第112話 マーガレット嬢

 マーガレット嬢からの連絡を受けて、俺はマーガレット嬢から話を聞くことにした。


「この度は、お忙しいところ時間をいただき、ありがとうございます」

「気にしないでくれ、俺も聞きたいことがあった」


「聞きたいこと? それはどのような」

「それは、マーガレット嬢の用件が済んでからにしよう」


「そうですか……、では、まず謝礼を」

「謝礼?」

「バッタ退治に協力していただきありがとうございました。おかげさまで、バッタを殲滅することができました」

 上手く殲滅できたのか。それはよかった。

 実は、カイトに秘策を授けたのだが、それが戦果を上げたのだろう。それでわざわざお礼に来たのか。


「それはよかった。カイトは元気かな?」

「はい、元気だと聞いています。バッタ退治を終え、こちらに戻って来るそうです」

「そうか、就任式までにはこちらに来れるといいが……」


「次に、これはお耳に入れておいた方がよろしいかと思いまして」

 用事はお礼だけではなかったようだ。むしろ、これからが本題か。


「なんでしょう?」

「ステファニア殿下のことなんですが……」

「ステファがなにか?」

「実は彼女は幼い頃より暗示に掛けられています」


「それは、ステファは洗脳されているということなのか?」

「洗脳と呼べるほどのものではないのですが、暗示という魔法により、操られています」

 洗脳でも暗示でも、人を操るなら大した違いはないが。また、厄介なことになったぞ。


「それを解くことはできるのですか?」

「長年刷り込まれたものですとすぐには難しいですが、時間をかければ効果は薄くなります」


「完全に消すことは難しいですか?」

「掛けたのと同じ時間をかけて、逆の暗示を掛ければ完全に消せますが」

「そうですか」


 ステファは裏切らないと言っていたが、ステファからこちらの情報は筒抜けだと思った方がいいな。


「それで、誰がステファに暗示を掛けているかわかっているのですか?」

「それは、今は、第三王子です」


「第三王子が暗示の魔法を使えるのですか?」

「はい。セイヤ様も十分に注意してください」


「わかりました。注意することにしましょう。それで、今は、ということは、以前は他の人が?」

「宰相の指示で子供の頃からそば仕えが」


「宰相の指示なのですか……。しかし、このこと、俺に喋ってしまって大丈夫ですか?」

「私は今回、セイヤ様につくことにしました」


「何のことでしょう?」

「国王と対立することになりますよね?」

「情報が早いですね」


「日頃から備えていますから」

 先程、国王との会談が終わったばかりだというのに、マーガレット嬢は余程優秀な情報網をお持ちのようだ。


「で、俺について何が欲しいのですか。王妃の座ですか?」

「はい。その通りです。第二王子を国王に」

 おやおや、これは、これは。第二王子にはまだ会っていないが、そんな野心家だったのか。


「ほう。それは、第二王子の意思ですか?」

「いえ、マクレスはまだ知りません。私が望んだことです」

 野心家はマーガレット嬢の方だったか。第二王子との婚約もそのためか。


「マクレスは王子なのに誰からも相手にされていないのです。まるで空気のように、いてもいないもののように扱われるのです。

 私にはそれが我慢できません。

 愛するマクレスを王にして、みんなに認めさせたいのです」

 あれ? 野心家でなく、恋人想いなのか……。これは意外だった。


「だが、そうなると国は荒れるだろうし、国王も大変でしょう」

「私が支えます!」

 マーガレット嬢の決意は堅いようだ。


「辺境伯もその気なのですか?」

「お父様は駄目です。マクレスのこと、影が薄いとか言って、私との仲を反対するんです。マクレスの凄いところを見せつけて、後悔させてやります」

 親子喧嘩に周りを巻き込まないでもらいたいものだが。


「まあ、ですが、今後の国王との話し合いでどうなるかわかりませんよ」

「国王は、セイヤ様に暗示を掛けて、ステファニア殿下と結婚させる気です」


「そうですか。マーガレット嬢に聞きたかったのは、国王が何を企てているか、だったんですが、これは全面戦争だな」


 国王がそのつもりなら、俺は、この国がどうなっても構わない。


「マーガレット嬢、貴重な情報ありがとう。希望に添えるように善処するよ」

「はい。私も全力で協力します」


 リリスとの愛を守るため、俺は戦うのみだ。


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