アダラ星編
第71話 シリウス星系
途中で魔力の充填をしながら、連邦領のエリアEをワープ6で、五日で縦断した俺たちは、ゲート2からセクション2に入った。
ここからは後三日で、シリウス星だ。
「リリス、気分は大丈夫か?」
「はい、ゲートを通過するのも二回目になりますから、今回は平気です」
「そうか、それはよかった。平気でない奴もいたようだがな」
「ウップ。気持ち悪い」
「聖女は医務室に行っていろ」
「ウー」
聖女が立ち上がり、医務室に向かう。
「私もついていきます」
リリスと、リリスが行くなら当然のようにアリアが、聖女に付き添っていくようだ。
「今度からは、初めから医務室にいるようにしたらどうかしら?」
「今回も言ってみたんだが、みんなと一緒がいいんだと」
「そうね。その気持ちは、わからなくもないわ。でもねー」
ステファは困ったように言う。
「まあ、前回よりは良さそうだし、そのうち慣れるだろ」
「こめかみに梅干を貼り付ければいい」
「チハル、それって頭痛に効くやつじゃないか?」
「梅干は万能。乗り物酔いにも効く」
チハルがドヤ顔で胸を張っている。
「そうなのか?」
チハルの話の真偽はよくわからない。今度聖女で試してみよう。
「セクション2に入ったから、ここからは皇国の領域よ」
「セクション2は連邦領もあるんだよな?」
「ゲートは丁度境界線上にあるの。だから、これから進むところは皇国領よ」
「シリウス星系までは後三日だったな」
「正確には既にシリウス星系」
「あれ。そうなのか?」
「シリウス星系の主星であるシリウス星まで、後三日」
チハルに指摘されてしまった。
どうも、今言っている星系は、恒星の集まりである恒星系のことで、太陽系のような惑星系のことではないようだ。
シリウス皇国は、シリウス星系とプロキオン星系の二つからなっていて、それぞれに幾つかの星が存在している。
国の中に県があて、県の中に市がある感じだ。県が星系、市が星に当たる。
「それなんだけど、真っ直ぐ主星のシリウスに向かわず、途中のミルザム星を迂回して、アダラ星に寄ることにするわよ」
「それは構わないが、急にどうしたんだ」
「ミルザム星付近に帝国軍がいるらしいの。万が一のことがあるといけないから避けたいのよ」
「そうだな。こっちは帝国の軍艦を拿捕してるんだ。取り返そうと攻撃されるかもしれないしな」
「それに、どうも、第一王子が怪しい動きをしているようなのよ。アダラ星なら紋章派の貴族が治めているから安全を確保できるのよ。だから、そこでしばらく様子を見ることにするわよ」
「おいおい、外敵だけでなく身内にも警戒が必要なのか。王位継承権争いに巻き込まないでくれよ」
「それはもう手遅れよ。最初に謝ったでしょ」
「そう言われても、納得いかないぞ」
「セイヤが直接紋章派の貴族を説得すれば、どうにかなるかもよ」
俺が説得しても、どうにかなるとは思えんがな。
「王位継承権争いは、どうなってるんだっけ」
「今、一番勢力が大きいのは、第三王子のチャールスよ。宰相派が推しているのよ。穏健派でもあるわ。
正妻の子で、正妻がプロキオン星系の出身ということもあり、そちらでも人気はあるのだけど、いかんせん、まだ八歳なの。宰相の言いなりではないかと懸念されているの」
折角王位に付けても傀儡政権ではな。
「そんなわけで、プロキオン星系では、同じ正妻の子で第一王女のアマンダルタを推す者が多いのよ。
第一王女本人は、第三王子が成人するまではと、嫁に行かずに頑張っているの。ちなみに、既に二十六歳で、周囲からは行き遅れと言われているのよ」
二十六歳で行き遅れか。セレストでは十五歳から成人で、結婚できたから、早婚の者が多かった。その点はセレストに近いのかな。
「次に勢力が大きいのが、カークス第一王子の派閥よ。新興貴族が中心で、頭はミルザムを統治している公爵で、第一王子の母親である第二夫人の実家になるわ。過激派が多いわね」
ミルザム? 帝国軍がいるらしいと言ったのはミルザム星付近だったな。まさか、裏で繋がってたりしないだろうな。
「その次位が私を推していた、王家の紋章至上主義派よ。アダラ星を治めている侯爵が中心で、伝統を重んじる旧貴族の集まりよ」
「その派閥が、今度は俺を推したいということか?」
「そうよ。それで、私は解放されるの。悪いわね」
まったくだ。迷惑千万。俺に押し付けるなよ。
「第二王子もいるんだろ」
「第二王子はマクレス、十九歳よ。特に支持する派閥がないことから、余り目立たないわね。何度か会ったことはあるけど、印象に残るタイプではなかったわよ」
こういうのが、裏で何やってるかわからないんだよな。案外優秀で、狡猾だったりするんだが……。
俺は王位継承権を争う気はないし、もっといえば、シリウス皇国には関わりたくもない。
第二王子がどんな奴でも関係ないな。
「後は、第二王女は既に嫁に行っているわ。相手はプロキオン星系の貴族よ。第三王女も昨年リゲル星系に嫁いだわ」
「リゲル星系は連邦だったよな。政略結婚なのか?」
「相手は一般人よ。恋愛結婚だわ」
「へー。珍しい……。珍しいよな? 王族の場合」
「そうね。珍しいわよ」
セレストではそうだが、こちらも同じとは限らないからな。確認しておかないと。
「第四王女がエリザベート、十八歳。この子には気を付けて、まだ独身だから、セイヤを狙ってくるかも」
「狙ってくるって、命じゃないよな? 結婚相手としてなら、俺にはリリスがいるから大丈夫だろう」
「割り込んでくるかもしれないわよ」
「割り込むって……。俺はリリス、一本だから!」
「あらそう。でも、第四王女がそれで納得するとは限らないわよ」
「第一、第四王女が俺を狙ってくるとは限らないだろ?」
「だといいけど……」
意味深な表情をしないでもらいたいものだ。
「兎に角、進路変更だな。デルタ、目的地がアダラ星に変更になった。引き続き、アカネに追随してくれ」
『了解しました』
俺たちは三日後にアダラ星に到着した。
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