第100話 その頃第一王子は、旗艦で

 我輩は、近衛第二艦隊の旗艦ギンコーで、海賊退治の指揮を取っていた。


 そう、相手は凶悪な海賊で、先程、第一王女が乗る船を襲撃し、乗っ取ったのだ。

 このことが、知られれば、王族の醜聞になりかねない。

 なんとしても表沙汰になる前に、始末しなければいけない。

 第一王女は勇敢に海賊と戦い。船ごと散って行ったのだ。


「ということで、艦隊司令、全艦で前方の海賊船を攻撃、跡形もなく破壊せよ」

「ですが殿下」

「攻撃せよ。これは命令だ」


「了解しました。全艦ビーム砲発射準備、目標、前方の海賊船、ビーム砲発射」

「ビーム砲発射します」


 八隻の護衛艦から集中攻撃をくらえば、八百年前の船だ、ひとたまりもないだろう。


「全射命中。シールドで弾かれました」

「シールドで弾かれただと? 相手は八百年前の船だぞ。どうなっている」


「どうなっているといわれましても、八百年前には既に今と同じレベルのシールドがあったとしか」

「今のシールドは八百年前と同じなのか? 技術者は八百年間何をしていた!」


「海賊船から発光信号です。『こちらは、海賊船ではない。攻撃を中止せよ』だ、そうです」


「あの船は、海賊に乗っ取られている。嘘に決まっているだろう」

「続きがあります。『嘘だと思うなら、通信回線を開け』だ、そうです」


「迂闊に通信妨害を切るな。仲間に連絡される」


「また、来ました。『第一王女は怒っている。後で痛い思いをするのはお前だ』だ、そうです」

「構わん。第二射を撃て」


「ですが殿下!」

「何度も言わせるな」


「分かりました」

「第二射、発射」

「第二射、発射します」

 これで、どうだ。既に海賊船と戦った後だ。魔力も残り少ないだろう。


「第二射命中、シールドに弾かれました」

「しぶといな。続けてどんどん撃て!」


「殿下、もうおやめください!」

「艦隊司令、しつこいぞ、もういい、後は直接我輩が指揮をする。お前は解任だ」


「殿下!」

「誰か、こいつを摘み出せ」


 俺は、艦隊司令をブリッジから追い出す。


「チッ。手間取っている間に逃げられたではないか。追え」

「了解しました」


 相手は、星団の中を縫うようにして逃げて行く。こちらもそれを追いかけるが、八隻が横並びに追いかけることはできない。

 追いかけながらも砲撃するが、当たっても一、二射だけで、集中砲火とはならない。


 これでは、なかなか相手にダメージを与えることができない。


 そうだ、八隻もあるのだから、何隻か予想進路に先回りさせよう。


「予想進路を出して、五番艦から八番艦までを先回りさせろ」

「了解」


 五番艦から八番艦が隊列を離れ、先回りする。

 相手は、相変わらず、我輩の前方を逃げて行く。


 相手からは攻撃してこないから、余程魔力が底をついているのだろう。

 そろそろ、終わりが見えてきたな。

 あの星を回り込めば、先回りした艦が待ち構えている筈だ。


 相手は、予想通り星を回り込んだ。

 よし、これで袋のネズミだ。


 こちらも、後を追って星を回り込むと、そこには僚艦がいるだけだった。


「跡形もなく消し飛んだのか?」

「そんな筈はありません。少なくとも、破片は残る筈です」

「五番艦から報告です。『目標をロスト』だ、そうです」


「ロストってなんだ? 見失っただ。こんな目の前でか。あり得ないだろう」

「しかし、こちらにも反応がありません」


「そんな馬鹿な。どこかに隠れているんだ。全艦にこの周辺を探すように伝達しろ!」

「了解しました」


 しかし、いくら周辺宙域を探しても相手は見つからなかった。


 グぬぬぬぬ。奴らどこに隠れやがった。

 そうだ。俺は側近の一人に命令した。

「おい、例の工作員に、今どこにいるか報告させろ」

「工作員? あ、市場調査員のことですか」


「そうだ、お前が上手く誘導できたら工作員と認めろと言ったのだろう」

「そうでした、そうでした。それで、工作員に何をやらせるのですか」

「ちゃんと聞いていろ。現在位置の報告だ」


「わかりました。ですが通信妨害しているのではないのですか?」

「カードの通知は、船の通信とは別物だ。問題なく出来るはずだ」

「畏まりました。では直ちに」


 側近がカードで工作員に通知を送る。

「えーと、工作員ミケへ。至急現在地を報告せよ。送信っと。殿下送りました」

「よし、返事はまだか」


「そんなすぐには返ってこないでしょう。あれ、もう返信があったぞ」

「なかなか優秀な工作員ではないか」


「えーと、人を見殺しにするような奴のいうことを誰が聞くか、ボケ。だそうです」

「なんだ、それは、自分の命もかけられずに工作員が務まるか!」


「いや、そんなことを言われましても、ただの市場調査員ですから」

「お前が工作員だといったんだろ!」

 全く以て使えない奴だ。よく今まで側近をやれていたな。戻ったら首だな。クビ。


「お前は、もういい。こうなったら虱潰しに、何としてでも奴らを探し出せ」

 ここで、取り逃がしたら、逆に我輩の立場がやばいことになりかねない。

 なにがなんでも、ここで葬り去らなければ。


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