第79話 休憩時間
予選を終え、俺たちは用意されたピットに戻ってきた。
「お疲れ様です」
「無事、予選通過ね」
「流石はセイヤ様です」
皆が俺達を出迎えてくれる。聖女、今回俺は殆ど何もしてないぞ。
「総合では二位だったけど、上位の三チームは僅差だから、本選ではどうなるかわからないわよ」
「そうだな。本戦は俺がどれだけポイントを稼げるかにかかっているな」
「頑張ってくださいね」
リリスに応援されたが、そのリリスが何故かそわそわしている。どうしたのだろう。
「リリス、何か気になることでもあるのか?」
「えっ! 何故ですか?」
「何か落ち着かない感じだから」
「リリスお嬢様は、あれが気になっているのです」
アリアがレース大会のポスターを指さす。
ポスター? 特に変わった様子はないが。
「セイヤ様、下の部分です」
ポスターの下の部分には、休憩時間に余興でミニライブがあると書かれていた。
「リリスはライブを見に行きたいのか?」
「すみません。セイヤ様が頑張っている時に……」
「いいんだよ。見に行ってくればいい」
「よろしいのですか?」
「一緒には行けないが、レースが始めるまでに戻ってきて、応援してくれればそれでいいよ」
「本当ですか。時間までには戻って、力いっぱい応援します」
「それじゃあ、行っておいで、もうライブは始まっている時間だぞ」
「そうですね。急いで行って来ます。それではセイヤ様、失礼します」
リリスは早足でピットを出て行った。その後をアリアが遅れないように付いて行く。
ステーションでアイドルのミニライブを見てから、リリスはアイドルにはまっている。
映像配信を見ながら、一人で盛り上がっている。
リリス達が出ていくのと入れ違いに、エリザベートが急足でこちらのピットに入って来た。
「セイヤ様、予選通過おめでとうございます」
「エリザ、わざわざ来てくれたのか?」
「ええ、今来たところですわ」
今来たところ? さっきまでレースに出ていただろうに。
「エリザも予選通過おめでとう。予選では負けているが、本選では勝たせてもらうよ」
「えっ! 何のことでしょうか……」
エリザベートがぎこちなく顔を背ける。
「何のことって、謎の覆面王女はエリザのことだろ?」
「そ、そんなことあるわけないじゃないですか! それはセイヤ様の勘違いです」
エリザベートは、謎の覆面王女と言っておきながら、正体がバレていないつもりなのだろうか。
「そうなのか? じゃあ、それはどうでもいいや。お互いベストを尽くして戦おう」
「そうですね。お互いに全力でいきましょう」
俺はエリザベートと握手を交わす。おいおい、今はエリザだろ、そこは否定しないと駄目だろう。
「お、随分と和気藹々とやってるじゃないか。俺も仲間に入れてくれよ」
プロレスラーの様な覆面を被った、体格のがっしりした大男が現れて、ピットに入って来た。多分、謎の覆面将軍だよな。
「謎の覆面将軍さんですか? 俺はセイヤです」
「ああ、訳あって身分を隠してるんだ。覆面将軍とでも呼んでくれ」
身分を隠してるって、この人も王族や貴族なのか? それとも本当に将軍だったりして……。
「そちらのお嬢さんもよろしくな」
「ええ。こちらこそよろしく」
「セイヤのマスクは、なかなか洒落ているな」
「マスク? ああ、帽子を被ったままだったか。これは失礼」
俺は帽子を取る。
「素顔を晒しても構わないのかい?」
「別に隠す必要はなかったんですけど、アシスタントが用意してくれたから」
「様式美」
「そうなのか?」
チハルが答えれば、覆面将軍は首を傾げる。
「まあ、そんな感じです」
「王族だろう。随分と気軽なんだな」
「確かに王族ではあるんですが、俺がいた所は片田舎だから、王族と民との距離感が近いんですよ」
「セイヤは、誰とでも分け隔てなく接しているものね」
ステファが話に交じってくる。
「そうですね。お姉さまがいくら太っても嫌な顔一つされませんでした」
何を言っている聖女、俺がリリスに嫌な顔するはずないだろう。
「え、リリスさんは太っていたの?」
「ええ、少し……」
エリザベートが驚いている。聖女、あれは少しとは言わないぞ。
「もしかして、セイヤ様はデブ専なのですか?」
「いや、そんなことはないぞ」
「いえ、お姉さまがあれだけ太っても愛し続けるなんて、絶対にデブ専です!」
「聖女! 違うと言っただろうが」
「そうなのですか……」
エリザベートが不審に思っているようだ。強く否定する程疑われてしまうパターンだな。
「まあ、いいじゃないかデブ専でも。ワッハッハ」
覆面将軍に肩を叩かれてしまった。
だから違うと言っているのに。
その後、覆面将軍も交えて、たわいもない話題で盛り上がった。
休憩も終了間近になってリリスたちが戻ってきた。
それと入れ違いに、覆面将軍が席を立つ。
「さて、それじゃあ俺は戻って準備をするよ」
「そうね。私も失礼するわ」
「そうですね。それじゃあまたレースの後で」
俺は二人を送り出し、本戦の準備を始めた。
「敵情視察でしょうか?」
「見られて困る様なことはないわよ」
「きっと、セイヤ様の恩恵を授かりに来たのですわ」
聖女、それは絶対にないから。
さて、本戦まであと僅かだ。何としてでも優勝して、借金の返済をしなければ。
俺は緊張しながらも、やる気を漲らせるのだった。
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