第111話 その頃宰相ゲイルは、王宮

「いかがでしたか、チャールス殿下」

「上手く暗示はかけられたか」


 皇王候補との会談が終わり、国王の執務室に戻ると、早速、第三王子を呼び成果を確認する。


 国王が言っている暗示とは、第三王子が得意な魔法で、相手の行動をある程度誘導することができるものだ。意志の弱い者なら思うがままに操ることもできるという。


「それが、やはりステファ姉さん以外は無理でした」

「そうか。喜ばせて、気が緩んだところならいけるかもと思ったが、シールドの上からでは難しいか」

「ステファ姉さんのように何度も掛けていれば、シールドの上からでも何とかなるのですが……」


「うむ、そうじゃな。ステファは子供の頃から掛けているからな。掛かりやすさが違うか」


 ステファニアには幼少の頃から暗示が使える側仕えをつけ、こちらに従順になるよう暗示を掛けてきた。

 第三王子が暗示を使えるようになってからは、第三王子に任せていた。

 秘密は、知る者が少ない程よい。


 ステファニアは、暗示のおかげで全く王位や権力に興味を示さなくなったが、その代わり、自由奔放になり、恋愛とお金に興味を持つようになってしまった。

 お金は兎も角、恋愛に興味を持たせてしまったのは失敗だった。

 後から矯正しようとしていたところで、事件が起き、攫われてしまった。

 その後、逃げ出して行方不明になっていたが、戻って来てみれば皇王候補を連れていた。

 全く、どこで見つけて来たのか、言われたことだけをしていればいいのに、困った王女である。


「そうなりますと、シールドを外させる必要がありますな」

「若しくは、意識を朦朧とさせるかじゃが」

「睡眠薬か、香を使いますか?」

 私は薬の使用を提案する。


 薬なら、即死性の毒でなければ、シールドがあっても効果が期待できる。

 即死性の毒はシールドで弾かれてしまう。


 今の世界、シールドがあることで、ほぼ即死することはなくなった。そのため暗殺の心配も少なくなったが、それでもゼロではない。


 安全なのは、シールドがある間に過ぎない。シールドへの魔力が切れてしまえばそれまでである。

 シールドの魔力が切れるまで、飽和攻撃を続ければ相手を殺すことができる。


 だが、これは暗殺の場合は現実的ではない。攻撃をしている間に助けを呼ばれてしまう可能性があるからだ。

 長期的に微弱な毒を盛り、衰弱死させる方法もあるが、どちらにせよ暗殺を行うのは簡単なことではない。


 それに、今回は暗殺が目的ではない。

 皇王候補を暗殺してしまっては、有名人物になってしまっただけに、世間で問題になってしまう。

 それよりも、上手く操れれば、利用価値は計り知れない。


「そうだな、そのあたりは任せるが、誰にもバレないようにやってくれ」

「畏まりました」


「父上、本当に皇王様に暗示など掛けてよろしいのですか?」

「それは前にも言っただろ。皇王の好きにさせれば、お前の姉であるアマンダルタも連れ攫われてしまうぞ」

「そうでしたね……。それは絶対に阻止しないと!」


 第三王子は、大事な第一王女と二週間以上に亘って引き離されたことで、皇王候補に警戒心を持っている。

 それに、今日も、女性ばかりを三人も従えている様子を見て、「姉上を皇王様の毒牙から守らないと」と、考えていることだろう。


 第一王女がこの時期プロキオンに行かれたのは僥倖であった。

 独立の危険性を煽ってやったら、すっ飛んで行った。


 お陰で、第三王子にあることないこと吹き込むことができた。

 いつもは第一王女が警戒していて、こうはいかない。


 第一王女さえいなければ、もっと簡単に第三王子を操れたものを。


 暗示を持っていて、人を操れても、所詮まだ八歳の子供である。上手く誘導してやれば、暗示などなくとも思い通りに動いてくれる。


「姉上を守るため」にと、頑張って、皇王候補に暗示を掛けてもらうことにしよう。


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