第105話 その頃カイトは、そして、マーガレットは

 いろいろあって、アイドルグループ猫耳カルテットのキャラバン船の運転手をクビになった俺は、退職金代わりに壊れた宇宙船を手に入れた。

 また、無職になってしまったわけだが、さて、これからどうしたものだろう。


 壊れているとはいえ、売ればそれなりの金額になるだろうが、折角手に入れた宇宙船だ、手放すのは惜しい。

 それに、今から就職活動をしたとしても、新しい就職先が見つかるとは限らない。最初の就職先が決まるまでに、かなり苦労したし、決まった就職先はブラックだったからな。

 それなら、この宇宙船を修理して、それで稼いだ方がいいかもしれない。

 だが、生憎と、修理したくとも先立つ物がない。


 悩んでいたら、セイヤのことを思い出した。

「あいつは、船を担保に借金をしていると言っていたな」


 ダメ元で銀行に行ってみると、あっさり修理費を借りることができた。


 そのお金で船を修理に出したが、修理には一週間近くかかることになった。

 一週間時間ができたわけだが、その間俺はまず、セイヤにいわれた通りギルドに登録した。


 これで俺も宇宙船を持った個人事業主だ。


 次に、セイヤにもらった紹介状を持って、王都にある辺境伯の屋敷を訪ねてみることにした。

 セイヤの紹介状がどれほど役に立つのかわからないが、門前払いされたらそこは大人しく帰ればいい。

 運良く、バッタの討伐を指名依頼で受けられれば、御の字である。


 屋敷の門番に紹介状を見せたところ、最初は怪訝な表情をしていたが、確認はしてくれたようである。

 確認が取れると、恐縮したような表情となり、屋敷の中に招き入れられた。


 応接室に通され待っていると、金髪碧眼の美しい女性が現れた。


「お待たせしました。私がフルド辺境伯の娘のマーガレットです。セイヤ様の紹介状をお持ちの方で間違いありませんか」

「はい、セイヤの友人でカイトといいます。よろしくお願いします」


 俺は立ち上がってお辞儀をした。


「カイトさんですね。まあ、座ってください」

 俺は言われた通り腰を下ろす。


「カイトさんは、セイヤ様のご友人とのことですが、古くからのご友人なのですか」

「いえ、知り合ったのは数ヶ月前です」

「そうですか。数ヶ月前ですか……」


 辺境伯の御令嬢は何やら考え込んでしまった。

 しかし、セイヤはこの御令嬢に様付けで呼ばれているが、セイヤは一体何者なのだろう。

 最初から宇宙船を持っていたし、婚約者もいるようだし、田舎の国の貴族なのかもしれないな。


「それで、紹介状によるとセイヤ様が来られない代わりに、カイトさんがバッタの討伐を引き受けてくださるとか」

「はい、それで指名依頼を出していただけるとありがたいのですが」


「それは構いませんが、船は自前ですか?」

「はい、今は修理中ですが、こちらのジェミニスIIになります」


 俺は用意しておいた船の仕様書をバックから取り出して御令嬢に渡す。


「拝見します」


 それを受け取った御令嬢は、中身を詳細に確認する。


「これでも問題ないでしょうが、もう少し攻撃力があった方がいいですね」

「そうですか……」

 確かに、討伐を行うのであれば攻撃手段は多い方がいいだろう。だが、増設するとなると金がな……。


「もし、よろしければ、こちらでバッタに適した武器を増設いたしますが、いかがでしょうか?」

「え? 増設していただけるのですか。それは、ありがたいのですが、生憎とこちらは資金不足でして……」


「そこは、セイヤ様のご紹介ですし、こちらの依頼で討伐に出ていただくのですから、カイトさんに負担していただくことはありません」

「そうですか! 大変助かります。お願いします!」

 セイヤ。ナイス!

 セイヤの紹介状がここまで役に立つとは。


「それでは、私からの指名依頼ということで、よろしくお願いしますね」

「はい、ありがとうございます」


「詳しいことは係の者を遣しますので、そちらと打ち合わせてください」

「はい、わかりました」


「では、私は失礼しますね」

「はい、失礼します。あ、そうでした。セイヤから伝言で、用事が済み次第、セイヤもバッタ退治に来るそうです」

「……そうですかわかりました」


 御令嬢が出ていき、代わりに係の者がやって来た。

 そこで細かい打ち合わせをし、船の修理が終わり次第フルドに行くことになった。



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「お嬢様、このような紹介状を持った者が来ているのですが、いかがいたしましょう」

「紹介状?」

 私は執事から紹介状を受け取り、中身を確認する。

 それは、セイヤ様からだった。


 バッタ討伐に自分が行けないから、代わりの者を行かせる。とある。


 第一王子による襲撃が失敗に終わったこのタイミングで、これは、どういうことだろう。


 まさか、第一王子の襲撃が、私が潜り込ませている側近によって誘導されたものだと気付いた訳ではないだろうな。

 上手くすれば、四人まとめて潰せるかと思ったのだが、流石にそこまでは高望みであったようだ。

 最低限だが、第一王子を潰せたのでよしとしようと思っていたが、事が露見したとなると大きな失敗だな。


 だが、このタイミングで人を送ってくるということは、こちらを疑っている段階なのか?

 それにしては、あからさまだし、もしかすると警告なのか……。


 兎に角、会ってみるしかあるまい。


「私が直接会いましょう。応接室に通してください」

「お嬢様ご自身がですか? 相手は身分があるようには見えませんでしたが」

「この紹介状は皇王候補からです。何かあるとみた方がいいでしょう」

「成る程! 畏まりました」


 応接室で待っていたのは、カイトという、少年だった。


 なんでも、セイヤ様のご友人だということだ。

 話した感じでは、こちらに探りを入れているようには見えない。私の思い過ごしだったか……


 それならそれで、ここは厚遇しておいて恩を売ったほうがよいだろう。

 場合によると、この者も平民でなく、どこかの国の王子かもしれないからな。


 船の武装をこちらから供与することで、話はまとまった。

 これで少しでもセイヤ様の印象がよくなれば安い物である。こちらに敵対心がないと思っていてもらわないと困る。


「では、私は失礼しますね」

「はい、失礼します。あ、そうでした。セイヤから伝言で、用事が済み次第、セイヤもバッタ退治に来るそうです」

「……そうですかわかりました」


 私は、表情を崩さないように細心の注意を払いながら応接室を出た。

 応接室を出た途端に顔が引き攣る。


 セイヤ様の伝言、バッタ退治に来る。とは、こちらを叩き潰しに来る。ということではないのだろうか?


 もし、そうならどうしたらいいだろう……。

 わざわざ宣言されたということは「首を洗って待っていろ」ということだろうか? それとも、謝罪の機会を与えられたのだろうか?

 無限ともいえる魔力を扱える相手をどうにかできる。と思った自分の浅はかさが悔やまれる。


 しかし、悔やんでいてもどうにもならない。ここからなんとか挽回しないと。


 取り敢えず、セイヤ様への対応は全面的に見直しが必要だろう。

 裏工作は裏目に出た場合のリスクが高すぎる。

 直接会って、真意を確かめて行動を決めなければならないだろう。


 できれば、私の考えがただの杞憂であることを願うばかりだ。


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