第77話 その頃第一王子は、帝国の将軍と
何故、第一王子である我輩が、この様な場末の飲み屋に来なければならないのだ。全くもって不愉快だ。
我輩はシリウス皇国の第一王子であるカークス M シリウス。
高貴な我輩が身分を隠して、態々ミルザム星まで足を運び、こんなところまで来ているのは人と会うためである。
その男は、既に飲み屋の奥に陣取って酒を飲んでいた。
「おい! 人を呼び出しておいて既に酒盛りか?」
「これはこれは、お待ちしていましたよ殿下」
「ここで殿下は止めろ。お前だって将軍と呼ばれたらまずいだろ」
俺が会いに来たのは帝国のゴルドビッチ将軍である。
そう、今シリウス皇国に侵攻している帝国軍の司令官だ。
「こんなところで誰も人の話など聞いていないさ。それにこれもある」
将軍は手のひらほどの装置をテーブル上に出す。
「遮音結界か……」
周りに音が漏れない様にする魔道具だ。
「それで、今日は何故我輩を呼び出した」
「帝国軍は一旦シリウス皇国から引くことになったよ。第五王女の嫁入りの話も無くなった」
これは、我輩たちが進めていた計画だった。
将軍はシリウス皇国に軍事的に圧力をかけることにより、第五王女を得て、功績を挙げる予定であった。
我輩の方は、第五王女がいなくなることにより、王位継承の可能性が大きくなるメリットがあった。
「それもこれもお前のところの男爵令嬢のせいだろう」
「うむ」
「それに聞くところによれば、その令嬢はお前の婚約者だということではないか!」
「俺もまさかそんな所から足を掬われると思っていなかった。お陰で男爵の地位は得られず、計画を練り直さずにはいられなくなった」
「自分の女くらいちゃんと躾けておけ」
将軍は、苦笑いを浮かべると、ジョッキの酒を呷った。
「だがな、そっちもあんな重大なことを隠しておくなんてどういうことだ」
「重大なこと?」
「皇王候補のことだ」
「皇王候補だと! 我輩はそんなの認めてないぞ。あれはでまかせだ!」
全く、ステファの奴、どこでそんな奴を見つけてきたのか。とんだ迷惑だ。
「そうなのか? だが、御召船に乗っているという話だが」
「あれはもう八百年以上前の船だ」
「ということは、ハルク千型のプロトタイプで間違いないんだな」
「船の種類までは知らん」
「知らないのか? ここで確認できればと思っていたが、仕方がないか……。俺が直接確認することにするよ」
そんな古い船が重要なのか? クラシック船のコレクターなのか?
「そいつら、こちらに来ないでアダラ星にいるのだったか?」
「ああ、第四王女に付けた従者によると、アダラ星でレース大会に出るそうだ」
「レース大会?」
「シャトルレーサーによる競争だ。ギルドが副業にやっているギャンブルだよ」
「それにそいつが出場するのか?」
「そうらしいな。どうやら賞金で借金を返したいらしい。全く低俗なのもいいところだ」
そんな奴が皇王候補だなどと、認められるわけがないだろう。
「借金があるのか……。それなら金でどうにかなるか」
「何をするつもりだ?」
「その皇王候補を帝国に連れて行く」
「おう、そうしてくれ。我輩には邪魔者でしかない。なんなら消してくれると助かるがな」
「消すわけにはいかんな。利用価値がある」
全く、どいつもこいつも、そんな得体の知れない奴に、どんな利用価値があるというのだ。
「そうなると、賞金で借金を返されるとまずいな。レースを妨害するか」
「おいおい、撤退するんじゃなかったのか?」
「ああ、軍として表立っては行動しない。軍は撤退させる」
「そうか、まあ、今度はうまくやってくれ」
この際だ、それに便乗して奴を消してしまおう。
多少無理をしてでも、全て帝国軍の所為にしてしまえばいい。
将軍も今回の件で先は望めない。切りどきだし、丁度いいな。
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