第80話 レース大会本戦

 そして、いよいよ始まったシャトルレーサーのレース大会本戦、予選を通過した八機がスタートラインに並ぶ。出場チームを紹介するアナウンスが流れる。


『各機スタートラインに着きました。ポールポジションはゼッケンナンバー18、謎の覆面王女チーム、機体は紅プリンセス号、予選ではとんでもないスピードを見せました』

 紅プリンセス号は、卵型で少し尖っている方が前方、かなり大型で重量感がある。俺たちのピザキャップの四倍以上ありそうだ。色は赤で、それだけで速そうだ。


「あれは、シリウス皇国軍のシャトルアタッカーを改造したもの」

「そうなのか」

「パワーがあって小回りも効く」

 それは、なかなかの強敵になりそうだ。


「でも、小回りならこちらが上。加速でも負けない」

 チハルが自信の程を滲ませる。


『続いて、ゼッケンナンバー32、謎の王子チーム、操る機体はピザキャップ、今回出場する中では最小、最軽量となります』

 俺たちが紹介された。

 ピザキャップは最初から小さいと思っていたが、最小最軽量だったか。


『三番手は、ゼッケンナンバー2Bの謎の覆面将軍チーム、機体はくろがねの馬、何とこちらは最大で最も重くなります』


 覆面将軍の機体は、無骨な戦車といった形だ、こちらはエリザベートの機体よりもさらに大きく、威圧感しか感じない。


 この大きさの違いで、同じレースでいいのだろうか?

 というか、俺たちの機体だけ飛び抜けて小さい。

 バイクと、乗用車と、トラックが一緒にレースをするようだ。


「あれは、帝国軍のシャトルアタッカー、アイアンホース。色を塗り替えただけ」

「このレース戦闘機でも出ていいのか?」

「本人がシャトルレーサーだといえば、シャトルアタッカーでもシャトルポッドでもそれで通る」

「そうなのか」


 しかし、帝国軍のシャトルアタッカーということは、覆面将軍は帝国軍の関係者か?

