第70話 その頃カイトは、アイドルと一緒
俺は宇宙船のライセンスを取得後、あちこち就職活動に回った結果、アイドルグループ、猫耳カルテットのライブキャラバン船の運転手に就職できた。
そう、俺は、運転手として就職した筈である。
なのに、やっていることは、アイドルの付き人としての下働きであった。
船の中では食事の用意に始まり、掃除に洗濯。現場では、機材の設置に、スケジュール管理。
給料が高いから良いと思っていたが、食材や日用品などの購入は俺の自腹であった。
せめてもの救いは、可愛い女の子とキャッキャウフフできることかと期待したが、それも儚い夢だった。
「なによ今日の客のノリの悪さわ!」
「本当にね。最初は一生懸命に手拍子していた女の子がいて、いい感じだったのに……」
「そうね。久しぶりにノリノリだったのにね」
ああ、今日も愚痴り大会が始まったようだ。ライブの後は毎回だ。
「二曲目が始まる前に、彼氏と帰って行ったわよ」
「くー。彼氏か。私も欲しいー」
「アイドルなんだから、彼氏を作ったら駄目でしょ」
「そこは、ほら、上手く隠れて」
「私は、貢いでくれるファンがいればいいわ」
「そんなファン、私たちにはいないじゃない」
そうだ、現実をよく見ろ、タマ。お前に貢ぐような奴は誰もいない。
「一人いたじゃない。メガネをかけた追っかけの女の子」
「あの子は、スズのファンだった子でしょ」
「そうだっけ?」
スズって誰だ? カルテットとかいうくらいだからもう一人メンバーがいたのか?
「全く、スズのくせに生意気なのよ。固定のファンを持つなんて」
「本当よね。人数が足りないから、ステージに立たせてやったのに」
「自分が、運転と私たちの世話係だってこと忘れてたんじゃない」
「それが急に辞めちゃうんだものね。理由聞いてる?」
どうやらスズという子が辞めてしまったので、俺が雇われたようだ。
「いや、知らない」
「プロデューサー、教えてくれなかったしね……」
こんな仕事じゃ、辞めたくなるのももっともだ。お前たちが虐めたんじゃないのか!
考えてみれば、俺が来た時、スズって子の部屋はなかった。つまり、俺と同じように運転席で寝起きしていたことになる。
俺は男だから我慢するけど、同じアイドルだとすると虐めだよな。
まあ、今更俺がどうこう言っても仕方がないことなのだが……。
しかし、ステージでは猫撫で声でニャンとか言ってるくせに、船の中では普通に喋っている。
全く、女は化けるというが、こうまで違うと女性不審になりそうだ。
化けるといえば、タマに至っては、猫の獣人でわなく、狐の獣人だった。魔法で猫の獣人に化けていたのだ。
もっとも、素のままでも、狐の獣人だと言われなければ、俺にはわからなかったが。
獣人同士でなければ、猫か狐を区別するのは難しいんじゃないだろうか。
確かに尻尾はタマの方がふさふさしていて、触り心地が良さそうだが、耳だけ見ていたら違いがわからない。若干細くて長いのか? 個人差の範囲な気もする。
だが、あの尻尾のふさふさは、思わずもふもふしたくなる誘惑に駆られる。
いっそのこと、握手会でなく、尻尾のもふり会にしたら人気が出るのではないだろうか。
そんなことを考えていたから、視線が尻尾にいっていたのだろう。タマが尻尾を隠すようにしてこちらを睨んできた。
「カイトのスケベ!」
「お、俺はなにもしてないだろ!」
「尻尾をいやらしい目で見てた」
「いや、別に見てないしー、たまたま、視線に入ってただけだしー」
「カイトったら、慌てちゃって。余計に怪しいわよ」
「そんなことないしっ」
「慌てるカイトは可愛いわねー」
クソ。いつもこれだ、すぐに俺のことからかいやがって。
女の子三人相手に、口ではとても勝てそうにない。
はあ、俺の受難はいつまで続くのだろう?
そういえば、セイヤたちはどうしているだろう。
こんな仕事じゃ、連絡したくても連絡できないな……。
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