第二部

プロローグ

第67話 ゲート

 ステファの半ば強制的な招待を受けて、シリウス皇国に行くことになった俺たちであったが、現在は、ハルクに乗って、ワープ4で第2857ドックからゲート4に向かっている最中だ。


 別に、ハルクにシリウス皇国の兵士が乗り込んで監視されることはなかったが、シリウス皇国の軍艦アカネと、それに曳航されている帝国軍の軍艦スコーピオも一緒になって航行していた。


 もっとも、兵士は、乗り込んでいなかったが、ステファはちゃっかりこちらに乗り込んで、何事もなかったように今までどおり馴染んでいた。

 いや、むしろ一部女性陣からは歓迎されているようだ。


 特に、その筆頭はアリアで「いつまでも、うだつの上がらない残念王子でいないで、シリウス皇国の王族になって、リリスお嬢様に楽をさせろ! 逃げたら許さないぞ!」という視線を俺に向けてくる。


 聖女も、神である俺が、シリウス皇国の王族どころか国王になって当然だ、と考えているようだし。チハルは、単にシリウス皇国までハルクを飛ばせることが嬉しいようだ。


 リリスも反対ではないようで、シリウス皇国の王族になんぞなりたくない俺の味方はいないようだ。


 そんなわけで、今は、ブリッジにみんなで集まり、わいわい、シリウス皇国までの航路を確認しているところだ。


「なあ、ステファ、軍艦が普通に航路を航行していて問題ないのか?」

「軍艦だって、普段は航路を航行するものよ」

 ステファが「何当たり前のことを聞いてるの?」といった顔でこちらを見る。


「いや、俺が言いたいのは、他国の軍艦が自分の国の中を航行していて問題ないか、ということなんだが」

「ああ、航路は大抵、航宙管理局の管轄で、国の物ではなのよ。だから、他国の軍艦でも、航路内なら航行可能なのよ」


「それじゃあ、いつでも攻め放題じゃないか」

「それはお互い様だし、航路を大艦隊で移動するのは現実的ではないわね。

 行動は丸わかりだし、移動した先に駐留する場所はないし、第一、航宙管理局もそこまでは許していないわよ」


 航宙管理局は各国が出資して運用しているといっていたな。そうなると、一国が有利になることは認めないか。


「そうなると、本格的に戦争をしようと思えば、領域同士が接していないと無理だよな」

「相手の領域を占領しようとするならそうなるわね。ただ、圧力をかけるだけとか、局地的に攻撃、破壊するだけなら可能よ。

 現に、シリウス皇国は帝国から侵攻されてるし」


「つまり、嫌がらせ程度なら可能ということだな」

「嫌がらせで済むレベルじゃないけどね……」

 つまり、帝国はシリウス皇国にテロを仕掛けているようなものか。


「でも、その嫌がらせも今回の事件で終息するかもね」

「そうなのか? 俺にはよくわからんが」


「帝国の王族だっていきなり襲われたくはないでしょ。報復で同じことをされたくなければ、何らかの譲歩をするはずよ」

「まあ、そうだな」


 自分の身に危険が及ぶと思えば、引くこともあるか。


「ところで、この航路が飛んでる所がゲートなのか?」

 俺は航路図の航路が途切れている部分を指し示す。

「そうよ。今回は、ここと、ここ。第四と第二のゲートを通ることになるわよ」


「ゲートって自然にできたものなんだよな」

「できたというか、発見されたよ」


「新しくできることはないのか?」

「新しく発見されたことはあるけど、それが新しくできたからなのかは疑問なのよ」

 たんに、今まで発見されてなかっただけということか。宇宙は広いからな、そんなこともあるだろう。


「ゲートについて研究している人もいるんだよな?」

「それはいると思うけど。余り聞いたことないわよ」


「そうなのか。それは残念だな……」

「セイヤは、ゲートに興味があるの?」

「自分で好きなところに、ゲートが作れるようになれば便利じゃないか」


「それは便利でしょうけど、そんな荒唐無稽なことできるわけない……。そういえば、知っている人の中にゲートの研究をしている人がいたわよ」

「本当か! できれば会ってみたいな。どんな人だ?」


「マゼンタ教授といって、私が通っている学院の先生なんだけど、ハイエルフの変わり者なのよ。確か人工的にゲートを作る研究をしていたけど、誰からも相手にされていなかったわよ」


 ステファは学生だったのか……。見た目の年齢からしたらおかしくないが、今まで、学校に通っているイメージが湧いてこなかった。


「まんま、俺が考えたのと同じ研究をしている奴がいるんじゃないか!」

「そんなことはできないというのが、学界の通説だから変わり者扱いされているのよ」


「できないと証明されたわけではないんだろ?」

「作れる、作れない、以前に、ゲートについてはほとんど研究がされてないのよ」

「何かそれも変な話だな。あれば便利な物なんだから、もっと研究されてもいいと思うんだが……」


 何か思惑があって、研究をしないようにしているのだろうか。それとも、誰かが邪魔してるのか?


