第69話 その頃カイトは、就活中

 ピーン!

 カードに知らせが届いた。

 今度こそは、と祈りながら確認すると、また不採用の通知だった。


 一体何が悪いのだろう……。

 折角取った宇宙船のライセンスを活かせる仕事を探して、旅客船や貨物船の船長に応募してみたが、どこも経験不足で採用されなかった。

 採用されないことには、経験も積めないのだが……。どうしたらいいのだろうか?


 俺はハンバーガーショップで、ハンバーガーを食べながら、求人情報誌のページを捲っていく。

 取り敢えず、宇宙船関係以外でもいいから働かないと、お金がなくなってしまう。

 思わず泣けてきそうだ。


 そういえば、セイヤはハンバーガーを食べながら泣いてたっけ。

 一緒にライセンスを取った男のことを思い出す。

 変わったやつだったな。

 自分を田舎者だという割には、宇宙船持ちだったし、その割に常識が欠けているところがある。


 セイヤのことを思い出しながら、目ぼしいものにチェックを入れていく。


 そんな中に、少し変わった求人があった。


「アイドルグループのライブツアー、キャラバン船の運転手急募、だって。……給料もなかなかいいじゃないか!」


 条件も悪くないし、何より宇宙船の仕事だ。俺は即、連絡して面接を受けることにした。


 面接会場は事務所の会議室とかではなく、ドックの船の側だった。


「あー。君がカイトくん?」

「はい。カイトです!」


 係の人に声をかけられたので、姿勢を正して返答をする。


「宇宙船のライセンスは持っているんだよね?」

「はい。C級ライセンスを持っています」


「そう。なら付いてきて」

「はい。よろしくお願いします!」


 面接会場に案内してくれるのだろう。俺はその人の後に続いた。


「これがキャラバン船だから」

 思っていたものより小さい。五人乗りの小型船だ。

 元はジェミニスII型だろう。それが分からなくなるほどデコレートされている。

 船体には「猫耳カルテット」の文字とメイド服姿の女の子たちが描かれていた。


「中に入ってくれる。彼女たちを紹介するから」

 彼女たちって、アイドルの女の子だろうか。

 アイドルというくらいだから可愛い子だろうな。

「はい。失礼します」


 船内に入ると、操縦室と続きのリビングに女の子が三人いた。

 三人とも猫耳だ。予想通り可愛い。


「えーと。三人とも、彼が新しい運転手のカイトくんだ」

「ミケです」

「ニヤです」

「タマです」

「カイトです。よろしくお願いします!」


「それじゃあ、詳しいことは彼女たちから聞いてくれる」

「え? はい。わかりました!」


 係の人はそのまま出て行ってしまった。

 さて、俺はどこで面接を受ければいいのだろう。

 まさか、彼女たちが面接官なのか?


「すみません。面接はどちらで行われるのでしょうか?」

「面接? 済んだんじゃないの」

「ここに連れて来られたということは、採用されたということでしょう」


「そうなのでしょうか?」

「そんなことより。お腹すいた。早くご飯作ってよ」

 ニヤと名乗った子が、俺に催促してきた。


「え? 俺が、ですか」

「運転手の仕事の内だよ」


「そうなのですか……。キッチンはー。こっちですかね?」

「そっちはお風呂とトイレ。キッチンは反対側よ」

「あ、すみません」


 俺はキッチンで食事を用意する。

 棚にあった、インスタント食品を温めるだけだ。


「インスタントか……。まあ、最初だし仕方ないよね」

「食べられるだけましよ」

「そうそう」


「あの、俺はこの後どうすればいいのでしょうか?」

 面接はどうなるのだろう。これは、本当に採用されたのか?


「予定表ならそこにあるから、それ読んで。くれぐれも遅れないでね」

「はあ……」


 俺は置いてあった予定表を確認する。そして、目を丸くして驚いた。


「ちょっと! この最初の予定、三日後の十時にサクラバステーションでミニライブって。今すぐ出ないと間に合わないですよ」


 他の予定も移動時間がギリギリだ。誰だよ、こんな予定を立てたの。


「そうなの? じゃあ、すぐ出発して」

「すぐって、他のメンバーは」

「この三人だけよ」

「え? だって。カルテットって……」

「この三人だけよ!」


 何か訳ありなのだろう。


「それで、他のスタッフは?」

「あなただけよ」


「ああ、他の船で行くのですね。キャラバンですもんね」

「この船だけよ」


「え?」

「行くのは私たち三人とあなただけよ」

「つまり、スタッフは、あなただけだから、いろいろよろしくね」

「今度はちゃんとした料理を作ってね」


「え? そんなの聞いてないのですが……」

「そうなの? でも、早く出ないと間に合わないんじゃないの?」


「そうでした。早く出発しないと!」


 俺は急いで出発準備を整える。


「それじゃあ、準備ができたので出発します」

「猫耳カルテットライブキャラバン出発!」

「おー!」

「食後のお茶はまだなの」


 俺は、女の子三人を乗せて、サクラバステーションに向けて出発した。


 宇宙船は基本オートパイロットだ。航路を飛んでいる間はほとんど人手はいらない。


 順調に航路を航行していることを確認してから、俺は女の子たちにお茶を淹れた。


「ところで、俺の部屋はどこですかね?」

「部屋は、ないわよ」


「はあ? この船は五人乗りだろ。二部屋空いている筈だろ」

「私たちが、そこと、そこと、そこを使ってるでしょう」

 ミケさんが五つあるドアの右から、一つ置きに三つ指さした。


「なら、そこの部屋は空いてるだろ」

 俺は右から二番目のドアを指した。


「そこは、機材置き場になっているわよ」

「じゃあ、そっちは」

 右から四番目のドアを見る。


「そこは私たちの衣装部屋になっているわね」


「それじゃあ、俺はどこで寝起きすればいいんだよ!」


 三人の視線が運転席を見た。

 運転席で寝ろってことかい!


 はあ、俺はとんでもないところに就職してしまったようだ。


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