第106話 神楽

 プロキオンに着いて五日後、神楽が行われる日が訪れた。


 その間、俺はプロキオンのあちこちを視察することになった。

 どこへ行っても皇王候補として、知れ渡っており、熱烈な歓迎を受けた。


 まだ、国王との会談も済んでいない状態で、これからどうなるか分からないのに、ほとほと、困り果てた状況だ。


 大公としては、シリウスより先に、プロキオンを視察して回ったことで、皇王がプロキオンを蔑ろにすることはないと示したかったのだろうが、逆に、シリウスの人にとっては気分が良くないだろう。


 俺としても、既成事実を作られて、このまま皇王に祭り上げられるのは勘弁願いたいところだ。


 そんな願いも虚しく、今日の神楽でも、俺は特別席が用意されていた。


 神楽が見やすい中央の、一段高くなった席だ。

 俺と大公が並んで座ることになる。

 俺の横にはリリス。大公の横には第一王女が座っている。


 俺の後ろにはチハルが、リリスの後ろには当然アリアが護衛も兼ねて立つことになる。


 聖女とステファの席は隅の方に用意されていた。

 プロキオンに来てから、聖女とステファの待遇が悪い。

 嫌がらせは受けていないが、扱いが一段、いや、三段ぐらい下だ。

 従者である。チハルやアリアと同じレベルの扱いになっている。

 聖女は兎も角、ステファは王女であるのに。


 ステファにとってはいつものことなので、気にしないと言っていたが、あからさま過ぎないだろうか。

 それだけ、プロキオンではシリウスのことを毛嫌いしているということだろうか……。


 そういえば、ここに来て、初めてヤガトに会った。大公の孫で、第一王女の従兄弟。プロキオン独立派の中心人物だ。


 大公に紹介され、挨拶をすれば、苦虫を噛み潰したような顔をしていた。

 俺が、来ただけで、独立派としては、大打撃だったようだ。


 しばらく待つと、シャラン、シャランと鈴を鳴らしながら巫女姿の女性が三人、神楽殿の舞台裏から現れた。


 三人は、タマさんが舞台の中央に、後の二人が左右に一歩下がった位置に立つと、笛と太鼓の奏でる音楽に合わせて、舞を始めた。

 創世神話をなぞった舞なのだそうだが、その辺は俺にはよくわからないが、なんとも、神秘的な舞である。

 アイドルの衣装で歌うタマさんもいいが、巫女装束はそれとは違った良さがある。

 時々、タマさんが、シャン、シャンと鈴を打ち鳴らしている。


 ネット中継も行われているようで、カメラも数台入っている。舞台脇の巨大スクリーンに別角度のタマさんが大写しにされていた。


「右側の後ろの子は、タマさんに似ていますね」

「あの子はタマの妹で、ヨーコだな。随分と練習したのだろう。タマと比べても見劣りしないな」

「へー。タマさんに妹さんがいたんですか」


「気に入ったなら、妹の方も眷属にして構わないぞ」

「いえ、そういうのは、間に合ってますから」

「そうはいうが、タマモは眷属にしてもらわねば困るぞ」

「それはわかっていますが、それも、本人の希望次第ですね」


 大公とおしゃべりしている間も舞は続いている。

 舞は激しさを増し、いよいよクライマックスだろうか。


 タマさんが、大きく宙に舞った後、静寂が訪れる。

 次の瞬間、観客から大きな拍手が沸き上がった。俺も三人に拍手を送る。


「さて、それでは行くとするか」

 大公が席を立ち、舞台に向かう。

 俺も仕方なく、後に続く。


 大公は、舞台に上がると、控えていた三人の巫女に声をかける。

「見事な舞であった」

「ありがとうございます」

 代表して、タマさんがお礼を述べる。


 大公は、観客の方へ向きを変えると、大声を張り上げた。


「皆の者、今回も無事に舞を奉納することができた。

 だが、今回はこれで、終わりではない。

 聞き及んでいる者もおるかもしれんが、今回は、皇王候補がご隣席くださった。

 特別にそのお力を今からお示しいただける」


「おーお」

 観客から響めきが上がった。


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