第118話 さらば

 シリウス星の衛星軌道上、俺は第一王女が率いる百隻近いシリウス皇国軍と対峙していた。

 敵の次元魔導砲により、一時的に機能停止してしまったこちらは、絶体絶命のピンチであった。

 そこに救世主であるカイトが、オメガユニットを持って到着した。


「アマンダルタ、これで形勢逆転だ」

『援軍が一隻来ただけで随分と余裕だな』

「一隻ではない。オメガユニット四基だ」


『オメガユニットだと!』

「マゼンタ教授から聞いているだろう。昔の皇女が危険すぎると封印した最終兵器だ」

『どこに隠していた!』

「切り札は最後まで隠しておくものさ」


『全艦、あの球体を狙え、ビーム砲発射!』


 百隻近い敵艦の一斉砲撃がオメガユニットを襲う。

 オメガユニットのシールドが黒く染まっていき、中の様子を見れないほどだ。

 普通なら、ビーム砲を受けるとシールドが虹色に輝くのだが、それだけ攻撃が集中していることなのか。


「チハル、あんなに集中攻撃を受けて大丈夫なのか?」

「大丈夫、オメガユニットは、次元シールドを応用したシールドを備えている。ビームは全て異次元に受け流しているから、いくら攻撃を受けても全く問題ない」


 成る程、それで、虹色に光らないで、黒く染まっていくのか。


「アマンダルタ、諦めて降参したらどうだ?」

『何をいう。まだ、次元魔導砲がある』


「それは連射できないだろ。こっちのオメガユニットは四基だぞ。勝ち目はないだろう」

『連射できないのはそっちも同じだろう。物量ではこっちが勝る』


「いや、俺がいれば連射できるぞ」

 俺がいれば、魔力が切れることはないからな。


「それに、次元魔導砲オメガなら、一発で用が済む」

『ほう。やれるもんならやってみろ』


「降参しないんだな。仕方ない。チハル、次元魔導砲オメガ発射用意」

「次元魔導砲オメガ発射用意」

 オメガユニットがテトラフォーメーションを取る。


「準備完了」

「次元魔導砲オメガ発射!」

「発射」


 オメガユニット前方の空間が、涙の形に沈んで見えた。

 敵の砲撃が一斉に止み、敵艦隊は完全に沈黙した。


 ノーマルの次元魔導砲は直線状に被害があるのに対して、次元魔導砲オメガは、射程内にある全てに対して被害が及ぶ。

 つまり、魔導ジェネレーターだけでなく、艦内の全ての魔道具にも被害が及ぶのだ。


「第一王女が乗るベーターから発光信号」

 どうやら通信機もいかれたようだ。


「なんだって?」

「こんなことして、タダで済むと思うな」


「この状況で、よく強気でいられるな……」

「戦力差を思い知らせる必要がある」

「といってもな。無防備な敵を撃ちたくないぞ」


「なら、あの月を攻撃してみたら。あれなら無人だし、標的には丁度いいんじゃない?」

「ステファがいうなら、それでいいか。責任はステファが取ってくれればいいし」

「え、私? そんなの嫌だよ」


「チハル、衛星に照準、ビーム砲発射!」

「無視しないでよ。私、責任なんて取れないよ」

「了解。発射」

「ああ、待って、待って……」

「もう遅い!」


 テトラフォーメーションによって集束されたオメガユニットのビームが衛星に向けて発射される。

 次の瞬間、ビームを受けた衛星の半分程が吹き飛んだ。


 これ、地上に向けて撃てば、小さな大陸の一つくらいは消し飛ぶだろう。


「あ、あ、月がー。リアル三日月になってるよ。どうしよう!」

「今更、どうしようもない。さて、アマンダルタはどうでるかな」


「発光信号が来た。無条件全面降伏」

「じゃあ、こう返してくれ。俺はセレストに帰る。追って来るな」

「了解。打電する」


「さて、それじゃあセレストに帰るとしますか」


『おーい。俺はどうしたらいいんだ?』


 あ、カイトのこと忘れてた。

 このままここに残していくのはまずいよな。


「カイト、助かった、取り敢えず、ハルクに着船してくれ」

『わかった』

「チハル、カイトを格納庫に着船させる」

「了解」


 カイトのジェミニスIIを収容した俺たちは、トラペジウムを目指してシリウスを後にするのだった。


 一週間後、俺たちはトラペジウムに到着していた。

「ここがトラペジウムか。いかにも難所といった感じだな」

「セイヤ、ここを抜けるのか? いくらなんでもやめたほうがいいぞ」

 俺とカイトはブリッジのスクリーンに映し出されるトラペジウムの様子を眺めていた。

 結局カイトはあの後ハルクに乗船したままだ。


「まあ、抜けるといえば抜けるんだが、連邦に行くわけではないんだ」

「トラペジウムの反対側は連邦だろう。連邦以外どこに抜けれるというんだ」

「セクション4に抜ける」

「ここはセクション2だぞ、なにいってるんだ?」

「まあみてろって!」


「キャプテン、準備は完了している」

 既にオメガユニットは、ハルクを中心にテトラフォーメーションをとっている。


「それじゃあ始めるか。次元魔導砲オメガ発射用意」

「次元魔導砲オメガ発射用意。完了」

「次元魔導砲オメガ集束発射!」

「集束発射」


 オメガユニットから一点に向けて次元魔導砲オメガが放たれる。



「あれは?」

「ゲートだよ。チハル、発進」

「ゲートに進入する」


「大丈夫なのか?」

「大丈夫だろう。向こうからは来れたんだから」

「貨物船はここから来たのか……」

「そうだぞ」


 ゲート特有の歪んだ感じになり、世界が単色になっていく。


「気持ち悪い」

 聖女はまだ慣れないようだ。

 ハルクはゲートの中の異世界を進んでいく。


「チハル、どの位かかる?」

「あと少し、あそこ。あそこに穴を開ける」

「よし、じゃあやってくれ」

「了解」


 再び、次元魔導砲オメガを一点集中で発射する。

 そこに現次元に抜ける穴が開いた。

「よし、外に出るぞ」


 ゲートを抜けると、歪んでいた世界が元に戻り、単色の世界も色づいたものに変わる。

「現在位置は?」

「セレストからワープ4で五日の地点」


「よし。予定通りの場所に出たぞ」

「ということは、ここはセクション4なのか?」

「その通りだぞ、カイト。セクション4だ」


「それじゃあ、ここでお別れか……」

「そうだな。この周りは、レアメタルが多いから拾っていくことをお勧めするよ」


「そうか、なら、セイヤもドックに売りに来るんだろ、また会えるな」

「そうだな。お互いに頑張って稼ごうぜ」

「おう。それじゃあな!」


 カイトとはここで別れることにした。セレストまで連れて行っても何もないから意味がない。

 ここで分かれた方がドックまで近い。

 俺と違って、魔力がタダでないカイトにとっては重要だ。


 レアメタルを拾っていくカイトを残して、俺たちはセレストに向かう。


 そして五日後、俺たちは無事にセレストに帰り着くのであった。


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