「ところで、ハイエルフってことは、普通にエルフもいるのか?」

「学院に? 先生はいないけど生徒はいるわよ」

「いや、学院に限らず、だったんだけど。セレストにはいなかったんだ」

「そうなの?」


「あの、エルフとかハイエルフってなんですか?」

「こう耳が長い種族で、長寿なんだ」

 俺は身振り手振り付きでリリスに教えてあげる。


「セレストにはいないなら、リリスさんが知らないのは当然よね。逆にセイヤはよく知っているわね?」

「まあ、博識だからね」

「ふーん」

 やばい、やばい、転生者だということは、誰も知らないんだから気をつけないと。


「長寿ということは、その方もかなりのお歳なのですか?」

「年齢不詳なのよね。エルフは千歳、ハイエルフに至ってはその十倍生きるといわれているから。見た目では判断できないのよ」

「そうですか……」


「ロリババアとか呼ばれてるんじゃないか」

「あら、よく知ってるわね。学生の間でそう呼ばれてるの。セイヤ、あなた、怪しすぎ。さっきのことといい、どうやって知ったの?」


 本当にロリババアと呼ばれているのかよ。のじゃ。とか言ってたりして。


「いや、たまたま当たっただけだから」

「流石です。神はすべてお見通しなのですね」

 要らぬことでまた聖女の信仰心をあげてしまった。


「それで、ゲート4までは四日だったか?」

「そうね。その後、連邦領のエリアEを高速航路を使ってワープ6で五日間、次のゲート2を通って、そこからワープ6で三日間、合計すると十二日間よ」


 ドックからセレストまで十日間だから、かかる時間は然程変わらない。しかしこれは、高速航路を使った場合である。

 ワープ6はワープ4の百倍速い。

 つまり、ワープ4で行くと、五日の所は五百日、三日の所は三百日かかることになる。合計で、八百四日だ。


 これは、ゲートを使っての話で、ゲートがなければ、行き着くことはできない。


 ドックを出て四日後。俺たちは最初に通過する、ゲート4に到着した。


「ここでは手続きがあるから、少し待つようよ」

「あれがゲートか。かなりの大きさだな」


 大きさ的には小さな衛星ぐらいの大きさはあるだろうか。

 見た目は大きな水溜りといった物が宇宙空間に浮いていた。

 そこに宇宙船が出入りしているのだが、どうやら、交互通行のようだ。

 時間を区切って、数隻が入った後は、時間を置いて、数隻が出て来るを繰り返している。


 それから待つこと一時間。

「さあ、次は私たちの番よ」

「いよいよか、少し緊張するな」


「セイヤが緊張してどうするのよ」

「そりゃそうなんだが……」


『只今より、ゲートを通過します。通過にかかる所要時間は約五分です』

「ゲートに入った」

 デルタからゲートに入る案内があり、チハルがゲートに入ったことを宣言した。


 ゲートの中は、モノトーンの白黒の世界で、何もかもが揺らめく感じに歪んで見えた。

 これが五分続くとなると酔いそうだ。

 せめて、女性たちの服が透けてくれると楽しめるのだが。


 そう思っている内に世界に色が付き、視野が正常に戻った。


『ゲートを通過しました。現在位置はエリアEです』


 いつの間に五分経ったのだろう。体感的には三十秒も経っていない。

 リリスとアリアも戸惑っている。


「ゲートの中では時間感覚が狂うのよ」

「そうなのか……。最初に教えて置いて欲しかったな」

「聞いてない方が楽しめるでしょ?」

 ステファが、してやったりといたずら小僧のような笑顔をこちらに向けた。

「楽しむほど時間がなかったがな」


「早く終わってよかったです。私は少し気分か悪くなりました」

 リリスも俺と同じ感じか。


「お嬢様、医務室に行かれますか?」

「それほどではないわ」


「リリス、無理するなよ」

「セイヤ様、本当に大丈夫です。それより、ララサの方が酷いようです」


「ウゥッ」

「こら、聖女! ここで吐くな」


 俺は慌てて聖女を医務室に連れて行った。


  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る