 まさか、シリウス皇国に攻めてきている将軍ということはないよな。


『それではスタートします。三二一ゴー』


 いけない、いけない。考え事をしている間にスタートとしてしまった。今はレースに集中しないと。


『おーっと。ゼッケン32番ピザキャップがスタートダッシュを決めて、一気に先頭に躍り出ました』


 俺が考え込んでいるうちに、チハルはうまくスタートできたようだ。


『その後をピッタリとゼッケン18番紅プリンセス、ゼッケン2B番くろがねの馬が続きます。四番手以降は既に大きく引き離されています』


 実質この3機の勝負ということか。

 スピードで差が付かないとなると、後はポイント勝負だな。

 的は三カ所、それぞれ衛星を回った先にある。


 射撃用のロケット弾は全部で六発、的を破壊できれば一つ当たり五ポイントになるので、全部のロケット弾で的を破壊できれば合計で三十ポイントになる。


「キャプテン、衛星が見えてきた」

「よし、いつでもこい」


 チハルがインコース、衛星ギリギリの最短コースで衛星を一回りする。

 一歩間違えば衛星に激突するコースだ。衛星の岩肌が目の前に迫る。


「うおおぉぉ!」

「キャプテン、うるさい」


 思わず声が出てチハルに怒られてしまった。


「キャプテン、抜ける」

「任せておけ。よーし。きた。今だ!」


 俺は的に照準を合わせるとロケット弾を発射した。

「次!」

 ロケット弾の着弾を待たずに次弾の照準を合わせる。

「よし、発射!」


 俺が放った二発のロケット弾はそれぞれ別の的に命中し、的を破壊した。

 これで十ポイント獲得だ。


 後ろに続く二機も的を二つずつ破壊した。


 ポイントで差はつかなかったが、チハルのコース取のおかげで、後ろの二機と少し距離が取れた。

 これは、いけるか。

 ほっとする間もなく、二機が直線で追い上げてくる。

 折角のアドバンテージがあっという間になくなる。


 二つ目の衛星の手前で、紅プリンセスに抜かれてしまう。すぐ背後にくろがねの馬だ。

 その状態のまま衛星の周回に入る。

 勿論チハルは一番インコースを攻める。ここで再びトップに立つ気だ。


 紅プリンセスもインコースに寄せてくる。

 衛星と、紅プリンセスに挟まれた狭いコースをチハルはすり抜ける。


 衛星の周回を抜ければ二回目の的当てだ。

 落ち着いて照準を定めるとロケット弾を発射した。

 続いて二発目の照準を合わせ、発射しようとした瞬間、狙っていた的が破壊された。


 くろがねの馬が俺の狙いを先読みして、的を先に攻撃したのだ。

 急いで別の的に照準を合わせるが、間に合わない。

 スピードを落とせば間に合うが、そういうわけにはいかない。


「やられた」

「次で取り返せばいい」


 意識を切り替えて次に備えなければいけない。

 そう思った時、事件が起こった。


「キャプテン、後ろからロケット弾」

「え?」


 チハルが慌てて舵を切り、ロケット弾を避ける。

 ロケット弾は機体のすぐ横をすり抜けるが、その先で爆発した。


 衝撃で大きく揺れるが、損傷はないようだ。

 直撃していたらただでは済まなかっただろう。


 回避運動をしている間に、紅プリンセスに抜かれてしまう。


「誰が撃ってきたんだ? まさかくろがねの馬じゃないだろうな」

「違う。その後ろ。カラスマV」


 俺は後ろを確認すると、くろがねの馬の後ろに、同じ予選に出場した、ゼッケンナンバー31番、ブラッククローXチームのカラスマVが見える。


「何があった。誤射か?」

「誤射だとしても普通爆発しない」


 そうだ、今回使っているロケット弾は、実弾でなくダミーだ。爆発するはずがない。

 的が派手に壊れるのは、的の方に爆発する仕掛けがあるからだ。


「なら、わざとか。狙いは俺か?」

 予選で負けたのが悔しかったのだろうか?

 いや、そんなことでは実弾で狙ってはこないだろう。

 それとも、くろがねの馬を狙っているのか?


 カラスマVが再びロケット弾を発射した。今度は二発同時だ。

 明らかにこちらを狙っている。


「チハル、回避できそうか」

「できなくても、するしかない」


 チハルも決死の表情だ。

 だが、ロケット弾がこちらに飛んでくることはなかった。


 すぐ背後にいたくろがねの馬が、俺たちに向かっているロケット弾の進路にわざわざ入ったのだ。

 ロケット弾は二発ともくろがねの馬に当たり爆発する。


 くろがねの馬は大破こそしていないがスピードが落ちている。

 これが、ピザキャップだったら木っ端微塵のところだったから、流石は軍用の戦闘機である。


 しかし、くろがねの馬がスピードを落としたことにより、順位も落ちる。

 代わりに、カラスマVが上がってきた。

 今度は二機の間に遮るものがない。

 今度狙われたら絶体絶命だ。


「チハル、方向転換、こちらも応戦する」

 爆発しなくても、ロケット弾が当たれば足が止まるだろう。


「その必要はない。食らえ」

 チハルが何かボタンを押した。

 あのボタンは確か、慣性制御装置の取り外しボタンだったよな。


 機体の底に取り付けられていた装置が切り離されて、その場に取り残される。

 後ろから迫っていたカラスマVは、避けきれずにそのまま突っ込んだ。


「邪魔者が消えて、重量も軽くなって、一石二鳥」

「慣性制御なしでこの後どうするんだ!」

「大丈夫。これでスピードアップ」


 言うが早いか、チハルはピザキャップを急加速させた。


「グェッ」


 俺はシートに押し潰された。


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