第68話 ステーション
ゲート4を無事通過した俺たちは、ゲート2に向けて、高速航路をワープ6で航行していた。
現在通過中のエリアEは連邦の領域になる。
連邦は、エリアEのアルデバラン星系を中心に、同じくエリアEのエルナト星系、セクション2のベテルギウス星系及びリゲル星系などからなっている。
俺たちが今いるのはエリアEだが、アルデバラン星からは離れた辺境になる。このままアルデバラン星に近付くことなく、辺境を通ってゲート2に向かう。
辺境とはいえ、エリアEの辺境である。更に辺境のセクション4とは違う。
ブリッジのスクリーンに映る景色こそ然程変わらないが、航行レーダーに映る宇宙船の数は桁違いに多い。
セレストの周りなど、一隻もいなかったからな。
しかも、高速航路である。ワープ4の百倍速いワープ6で航行することになる。速いこと速いこと。
それでも、ゲート2までは五日かかる。
速度も速いが魔力の消費も早い。
軍艦であってもワープ6で一日航行すれば、魔力は底をついてしまう。
当然、どこかで魔力を充填しなければならない。
その点、ハルクは、俺が航行中に魔力を充填できるので、ノンストップで航行可能だ。
だからといって、今回は俺たちだけ先に行くわけにも行かない。
そのため、魔力を充填するために、軍艦がステーションに寄るのに合わせて、俺たちもそこに寄ることになる。
「ステーションはドックとは違うのか?」
「ドックは船の修理や整備が主目的。ステーションは魔力の充填が主目的」
「ステーションは観光や商売で移動中の人もいるから、ドックより賑やかよ」
チハルの回答に、ステファが補足して教えてくれる。
「賑やかなのか……」
イメージ的には高速道路のサービスエリアだろうか、見た目は宇宙に浮かぶ蜂の巣みたいだが。
中に入って見ると、まんま、サービスエリアだな。ウエスタン調のドックとは大違いだ。
沢山の人で賑わっていた。
「リリス、折角だから何か食べるか?」
「そうですね。そうしましょう」
さっきから、キョロキョロと落ち着きがないリリスにそう声をかければ、大喜びで、満面の笑みで答えが返ってきた。
「それじゃあ、何を食べようか?」
「あちらから順番にいきましょう」
順番にって、全部食べる気なのか……。
「お姉さまは相変わらずですね」
聖女が呆れている。
「それじゃあ、みんなで別々の物を買って分け合いながら食べましょうよ」
「え、ステファさん、分け合うんですか?」
「あれ? 駄目でしたか」
「いえ、そんなことありません。みんなで分け合いましょう」
ステファはリリスが大食いキャラだと知らなかったな。
リリス、そんな残念そうな顔をするな。リリスには多目に分けてやるから。
みんなで食事をした後は、お土産を見ながら時間を潰す。
一時間もすれば充填完了だ。
俺が充填すると十時間かかるのに、早いな。と思ったら、充填済みの物と魔導核自体を交換するのだそうだ。
そりゃあ早く済むわけだ。
ただ、普通に充填する場合に比べて割高になるようだ。
ここでは、普通に充填することもできる。
俺は急いでいるわけではないが、軍としてはのんびりもしていられないのだろう。
お土産コーナーに奇麗な石があったので、リリスに聞いてみた。
「リリス、この石奇麗だな」
「そうですね。それより、向こうにお菓子の詰め合わせが売っていましたよ」
「……じゃあ、そっちに行くか」
「はい!」
リリスには宝石よりも団子のようだ。
その後、お菓子を大量に買い、リリスはほくほく顔だ。
そろそろ、時間になるので船に戻ろうとしたところで、仮設のステージで何か始まるようだ。
「何かしら?」
「えーと、猫耳カルテット、ミニライブ。だってさ」
「まあ、獣人による演奏会ですか!」
「演奏会というより、歌って踊る、アイドルじゃないかな」
「アイドル? ですか」
「まだ少し時間があるし、見てみようか」
「いいんですか?」
「時間までならね」
リリスが、関心がありそうなので、時間まで見ていることにした。
「お待たせしましたニャン! 私がリーダのミケにゃん」
「今日は楽しんでいってくださいニャン。私がサブリーダーのニヤにゃん」
「時間一杯歌っちゃいますからねニャン。私が影のリーダーのタマにゃん」
「「「三人揃って、猫耳カルテットにゃん!!」」」
「セイヤ様、三人なのにカルテットなのですね?」
「新人みたいだし、これからメンバーが増えるんじゃないか」
「そうですかね。でも、なぜ、メイド服なのでしょうね?」
「それは、需要があるから……かな?」
「需要ですか?」
リリスが訝しげな顔でこちらを見ます。
「あ、ほら。歌が始まるらしいぞ」
俺は、慌てて話をそらす。
「それでは、聞いてくださいニャン」
「私たちのデビュー曲」
「それでもおやつはカツオぶしがいいニャン!」
「にゃにゃにゃんにゃん。にゃにゃにゃんにゃん」
「にゃにゃにゃ、にゃにゃにゃ」
「にゃにゃにゃんにゃあ」
歌が始まったが、どうも微妙な歌だ。
ダンスもまだどことなくぎこちない。もっと練習した方がいいだろう。
それでも、リリスは気に入った様で一緒に手拍子をしている。
一曲終わったところでリリスに声をかける。
「リリス、そろそろ時間だ。行こう」
「もう時間ですか……。残念です。またの機会があればいいのですが」
「映像の配信があるかもしれないから、後で探してみよう」
「本当ですか! ありがとうございます」
「それじゃあ行くよ」
「はい」
後ろ髪を引かれているリリスを連れて、俺は船に戻ったのだった。
艦への魔力充填は終わっており、無事ステーションを出発したが、シリウス皇国の軍艦であるアカネを見て驚いた。
「凄いでしょ!」
ステファがドヤ顔で俺に言った。
「確かに凄いな。あれはなんだ?」
「一つ一つが魔導核ユニットなのよ。これなら無補給でどこまでもいけるわよ」
アカネの外見が新幹線の先頭車両のようだと例えたが、それが十両編成になっていた。
それぞれの車両が魔導核ユニット、つまり、補助燃料タンクだ。
「しかも、アカネは最高巡航速度がワープ10。理論上五分でシリウス皇国から帝国のアンタレスまでいけるわよ」
「理論上は、なんだ」
「そりゃそうよ。緊急航行だって許可されているのはワープ8までよ。ワープ10で航行したら周りにどんな被害が出るかわからないわ」
そういえば、緊急船舶通過の衝撃で死にかけたっけ。
「成る程、よくわかった」
「あの、そうなると、もうステーションには寄らないのでしょうか?」
リリスが心配そうに尋ねてきた。
ハルクは俺が充填すれば済むので、ステーションに立ち寄る必要はない。
「曳航している帝国に軍艦に魔力を充填する必要があるから、ステーションはこの先も寄るわよ」
「そうですか、寄るんですか。よかった」
「リリスさん、ステーションに何かあるの?」
「いえ、初めてなので、色々見られるのは嬉しいかなっと」
リリス、それは、色々食べられる。の間違いだろ。見栄をはるな。
「そうなの。まあ、初めてだし、そんなものかしらね……」
「はい」
ステファ、騙されてるぞ。
ステファが、リリスを大食いキャラだと認識するのは、いつになることだろう。
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