第76話 シャトルレーサー

 借金を返済するためにシャトルレーサーのレース大会に出場することにした俺は、チハルにシャトルレーサーの製造を任せると、一人宇宙船から侯爵邸に戻って来た。


 戻った俺をリリスたちが待ち構えていた。


「セイヤ様、どこに行かれていたのですか?」

 リリスが涙を潤ませながら訴えかけてくる。


「そうよ。戻って来たと思ったら、屋敷に入らず、そのままシャトルポッドで飛んで行ってしまうなんて。何があったのよ」

 ステファは怒り気味だ。


「すまん、すまん。今事情を説明する」


 俺は、督促状が届いたこと、返済のためにレース大会に出ることにしたことを皆んなに話した。


「ということで、ステファにはレアメタル採取の報酬を暫く払えそうにないんだ」

「それは構わないわよ」


「すまないな。都合がついたらちゃんと払うから」

「というか、こちらも色々お世話になっているから、チャラでいいかと思っていたのよ」

 ステファはそう言ってくれるが、お金ができ次第ちゃんと払おう。


「そんなわけで、暫く宇宙船に行くことになる」

「でしたら私も行きます」


 当然リリスがついてくるわけだが……。

 そうなると、アリアも聖女も行くといい。ステファもシャトルレーサーを作るところを見てみたいと言い出した。


 猪突猛進のエリザベートにしては珍しく、エリザベートだけが、遠慮をしているのか一緒に行くとは言い出さない。

 代わりに、とんでもないことを言い出した。


「借金のことでしたら、私が立て替えて差し上げますよ。そうすれば、レース大会に出なくても済みますわ」

「いや、エリザに立て替えてもらうわけにはいかないから」


「婚約者になるのですから、遠慮なさらずに」

「いや、婚約者にはならないし、お金も自分でなんとかするから」


「そうですか? それでは、レース大会で優勝できなかった時には是非とも私を頼ってくださいね」


 そうだ、チハルは優勝する気満々であったが、レース大会で実際に優勝できるかわからない。


「その時は、また考えさせてもらうよ」

「そうですか。その時は良い返事を期待していますね」

 エリザベートは俺が優勝できるとは考えていないようだ。チャンスが来たと微笑んでいる。


「皆様方、宇宙船に行かれるなら、私はこれで失礼しますね」

 エリザベートはそう言うと、さっさと部屋を出て行った。


「エリザのあの顔は、何か企んでいる顔よ」

「企んでいる?」


 レース大会で優勝できないように、何か妨害策でも考えているのだろうか?

 でも、そんなことして俺に嫌われたら、元も子もないよな……。


 エリザベートを見送った俺たちは、侯爵に事情を説明して、船に戻ったのだった。


 船に戻ると、チハルが巨大3Dプリンターの前に陣取って、相変わらず操作パネルにデータを打ち込んでいた。


「チハル、戻ったぞ。進行状況はどうだ?」

「ばっちり。これが外観図」


 チハルが操作パネルを操作し、スクリーンにシャトルレーサーの外観図を表示する。


 見た感じは、宅配ピザなどで使われる屋根付き三輪バイクのような感じだ。


「随分と小さいのですね。これで二人乗りですか?」

「前後に乗る」


「なぜ二人乗りなの?」

「一人が運転、もう一人がアシストと攻撃を担当」


「攻撃ですか?」

「スピードだけでなく、途中で的を攻撃して、そのポイントも加味されるんだ」


「流鏑馬みたいな感じですか?」

「まあ、そうだな」


「武器はどこに付いているのよ?」

「それは、これから。左右にロケットランチャーが付く予定」


「ビーム砲じゃないのね?」

「ロケット弾が指定」


「それって危なくないんですか?」

「もちろん、爆発はしないダミーだよ」


「そうですか、それならいいんですが……」

 リリスはそれでも心配なようだ。


「これからフレームを造る。これは時間がかかるから、その間に無人機の魔導核を取り外す」

「それをこれに組み込むわけか」


「そう。他にも部品を作って組み込んでいく」

「プラモデルみたいな感じかな」


「プラモデル?」

 この世界にプラモデルはなかったか。


「いや、何でもない」

 ステファが訝し気な視線をこちらに向けているが、ここは無視しておこう。


 それから五日後、シャトルレーサーが完成した。


「早速試運転だな」

 俺はできたてのシャトルレーサーに乗り込もうとしたが、チハルに止められた。

「キャプテンは後ろ」


「俺が前で運転じゃないのか?」

「運転は私がする。キャプテンはアシスト」


 アシスタントのチハルがドライバーで、キャプテンの俺がアシストってどうなんだ?


「キャプテンが前だと前が見えない」

 チハルの言っていることももっともだが、何か腑に落ちない。


 それでも、素直に後ろの席に乗った。

「狭いな」

「小型軽量化のためには仕方がない」


 チハルが前のドライバーシートに座る。

 丁度チハルを膝に抱っこしているような感じだ。チハルの頭越しに前が見える。


「それでは、発進する」

「上手く動くといいがな」


「キャプテンは魔力を込めるのを忘れないで」

「ああ、そうだったな」


 おれは、魔力を込めていく。

 シャトルレーサーは、最初はゆっくりと発進した。


 暫く、くるくると飛んでいたが、特に問題がなさそうだ。


「問題ないようなので、本気を出す」

「え? チハル。本気って。グぇ!」


 チハルがシャトルレーサーを急発進させた。

 加速の重力で俺は押し潰される。


「ぐぇぇっぇぇ!」

 その後、チハルは急旋回する。


「ちょっと、これ、慣性制御装置はどうなってる?」

「そんなものはない。重量が増える」


「これじゃ、攻撃できないだろ。慣性制御装置は付けてくれ」

「キャプテン、軟弱すぎ」


 いや、俺は引き篭りだから。そんなこと期待されても無理だから。


 その後、チハルは嫌々慣性制御装置を取り付けたのであった。


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