皇王就任編
第110話 国王と会談
俺が神楽殿のある社を山ごと浮遊させたことにより、プロキオンにおける独立派の士気は大いに下がり、俺が皇王になったとしても、独立騒ぎが起こることはなくなったとみていいだろう。
浮遊社であるが、風に吹かれて、勝手気ままに大空を漂っている。
古い記録によると、自由に操作できたようであるが、肝心の操作方法がわからない。
今、タマさんのお父さんが古文書を引っ張り出して、必死に調べているようだ。
タマさんの妹のヨーコちゃんもそれを手伝っている。
「浮遊社を手土産にすれば、眷属にしてもらえるはず」
と、言っていたが、俺はいらないからね。
プロキオンでの目的を達成した俺たちは、シリウスに戻ることになった。
行きと違って帰りは極めて平穏な旅となり、トラブルに備えていた俺たちは肩透かしを食らってしまった。
チハルに至っては、刺激が足りないとぶつくさ文句を言う始末である。
シリウスに到着すると、翌日には国王との会談の日取りが決まったと連絡があり、二日後には国王と会談することになった。
国王との会談は、王宮で行われ、こちらからは、俺とリリスとアリアとステファ。国王側は、国王と宰相、それと、第三王子が出席していた。
ステファがこちら側かどうかは、微妙なところだ。
第三王子が出席をしているということは、国王は、第三王子にその地位を引き継がせるつもりなのだろう。
第三王子は、チャールス、プロキオン出身の正妻の子で、今は八歳のはずだ。
プロキオンだけでなく、宰相が後ろ盾になっているという話なので、順当といえば順当である。
「先ずは、第一王子の愚行について謝罪しておこう。申し訳なかった」
国王が頭を下げる。
「第一王子の処遇はどうなります?」
「現在は王族としての地位を剥奪、拘留されています。第一王女が訴えているため、今後は裁判となり、刑が決められます」
「皇王候補、王女二人を亡き者にしようとしたのだ。よくて無期懲役、普通なら処刑だな」
宰相が答えて、国王がそれを補足する。
「そうですか」
第一王女が訴えているとなると、生半可な結果にはならないだろう。
こちらを殺す気で襲ってきたのだ、処刑されても仕方がないな。
「第一王子の件はお任せします。それで、本題ですが、俺は、皇王にはなりたくありません。セレストに対しても不干渉でお願いします」
「それでは困る。少なくとも、皇王には就いてもらい。セレストとは同盟関係を結んでもらいたい。そのためなら、条件は大幅に譲歩しよう」
「そうですか、それでしたらこちらの条件としては……」
俺は、以前に、アダラ星のファーレン侯爵に示した条件を並べていく。
ようは、皇王は名乗るが、何もしない。拠点はセレストとし、リリス以外とは結婚しない。と、いうことだ。
「わかった。その条件全て飲もう。同盟については、二国間で協議するということでいいのだな」
「それでいいです。セレストとの関係は俺の一存では決められないですから」
随分とあっさりこちらの条件を受け入れたものだ。いささか拍子抜けである。
「パレードは中止とのことだが、皇王の就任式は行わせて欲しい」
「まあ、それぐらいは認めましょう。ただし、必要最小限の規模にしてもらいたいですね」
「わかった。それで進めよう」
「それでは、予定通りに、就任式は一週間後に執り行うということで、進めさせていただきます」
早いな。既に準備済みということか。
国王との会談は滞りなく、ほぼこちらの希望通りの内容で終了した。
俺たちは船に戻ると、会議室に集まり、頭を突き合わせていた。
「こちらの希望がほぼ通ったが、話がうま過ぎじゃないか?」
「そうですね。ファーレン侯爵があれ程難色を示していたのに嘘のようです」
「私の時は、意見など一つも聞いてくれなかったのに、違い過ぎますよ」
「怪しいです」
会談に出席していた四人全員が、鵜呑みにしてはいけないという意見で一致した。
だが、何か証拠があるわけではない。全員がそう感じただけだ。
その時、カードに通知が届いた。タマさんからの報告だ。
タマさんは、眷属になってから、律儀に毎日報告を送ってくる。
今までの報告は、夜の決まった時間であったのに、今日はまだ日の入り前である。
何か緊急の報告だろうか。
俺は、報告を確認する。
『今、王宮からスズに、パレードへの出演依頼があった。日にちは一週間後』
先程、パレードは中止ということで話がついたばかりだ。
国王は、約束を守る気はまるでないということらしい。
「ステファ、国王は約束を守る気はないらしいが、お前はどっちにつくんだ」
「え、私? 私はどうしようかな」
「しばらく部屋に監禁だな」
「そんな。酷いよ」
「国王にこちらの様子が筒抜けなのは困る」
「そんなことしないよ。セイヤにつくから、勘弁してよ」
「裏切るなよ」
「わかってるよ」
『キャプテン』
「チハルか、なんだ」
今度は、チハルから船内インターホンで呼びかけられた。
会議室の様子は、ブリッジからモニター越しに確認していただろうから、今、連絡する必要があるとの判断なのだろう。
『マーガレット嬢から連絡が来ている』
マーガレット嬢? 第二王子の婚約者で、フルド辺境伯の娘が何のようだろう。カイトの件か?
『会って話をしたがっている』
今のタイミングということは、国王との会談について何か話があるのだろうか。
話を聞いてみるか。
「チハル、会って話をするから、連絡を取ってくれ」
『了解』
マーガレット嬢なら、国王が何を企てているか、少しは知っているかもしれない。
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