第75話 出場申し込み
一週間以内に借金一千万Gを返済しなければならなくなった俺は、チハルの勧めでギルドに来ていた。
「いらっしゃいませ。何か御用でしょうか?」
カウンター越しに受付のお姉さんが笑顔を向けている。
ここのギルドのお姉さんは、ドックのアンジェラさんのように、バニーガールの格好はしていなかった。
「すみません。衛星軌道から出ないで稼げる仕事はありませんか?」
「わざわざそれを確認に来たのですか? 船から確認しても同じですよ」
そうなのだ、ギルドから出されている依頼は、船からネットで確認できる。
そのため、わざわざギルドに確認に来る者はいない。
「これ」
チハルが壁に貼ってあったポスターを指差す。
何だ? シャトルレーサーレース大会。
「ああ、大会への参加エントリーですか?」
「そう」
「チハル、これに出るのか?」
「キャプテンと私で出る」
レース大会に参加している暇などないんだが。
「優勝賞金一千万G」
「それで借金を返そうというのか? 俺じゃあ優勝できないだろう」
「キャプテンならできる」
確かに、シミュレータの操作は上手かったが、そんなに簡単にいくものなのか?
だが、他に当てがないのも確かだ。
「無理だと思うが、やってみるか」
「大会に参加でよろしいのですね。それでは、詳細を説明させていただきます。どうぞお座りください」
ギルドのお姉さんの話によると。
シャトルレーサーレース大会は、二人乗りのシャトルレーサーで、アダラ星の三つの衛星を周りながら、途中標的を射撃する、スピードと射撃の精度を競う大会である。
クロスカントリースキーとライフル射撃を組み合わせたバイアスロンのようなものだろうか?
大会は丁度一週間後で、優勝者には賞金一千万Gと副賞が出る。
着順を当てる賭けも行われていて、公式にギャンブルとして認められている。
どうも、ギルドの副業として行われているようだ。
チハルが勧めるので、勢いで参加申し込みをしてしまったが、一つ大きな問題があった。
「チハル、参加申し込みをしたのはいいけど、シャトルレーサーなんか持ってないだろう。どこかで借りられる当てでもあるのか?」
「借りる気はない」
「ならどうするんだ。買うお金なんてないぞ」
ここで、新たに借金を増やす訳にはいかない。
「大丈夫、造ればいい」
「造る? どうやって」
そして俺たちが来たのは、船の工作室だ。
「ここの工作室だけでシャトルレーサーが造れるのか?」
「造れる。魔導核は無人機の物を移植する。後は、魔力が大量に必要となるだけ」
魔力については、俺がいるので、ただで使い放題だ。
だが、魔導核は無人機用の物で大丈夫なのだろうか?
「魔導核は無人機の物では小さくないか?」
「そこがいい。軽量化できる」
「逆に出力や容量は下がるだろ」
「そこは、キャプテンなら問題ない」
「俺なら?」
「使った端から充填していけばいい。これは大きなアドバンテージ」
「そうか、魔力の消費効率を無視して大出力にできるし、魔力を溜めて置く必要がないから、小型の魔導核で十分なわけだ」
「なら、早速シャトルレーサーの設計に入る」
チハルは巨大3Dプリンターにデータを打ち込んでいく。何だか凄く嬉しそうだ。
そう考えると、チハルがギルドでレース大会のポスターを見つけたのは偶然ではないのだろう。
レース大会があるのを知っていてギルドに連れて行ったのだ。
もしかしたら、チハルは前からレース大会に出たかったのだろうか?
このタイミングで督促状が届いたのもチハルの仕業だったりして……。
流石にそれは考えすぎか。
「それで、何日で完成しそうだ?」
「魔力の制限がなければ五日後には完成する」
「大会は七日後だから、結構ギリギリだな」
試運転と練習ができるのは一日だけである。
「そう。だからキャプテンには魔力が切れないように、こまめに充填してもらいたい」
この巨大3Dプリンターも、船の魔導核から魔力の供給を受けている。
「わかった。毎日満タンにしておくよ」
とは言ったものの。一日でどれくらい使う物なのだろう? それによって充填にかかる時間が変わってくる。
今回はみんなに黙って来てしまったが、毎日となると隠してもおけないだろう。
「取り敢えず今から充填してくるけど、それが終わったら俺は一旦侯爵邸に戻るけど、チハルはどうする?」
「ここで作業する」
「そうか、余り根を詰め過ぎるなよ」
「大丈夫」
「大丈夫って、本当に大丈夫なのか?」
「心配ない」
邪魔だと言わんばかりに手で追い払われてしまった。
仕方がない。俺はブリッジで魔力の充填を済ませると、一人でシャトルポッドに乗って侯爵邸に戻るのだった。
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