第113話 その頃宰相ゲイルは、就任式

 国王陛下と皇王候補の最初の会談から四日経った。

 いよいよ明日は皇王の就任式だ。

 ステファニアには順調に暗示がかけられている。

 第三王子には、なんとしても、今日中に皇王候補にも暗示を掛けてもらわないと。


「セイヤ様、寝不足ですか」

「ゲイル殿、明日の就任式に向けて、緊張しているのでしょうか。最近寝付きが悪くて」

 それは、きっとここで炊かれている香のせいだな。後、もう一歩か。


「糖分が足りてないのかもしれませんよ。飴ちゃんをどうぞ」

「チャールス殿下、かたじけない。殿下は物知りなのですね。では失礼して」

 皇王候補は第三王子に勧められて、なんの疑いもなく飴を受け取り、口に入れる。


「そんなことはありません。姉上に比べれば、まだまだです」

「まだ、八歳ですよね。とてもそうは見えましぇん。あれ、何か目の前がぐるぐると」

「それはいけません。そこにお座りください」

 第三王子が上手く薬入りの飴を舐めさせたことにより、意識が朦朧として来たのだろう。


「ありぃりぇ。へんじゃにゃ」

「横になった方がいいでしょう」

「しょうですねぇ」

「部屋を用意させますから、今夜はそこでお休みください」

「しょうしましゅ」


 よし、これで後は第三王子に暗示を掛けさせればバッチリだ。


 無事、皇王候補に暗示を掛けることに成功し、事は計画通りに進んだ。


 就任式は王都の礼拝堂で行われた。


 皇王が祖先である神に宣誓を行う。

 そして、国王と契約を交わす。


 就任式はそれで終了だ。


 しかし、今回はその後に皇王の結婚式が行われる。

 相手は第五王女のステファニアだ。


 皇王にはリリスという婚約者がいたが、彼女には、会場で二人を祝福してもらうことになった。

 勿論、第三王子殿下が暗示を掛けた。


 結婚式が始まり、会場で彼女の隣に座っているのは聖女だった。

 聖女は、いつもベールを被ったままだ。

 聖女が邪魔するのではないかと、警戒していたが、そんな心配も必要なかった。


 結婚式はつつがなく執り行われ、最後に誓いの口付けが行われる。

 皇王が、口付けに躊躇したようだったが、それも、少しのことだった。

 愛よりも、暗示の効果の方が強かったようである。


 会場は拍手に包まれる。


 この結果に、国王と第三王子は満足そうだ。

 第一王女は怪訝そうな顔を、第四王女は悔しそうな顔をしていた。

 第二王子は……。何だ、あの顔は? いつも無関心のくせに、よくわからん顔だな。

 マーガレット嬢のことでも考えているのか。尻に敷かれているようだし、結婚は人生の墓場だと思っているのかもしれない。


「皇王様、ステファニア。ご成婚おめでとう」

「国王陛下、祝福をありがとう。だが、俺の嫁は、ステファではない。リリスだ」


 チッ。暗示が解けかけているのか。


「なにをおっしゃいます。皇王様、今、ステファニアと誓いの口付けをされたばかりではないですか」

「いや、俺の横にいるのはリリスだぞ。よく見ろ。ステファなら、観客席に座っている」

「なんだって?!」

 国王が驚いて観客席の方を見る。


 私も確認すると、先程までベールを被っていた聖女が座っていたところには、ステファニアが座っている。

 だが、その隣にリリスは座っているぞ。

 皇王の隣の女性を確認すると、その女性がベールを取った。リリス? どういうことだ。


「リリスが二人?」

「ああ、あそこに座っているのは、聖女のララサだ」


「騙したのか?」

「騙したのはどっちだ!」

 国王が怒鳴るが、逆に怒鳴り返されてしまった。


 皇王に暗示が掛かっていなかったのか。

 これはまずいことになった。


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