第91話 話を聞き終えて
「つまり、皇女が再びダイさんの研究が軍事利用されるのを恐れて、ダイさんを攫っていったってことですか?」
マゼンタ教授の話を聞き終えたステファが声をあげる。
「そういうことじゃ」
「そこにロマンスは?」
「妾は知らんのじゃ」
「えー。ロマンス。ありましたよね? そう思うでしょう。セイヤも!」
どうやら、ステファはマゼンタ教授の話に納得がいかないようだ。
「俺にはなんともいえないな」
そんなのは、本人たち以外わからない。マゼンタ教授も、マブダチとはいえ、ここにいるということは、最後まで見届けたわけではないだろう。
「そんな。女心がわからないと、その内リリスさんに愛想を尽かされるわよ」
まったく、ステファは、俺に当たらないで欲しいな。
「ところで、マゼンタ教授。さっきの話で気になったのですが、オメガユニットでゲートが作れるって本当ですか?」
「まだ、研究段階だったが、一時的に作ることはできたのじゃ。すぐに塞がってしまったがな」
「すぐ塞がってしまったんですか……」
それだと、皇女が駆け落ちでセレストに来る際に、オメガユニットで作ったゲートが残っていて、それを使って輸送船がセクション4に来てしまった、という考えは無理があるか。
それとも、最初からゲートが存在したのか?
俺は、それについたマゼンタ教授に聞いてみた。
「オメガユニットを持ち逃げされたせいで、研究が滞っているのじゃ。詳しくはわからんが、何かの拍子に塞がっていたゲートが開くこともあり得るのじゃ」
「そうですか……」
「その輸送船が、何か特別だったかもしれないのじゃ」
「ごく普通の輸送船だったわよ。ねえ、セイヤ」
「救援物資を運んでいたということ以外、俺にいわれてもわからんな。チハルがいればよかったか」
「救援物資? 何のための救援物資なのじゃ」
「さあ?」
「二百五十年前に、ベテルキウスで起こった災害を調べればわかるんじゃない」
「二百五十年前のベテルキウスなら、たぶん、超新星爆発なのじゃ。なら、その余波でゲートが開く可能性はあり得るのじゃ」
「超新星爆発でゲートが開くことがあるんですか?」
「超新星爆発では、しばしば、魔力線バーストが起こることがあるのじゃ。それが、異次元との壁の弱いところに穴を開けることは報告されているのじゃ」
「それのせいでゲートが一時的に開いたのだとすると、今ゲートを探しても見つかりませんね」
「そうじゃな。普通には見つけられないのじゃ」
「だ、そうだぞ、ステファ」
「え、それって、ゲートを見つけて一攫千金の私の夢はどうなるのよ!」
「諦めろ」
「何で、マゼンタ教授は私の夢を壊していくのよ」
「妾のせいじゃないのじゃ」
「それで教授、ゲートについて、もう少し詳しくお聞きしたいのですが」
「うむ、そうじゃったな。それが本来に目的じゃったな」
その後、俺はマゼンタ教授からゲートについてあれこれ教わった。
その間、ステファは、よほどショックを受けていたのか、呆けたままだった。
学院から戻った俺は、リリスたちに、マーガレット嬢にお茶会に誘われたことを報告した。
「それでしたらライブは、私たちだけで行ってきます」
「すまないな、リリス」
「セイヤ様と行けないのは残念ですが、第二王子の婚約者から誘われたなら、無下にはできませんよね」
リリスは納得してくれたようだが、チハルは拗ねてしまっていた。
「好きにすればいい。私も勝手にする」
「チハルもお茶会の方に来るか。美味しいお菓子が出るかもしれないぞ」
「美味しいお菓子が出るのですか?」
おいおい、リリスが食いついてどうする。
「いや、それはわからんが……」
「そうですか……」
リリスは凄く残念そうだ。お菓子が出たらお土産にもらって帰ろう。
「それなら、まだレース見学の方がいい。次の戦略を立てる」
次って。まだレース大会に出るのを諦めていないのか。
「じゃあ、四人で気をつけて行ってきてくれ」
あれ、四人。シャトルポッドの定員が三人だから一人余るな。
まあ、リリスたちもライセンスを取ったのだから、二機で行けばいいか。
でも、少し心配だな。
アリアの方を確認すると、操縦する気満々のようだ。あれなら大丈夫か。
二日後、俺とステファは、マーガレット嬢の屋敷に、お茶会に誘われて来ていた。
マーガレット嬢の屋敷は、流石は辺境伯の屋敷である。中世ヨーロッパ風の立派な物だった。
「セイヤ様、ステファニア殿下、よくいらっしゃってくださいました」
「本日はお招きいただき、ありがとうございます」
「これ、よろしかったらどうぞ」
「まあ、ありがとうございます。そんな気を使わずともよろしかったのに。気軽な会ですから、ゆっくりしていってくださいね」
「他にもどなたかいらっしゃるのですか?」
「ええ、お一人ご一緒させていただきますわ」
誰だろう。可能性が高いのは第二王子か。
「ああ、ちょうど、いらっしゃったようですわ」
立派な馬車が玄関に横付けされた。
宇宙船が飛び交う国で、未だに馬車を使っていたのにはびっくりだ。
そして、降りてきたのは、予想外に、妙齢な女性だった。
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