第101話 次元シールド

 俺たちは、海賊をほぼ殲滅したところで、第一王子率いる近衛第二艦隊の攻撃を受けていた。


「キャプテン、このまま攻撃を受け続けるのは危険」

「アマンダルタ殿下、反撃しても構わないか?」

 チハルの警告を受けて、俺は第一王女に確認した。


「今反撃したら、確実に海賊認定されるだろう。出来れば避けたい。時間を稼げば、プロキオンの境界警備艦隊が来る筈だ」


「そうだな……、では逃げよう。カエデとモミジの所まで戻れれば、なんとかなるだろうしな」

「了解。攻撃を回避しながら、カエデとモミジと合流する」


 サブシートに座るチハルは、全身が淡く光だす。デルタとシンクロして、ハルクを縦横無尽に操る。


 星の間を縫うように飛び、攻撃を回避しているが、相手は八隻。全てを躱すことは不可能で、一発、二発と攻撃を受けてしまう。


「流石に全ては避けきれないか、シールドはどのくらい保つ」

「散発的に当たる分には、キャプテンの魔力充填量の方が上。集中攻撃を受けない限り問題ない」


 魔力の充填を続ける限り、多少攻撃を受けても大丈夫なようだ。

 既に、先程受けた攻撃で消費した魔力の半分は回復している。

 実は、宇宙船への魔力の充填を繰り返した結果、時間当たりの充填量が、最初の三倍以上になっていた。


 最初は魔力を満タンにするのに、十時間かかったところを、今は三時間掛からずに充填できるようになった。

 無理をすれば、もっと早く充填することもできるだろう。


 魔力の操作に慣れたためだろうかと、試しに魔道具に魔力を込めたら、煙を上げて壊れてしまった。

 魔力操作に慣れたのではなく、最大魔力が上がっただけのようだ。残念。


 おまけに、貴重な魔道具を壊したと、ステファに文句を言われてしまった。

 リリスが庇ってくれたが、アリアに冷たい視線で見られてしまった。

「お嬢様に面倒をかけるんじゃない。このボケナス!」

 と、言いたかったのだろう。


 聖女は通常運転で、「さすがは神」と拝んでいた。


「皇家の紋章か。本当に宇宙船に魔力の充填ができるのだな」

 第一王女は、この危機的な状況の中、戦況よりも、俺の紋章に興味があるようだ。

 もう少し、危機感を持った方がいいと思うが。


「アマンダルタ殿下、プロキオン境界警備艦隊が第一王子側につく心配はないんでしょうね」

「それはないから安心してくれ」


「ですが、通信妨害をされたままでは、近衛第二艦隊に追いかけられている我々が悪者に見えますよ」

「プロキオン境界警備艦隊は、私がこの船に乗っているのを知っている。相手が近衛第二艦隊だろうと、その行動を鵜呑みにして、この船を攻撃することはありえない」

「そうですか、それならいいんですが……」


「後方の艦隊が二手に分かれた」

 チハルから報告が入る。

「分隊を先行させて、待ち伏せする気か。挟み撃ちされるのは避けたいな」


「次元シールドの使用を進言する」

「だがあれは、魔力の消費が激しく、満タンに状態でも、三十分しか使えない筈だろ」

「現在の魔力残量で、使用可能時間は二十分」

「二十分か。魔力を使い切ってしまうとシールドが張れなくなって危険だが、二十分あれば逃げきれるか」


「ちょっと待って、その次元シールドってなんだ?」

「アマンダルタ殿下も、知らないのか。異次元に潜行できるんだが、ようは、姿を隠すことができる」


「そんなものがあるのか。なら、最初から使えばよかったじゃないか」

「秘密兵器は、ホイホイ使ったら秘密でなくなってしまうだろ。ここ一番で使わないと」

「キャプテンの言う通り」

「そうなのか?」

 本当は第一王女にも知られたくなかったんだが、仕方がない。


「チハル、あの星に回り込んで、敵から死角になったところで次元シールドを始動。異次元を潜航したまま離脱し、カエデとモミジと合流するぞ」

「了解、次元シールド用意」

 ハルクが一瞬、敵艦隊の死角に入る。

「次元シールド始動!」


 ハルクが次元シールドに包まれると同時に、周りの様子が揺めきだす。

 ゲートに入った時程ではないが、現実空間でないことが感じ取れる。


 これで、外からは見えなくなっているのだろうか?

 こちらからは、外の様子が、覗き窓に詰め込まれたように見え、視野が四十五度に制限されたように見える。その周りはぼやけた揺らめく空間だ。


「これが異次元か。なんとも不思議な空間だな」

「うっ。気持ち悪い」

 聖女か。困ったもんだな。吐かないでくれよ。


「チハル、この状態で目標地点まで行けるのか?」

「問題ない。デルタのオートパイロットは有効」

「そうか、よかった」

 オートパイロットが効かなかったら、普通の人では操船できそうにないぞ。


「ここはなんとなくゲートの中に似た感じだな」

「マゼンタ教授によると、これを深く潜っていくとゲートの中と同じになるようだぞ」

「現状は、ゲートの入り口付近に潜んでいる感じか」

「そんな感じだな」


「しかし、マゼンタ教授か。そう言われれば、この次元シールドについて話していたことがあったが、絵空事だと思って忘れていた」

「絵空事って、ハルク千型のプロトタイプは残っていないのか?」

 実物があるのに絵空事ってことはないだろう。


「プロトタイプなら、アルファとベータが残っているが、どちらにも次元魔導砲は装備されていたが、次元シールドなんて装備されていない」

「ガンマはないのか?」


「記録では実験中に行方不明になっている」

 もしかすると、ガンマには次元シールドが装備されていて、それの実験中に、異次元から戻れなくなったのか……。


「そんなこともあり、マゼンタ教授の話は誰も真に受けていなかったんだ」

 確かに、実物がなければ説得力に欠けるな。話しの内容が荒唐無稽なだけに特に。


「そうなのか。マゼンタ教授もお可哀想に」

「可哀想なものか。攫われた皇女のことを、実は皇女が攫った側だと言いおって、王族に対する不敬もいいところだ」


 あれ、マゼンタ教授は王族から嫌われていたのか。

 まさか、これがゲートの研究が進まない理由なんじゃないだろうな……。


 ゲートの研究をしているマゼンタ教授が王族に嫌われている。同じゲートの研究をしたら、自分も王族に目をつけられかねない。それはまずいから他の研究にする。

 有り得そうだな。


「皇女なら、デルタの記録によると駆け落ちしたようだぞ」

「皇女が駆け落ち。また、そんな不遜なことを」


「不遜なことなんてありませんよ。まさにロマンスではないですか」

「ステファ嬢、その発言は王族としてどうなんだ」

「あ、すみません。出過ぎた口をききました」

 ステファは、第一王女に窘められて縮こまってしまった。

 余程第一王女のことが怖いのだろう。


「まあ、もう八百年も前の話ですからね。真実がどうあれ、今更ですね」

「王族にとっては名誉の問題なのだがな。セイヤさんはもう少し気にした方がいいのではないか」

「そうだよ。セイヤは王族としての自覚がなさすぎるよ」

 ステファ、お前にだけはいわれたくないぞ。


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