるだろう」

『問題ない。引きつけて一撃』

「本当に大丈夫なのか?」


 チハルちゃんが操作するオメガユニットが、王様バッタに向けて飛んでいった。


『ビーム砲発射用意。レンジ角ゼロ。集束攻撃。発射』


 オメガユニットから放されたビームは、一直線に王様バッタを貫いた。

 土手っ腹に大穴を開けられ、王様バッタは呆気なく亡くなってしまった。


「本当に一撃かよ」

『これで任務完了』


「ああ、お疲れ様」

『キャプテンからカイトに伝言』


「セイヤから?何かな」

『オメガユニットをシリウスまで運んでもらいたい』


「シリウスまで? バッタ退治も終わったしいいけど。チハルちゃんがリモートで操作すればいいのでは」

『それは無理。航路を無人で航行するわけにはいかない。それに、途中で魔力が切れる』


「ああ、そうか。そりゃそうだな。てことは、途中で魔力を充填しながらいかなきゃならないか」

『代金はバッタ退治の報酬を折半した分から払う』


「まあ、それが妥当か。わかったシリウスまで持っていくよ。貨物船はどうする?」

『それは、フルドで預かってもらう』


「了解。それじゃあシリウスで」

『待ってる』


 俺は、秘密兵器オメガユニットを持って、シリウスに向かうことになった。

 しかし、こんな物を持ってるなんて、セイヤは本当に何者なんだ。

 もしかして、これでシリウス皇国と戦争でもする気か。

 そうなると、戦争の片棒を担ぐことになるが、乗りかかった船だ。覚悟を決めることにしよう。


 十日後、俺はシリウスに到着するのだった。


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