第104話 その頃タマは、自宅
「ただいま」
この家に戻って来るのは四年ぶりかしら。神楽の舞は四年に一回行われる。
違うわね。前回神楽があった時は、家には戻らず、ホテルに泊まったのだったわ。
そうだとすると八年前か。
あの時お父さんと喧嘩をして、そのまま家出してしまったのだった。
「お邪魔します」
「お世話になります」
今回は、ミケとニヤも一緒だから、あまりお父さんと揉めるのを見せたくはないな……。
「あら、いらっしゃい。タマもお帰り」
「お姉ちゃん帰ってきたんだ」
「ヨーコ。大きくなったわね」
「妹さん?」
「タマにそっくりね」
「ヨーコ、二人を部屋に案内してくれる」
「わかった。こっちです」
妹にミケとニヤの案内を頼み、私はお母さんに話しかける。
「急に、二人も連れてきて、面倒をかけてごめんなさい」
「二人くらいなんてことはないさ。あの二人がメンバーなのかい?」
「そうよ。他にもう一人いるのだけど、今は別行動なの」
「そうかい。それで、どうするんだい、これから?」
「正直、迷ってるの。タマモの役割はわかっているつもりだけど、アイドルも辞めたくないの……」
「今までだったら、両立もなんとかなったかもしれないけれど、皇王様がお決まりになったらそうはいかないわよ」
「そうよね。それもわかってるつもりよ。本当は、タマモなんて辞めてしまおうと思ってたんだけど」
「タマ……」
「それが、実は、プロキオンに来るのに、皇王候補の船に乗せて来てもらったの」
「なんだって! 皇王様候補にもう会ったのかい?」
「そうよ。乗って来た船の船長だったわ」
「皇王様候補が船の船長をしているのかい? 王族なのだろう?」
「話した感じじゃ全然王族ぽくなかったわ。第一王女に言われるまでは気付かなかったくらいよ」
「ああ、王女殿下も一緒だったのね。なら、皇王が誕生するのは本当なのね……」
「兎に角、そんなわけで、これも運命なのかなと感じたわ」
「そうなのね」
「タマ。帰っていたのか」
「お父さん、ただいま帰りました。我儘言って、迷惑ばかりかけていてすみません」
「それはいい。それより、今、大公様から連絡が来たぞ。神楽の席で皇王様の眷属を決めると」
お父さんは、私を咎める気はないようだ。以前は、芸能活動のことで喧嘩になってしまったが、諦めた感じなのだろうか。
「そうですか。意外に早かったですね。もう少し、時間に余裕があると思っていました」
皇王が正式に就任するまでには、まだ時間があると聞いていた。だから、就任前の今回、眷属を決められるとは思わなかった。
これで、今すぐに決断しなければならなくなった。
「仕方ないですね。今代のタマモとして、皇王の眷属の務めを果たしたいと思います」
「タマ、芸能活動はどうするの?」
お母さんが、心配そうに尋ねてくる。
「諦めるしかないでしょ」
「お姉ちゃん、アイドル辞めちゃうの!」
ちょうど、妹のヨーコが戻って来たようだ。
「これからは、タマモの役目と両立は難しそうなの」
「そんな。だったら私がタマモを引き継ぐわ。これでも、お姉ちゃんがいない間舞の練習をしていたのよ」
「ヨーコ、ありがとう。でもね。タマモの役目は神楽の舞だけではないの。眷属として皇王に仕えなければならないのよ。成人もしていないヨーコには無理よ」
「そんなことない。私は予知能力もあるし、きっと皇王様のお役に立てるはずよ」
「ヨーコの予知能力って、明日の天気がわかる程度でしょ」
しかも、的中率は八割だ。そんなの天気予報の方がよく当たる。
「そんなことないもん。お姉ちゃんがいない間に私も進化してるんだから、今は三日後の天気までわかるもん」
「ハイ、ハイ。三日後の天気ね。今時、天気予報で十日後の予報がわかるけどね」
「お姉ちゃん! 私の予知能力をバカにしたわね。勝負よ。どちらがタマモに相応しいか、神楽の舞で勝負しましょう。外の世界で遊び呆けていたお姉ちゃんなんかに負けないんだから!!」
「別に遊び呆けていたわけじゃないから。まだまだ、ヨーコには負けないわよ」
「どうだか。この勝負に勝って私はタマモとして、皇王様の眷属になって、外の世界に羽ばたくんだから」
「なによ、ヨーコ、外の世界に行きたかったの?」
「お姉ちゃんばっかり、外の世界で楽しい思いをして、ずるい!」
ヨーコも外の世界に憧れていたのか。私もそうだったし、あのぐらいの歳なら仕方ないか。
「わかったわ。神楽の舞で勝負しましょう。いいわよね。お父さん」
「どちらにしろ、ヨーコにも舞ってもらう予定だったからな。好きにすればいい」
神楽は毎回、タマモを中心に、三人で舞うことになっていた。
その一人にヨーコも選ばれていたようだ。
どれだけ舞えるようになったか、見せてもらおうじゃない。
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