第115話 結婚式
皇王への就任式が終了し、引き続き俺の結婚式となる。
国王はステファと結婚させる気でいるが、花嫁として入場して来たのは、ベールで顔を隠したリリスである。
ついでに、神父はタマさんが化けている。まあ、タマさんは巫女だし、問題ないだろう。
「それでは、新郎と新婦は前に」
俺とリリスは祭壇の前に並ぶ。
「新郎は、健やかなる時も病める時も……。何だっけ?」
「おい!」
「新郎は、新婦を愛してますか?」
「はい」
「新婦は、新郎を愛してますか?」
「はい」
「それでは、二人を夫婦と認めます」
おい、随分とはしょったな。タマさんに任せたのは間違いだったか。
「では、誓いの口付けを」
「え?」
「口付けをどうぞ」
聞いてないぞ。リリスと口付けするなんて。
予定になかったことに焦ってしまったが、リリスを確認すると、落ち着いた様子である。
これは、このまま、キスしていいということだろうか。
リリスを見つめると軽く頷いた。
俺は、意を決してリリスの唇に軽くキスをする。
リリスの目尻に涙が浮かんでいる。
嬉し涙だよな? そうであってくれ……。
俺が焦っていると、リリスは微笑み「うれしいです」と囁いてくれた。
さて、ちょっとしたサプライズがあったものの、ここまでは計画通り。ここからは、大どんでん返しだ。
「皇王様、ステファニア。ご結婚おめでとうございます」
「国王陛下、祝福をありがとう。だが、俺の嫁は、ステファではない。リリスだ」
「なにをおっしゃいます。皇王様、今、ステファニアと誓いの口付けをされたばかりではないですか」
「いや、この俺の嫁はリリスだぞ。よく見ろ。ステファなら、観客席に座っている」
「なんだって?!」
聖女のふりをしていたステファがベールを取る。
そして、新婦のリリスもベールを取る。
「リリスが二人?」
「ああ、あそこに座っているのは、聖女のララサだ」
ステファの隣にはララサが座っている。リリスとララサは双子だからな。国王には区別がつかないだろう。
「騙したのか!」
「騙したのはどっちだ!」
突然の事態に、参列者がざわつきだした。
「皆の者、よく聞け、ここにいる国王は、皇王である、俺に暗示を掛けて操り人形にしようとした」
「そんなの嘘だ!」
「嘘と言うのか。では、実行犯の第三王子に聞いてみよう」
俺は、第三王子を手招きして、呼び寄せる。
「第三王子、俺に暗示を掛けようとしたな。誰の指示だ!」
「はい、父上と宰相の指示で暗示を掛けようとしました」
「暗示を掛けたのは俺だけではないな」
「はい、リリスさんと、ステファ姉さんに掛けました。ステファ姉さんには以前から」
「国王と宰相。言い訳はあるか!」
「弟に何をした!」
国王でも宰相でもなく、第一王女が声を上げた。
「俺は何も。自分の暗示に自分で掛かっただけだ。俺は、魔力が高いから、暗示や呪いは跳ね返してしまうんだ。残念だったな」
「弟は大丈夫なのか?」
「どんな暗示を掛けたのか知らないが、従順に人のいうことを聞くようになっただけだろう」
「そうか。チャールス、こっちに来い」
第三王子は第一王女の元に駆けて行く。第一王女は第三王子を抱き寄せる。
「皇王の言っていることは本当なのか?」
「はい、姉上」
「そうか……」
「さて、皇王として宣言する。現国王は罷免。新しい国王は第二王子とする。新国王任命後、宰相も罷免になるだろう。心しておけ」
第二王子は突然の指名にキョロキョロしている。マーガレット嬢は伝えていなかったのだろうか?
「そんなことが認められるか!」
「認められるさ。俺には国王を任命し、罷免にする権限がある。先程交わした契約書のここにちゃんと書いてあるぞ」
「お前は、そんな権利要らないと言ったじゃないか!」
「ああ、言ったな。それで話がついたはずだったのに、なぜ、契約書に書いてある?」
「それは、手違いで……」
「手違いで契約書を間違えたのか?」
「うむ、その通りだ」
「では、正しい契約書で、契約し直そう。だが、それまでは、これが有効だ」
「えーい。衛兵、そいつを取り押さえろ!」
「取り押さえられるのは国王、あんたの方だ!」
衛兵が、どちらの命令を優先すべきか迷って右往左往している。
「何を迷っているの、皇王様はご乱心だ、取り押さえなさい!」
第一王女が声を張り上げた。
第一王女の命令で、殆どの衛兵はこちらに銃を突きつけた。
「アマンダルタ、俺に銃を向けるのだな。後悔することになるぞ」
「どのみち、ここであなたを捕まえなければ弟は終わりだ」
「まだ、子供だとはいえ、王位にはつけなくなるだろうな」
「あなたを捕まえれば、まだ、何とかできる可能性がある」
「簡単に捕まえられると思うなよ」
バン。
その時、礼拝堂の扉が開かれ、民衆がなだれ込んできた。マーガレット嬢の仕込みである。
「時間バッチリ。それじゃあ、俺は逃げるから。後は勝手にやってくれ」
「セイヤさん。待ちなさい!」
第一王女の制止の声を無視して、俺はリリスの手を引いて、群衆に紛れ込んで礼拝堂から脱出する。
お姫様抱っこで逃げられればカッコよかったが、この群衆では無理だ。それに、群衆がいなかったとしても俺の体力では五メートルが限度だろう。
それを考えると、群衆がいてよかったともいえる。
群衆の中を、手を引き合って逃げる恋人同士。それなりに絵になっているだろう。
礼拝堂の外も、沢山の人で溢れかえっていた。
人並みを掻き分け、シャトルポッドにたどり着くと、それに乗ってハルクまで逃げ帰るのだった。
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