第116話 ハルク vs ハルク

 ハルクに戻った俺は、急ぎ出発の準備に入る。


 交渉は決裂だ。それならこんな所に長居は無用。さっさとトンズラするのに限る。

 その後、この国がどうなろうとも俺の知ったことじゃない。

 まともに交渉しようとしなかった国王が悪いのだ。


 全員の乗船を確認すると、セレストに帰還すべくハルクを発進させる。


 全員? あれ。

「ステファ、なんでお前も乗っている」

「え? 当然私もセレストに行くけど」


「ステファは残った方がいいんじゃないのか」

「いやよ、そんなの!」

「はあー。まあいいか」


 敵が、ステファを取り戻しに来るかもしれないが、敵はセレストの位置を知らない。逆に、セレストの位置を知っているステファを残して行くよりも、連れて行った方が安全かもしれない。

 それに、連れ戻しに来る者がいれば、引き渡していい約束になっていたはずだ。


「キャプテン、針路を塞がれた」

「なに、初動が早いな。躱せるか?」

「やってみる」


 チハルはデルタとシンクロし、淡く輝く。

 これを見るたびに、チハルがアンドロイドであることを実感させられる。


 チハルの操船により針路を塞いだ艦の横をすり抜ける。

 しかし、邪魔してくる艦は一隻ではなかった。逃亡に備えて、予め配置されていたのであろう、次から次へと敵艦が現れてくる。


 チハルはそれをすんでのところで避けていく。まだ、攻撃を受けていないから、無傷のままこちらを止める気でいるのだろう。


「キャプテン。前方にカエデとモミジ」

「しまった! 誘導されたか」


 カエデとモミジは防御特化型で広域シールドにより艦隊を護ることができる。だが、逆に、広域シールド内に敵船を捕獲することもできるのだ。


「カエデとモミジが広域シールドを展開」

「セイヤ、どうするのよ。このままじゃ捕まっちゃうわよ」


 ここから逃げ出すには、方法は二つ。

 次元魔導砲で、カエデとモミジを機能停止させるか、次元シールドで、異次元に逃げ込み、広域シールドを抜け出すかだ。


 ハルクの次元魔導砲では、一度に一隻しか機能停止にできない。となると、次元シールドの方がいいか。


「次元シールドで敵艦から隠れて進もう」

「了解。次元シールド稼働」


 歪むような独特な感じに包まれ、異次元に潜行する。


「このまま潜航して広域シールドを抜けるぞ」

 次元シールドは魔力の消費が激しい。使用するのは三十分が限度だ。その間に包囲網を突破しなければならない。


「キャプテン、広域シールド突破」

「よし、まだ、時間はあるな。このまま敵の包囲網も抜けてしまおう」


 包囲網を突破してしまえば、後は、無補給で逃げることができる。簡単には追いつかれることはないだろう。


「キャプテン、後方から、敵艦が急速に接近中」

「こちらの位置を捉えているのか」

 異次元を潜航中のこちらを見つける方法があったのか?


「あれは、ハルク1000B! キャプテンまずい!!」

 珍しくチハルが慌てている。


「どうした。1000Bということは、プロトタイプのベーターだろ」

「あれには、次元シールドはないが、次元魔導砲は装備されている」


 次元魔導砲は、異次元との壁に亀裂を生じさせ、異次元の高い魔力を噴出させることにより、魔導ジェネレーターをオーバーロードさせる兵器だ。


 異次元との壁に亀裂が入れられるということは、異次元を潜航中のこちらも攻撃できるということか?


「やばい!」


 気付いた時には、ベーターから次元魔導砲の攻撃を受けていた。


『魔導ジェネレーターが過負荷により、停止。次元シールドが維持できません』


 デルタの警告直後、俺たちは異次元から放り出されるように、現次元に引き戻された。

 最悪、異次元でシールドが消えれば、船ごとぺちゃんこになりかねないところであったが、それなりの安全装置が働いたのだろう。強制的に現次元に戻された感じだ。


『魔導ジェネレータークールダウン中。再稼働可能まで十分』


 幸い、魔導ジェネレーターは壊れるまではいかなかったようだ。ただ、十分間は無防備となってしまった。

 何とかその間時間を稼がないと。


「チハル、ベーターに通信を繋げ」

「了解」


 スクリーンに第一王女が大写しに映し出された。


『セイヤさん、降参か?』

「アマンダルタ。君か。どうしてこちらの場所がわかった?」

『あの後、対策を考えていたからね。次元の歪みを感知する道具を、マゼンタ教授から借りておいたまでさ』


「わざわざ、ベーターまで用意したのか」

『この船はまだ現役だったさ。アルファは博物館に展示されているが」


「しかし、次元シールドが破られるとは、やられたよ」

『秘密兵器はここ一番で使わないとな。秘密でなくなったら対策されてしまう』


「そのとおりだな。あそこで君に次元シールドを見せたのは間違いだった」

『まあ、あの場では仕方なかっただろう』


「そうか、なら、ここは新たな秘密兵器を出すべきだと思うか」

 言葉に気を付けないとな。相手は嘘が見抜ける。


『そんな物があるのか?』

「さあ、どうだろう。あるといえばあるし、ないといえばない」


『なんだ、その答えは。ああ、時間稼ぎをしているのだな』

 チッ、バレたか。


『そんなことをしても無駄だぞ。無傷で捕まえようと思ったが、仕方がない。ビーム砲用意』

 魔導ジェネレーター復帰まで、まだまだじゃないか。何か手はないか。


「キャプテン、ワープアウトしてくる」

「秘密兵器が間に合ったようだぞ」

『なに?!』


『お待たせ。間に合ったか?』

「カイト、時間ぴったりだ!」


 ワープアウトしてきたのは、カイトのジェミニスII、に先導された、オメガユニットであった。

 これで、形勢逆転だ。


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