第66話 その頃男爵令嬢は、帝国

 なんなのですかあの弁護士は、何が「罪を認めて反省の態度を示さないと罪が重くなりますよ」ですか。私の無実を勝ち取るのが弁護士の役目でしょうに、あんな弁護士は首ですわ。クビ!


 裁判官も人の話を聞かないし、何が「あなたに発言の許可を与えた覚えはありません」よ、私がいつ喋ろうと私の勝手よ。私が話してあげているのだから、静かに聞くのが筋でしょう。まったく、使えない裁判官だわ!


「コーディリア少しいいかね?」

 裁判所から屋敷に戻り、リビングで寛いでいるとお父様が話しかけてきました。


「何でしょうお父様?」

「お前、裁判所でのあの態度はなんだ。これ以上罪が重くなったらどうするんだ!」

「どうするって、悪いのは向こうですわ。私は無実なのに罪を着せようとして」


「全てお前がやったことなのだろう、自分でも認めていたではないか」

「確かに私がやりましたが、私は悪くありませんわ。それが規則に反するなら、規則の方が間違っていますわ」

 お父様が顔を顰めます。何故、お父様は私が言ったことがわからないのでしょうか?


「はあー。兎に角、もう少し反省の態度を見せてくれ、そうでなくても、既に鉱星の管理の職を首になってしまったんだ。今でもとても払いきれない罰金の額が上がってしまうぞ」


「ちょっと待ってください! 鉱星の管理を首になったて、私にその星をくれるという約束はどうなってしまうのですか?」

「鉱星をくれる約束? そんなものした覚えはないぞ」


「お父様は言ったではありませんか。私がその星が欲しいと言ったら『自分で行けもしないのに欲しがってどうする』と」

「確かにそんなことがあったな……」


「それはつまり、自分で行ければもらえるということでしょう?」

「どうしてそうなる? 第一、あの星は、管理を国から任されていただけで、儂の物というわけではないぞ。お前にあげられるわけないだろう」

「そんな……。そのためにあんな辺境まで行って、ライセンス講習を受けたのに」


「そのためにあんな馬鹿をやったのか!

 ああ、仕事のため遠く離れていたとはいえ、あの女に娘の教育を任せるべきではなかった」

「馬鹿とは失礼ですね。もういいですわ。その星でなくても、代わりの星を買っていただければ」


「だから馬鹿だと言っているんだ。そんな金が我が家にあるわけないだろう。それでなくとも、お前の罰金を払えず、お前の婚約者に立て替えてもらえるように頭を下げたのに」

「そんな、元平民の男に頭を下げる必要などありませんわ。むしろお金を出して我が家に貢献できることを感謝してもらいたいくらいですわ」


「なんてことを言うんだ。お前の夫になる人だろう!」

「それなんですが、そんな元平民との婚約は破棄してください」


「何を今更、お前も乗り気だったじゃないか」

「それは、将軍と聞いて、てっきり侯爵か、少なくとも伯爵だと思ったのですもの」


「そんな名前だけの名誉将軍と一緒にしたら、彼に申し訳ないぞ。彼は実力で将軍になったのだからな」

「なにが実力ですか、ただの成り上がり者ではないですか。そんなものより、名前、貴族としての血筋が大事なのですわ」


「それなら、なんで相手が侯爵や伯爵だと思った? 男爵でしかない我が家が、侯爵や伯爵に相手にされるわけないだろう」

「我が家は男爵家ですが、私には伯爵家の血も流れていますわ」


「あの女のことをいっているのか? あいつは伯爵家を勘当された、身分でいえば、ただの平民だぞ」

「お母様は平民などではありませんわ!」


「そうだな、平民以下の売女だな」

「売女?」


「あの女がなぜ伯爵家を勘当されたか知っているか。父親が誰とも知れない子供を身籠ったからだ。

 あの女は不特定多数を相手にそういうことをしていたんだ。

 お前の父親は本当は誰だかわからないんだよ」


 そんな。お父様が本当のお父様ではない! 考えても見ませんでしたわ。

 そう言われれば、私にお父様と似たところなどありません。


「それを伯爵は俺に押し付けやがって、聞けばあの女の母親も売女で、伯爵が本当の父親かわからないというではないか。

 つまり、お前に伯爵家の血なんか流れていないんだよ。

 確実なのは、売女の家系だということだけだ。

 ここまで育ててやったんだ。売女なら、売女らしく、将軍に媚を売って、我が家の役に立て。

 それとも、もう婚約者以外の男を知っているんじゃないだろうな?」


「そんな嘘です。お母様が売女だったなんて。それに、私は汚れなき乙女で……」

 果たして、私は汚れなき乙女といえるのでしょうか?


「どうした?」

「気分が優れませんので、失礼しますわ」


 お父様のことはショックでしたが、それ以上に、自分のことを汚れなき乙女と言い切れない自分にショックを受けました。

 考えないようにしていましたが、私の身体は、あの男のせいで、汚れなき乙女とは呼べないものになってしまったのではないでしょうか?


 いえ、そんなことはありません、私は、誰にでも体を許す、売女などではありまんわ。

 私の純潔を守るためにも、あんな事をした、あの男には死んでもらって、なかったことにしなければなりませんわ。


 私は執事のセバスを呼んで、あの男を始末するよう命令しました。


 それからしばらく経ちましたが、セバスからあの男を始末できたとの報告はまだ来ていません。

 何をぐずぐずしているのでしょう。頭にきますわ。


 私がセバスに催促しようと考えていると、お父様が血相を変え、私の部屋に駆け込んできました。


「コーディリア、お前は今度は何をしたんだ!」

「はあ? 私はずっと部屋に閉じ込めて置いて何を言っておりますの?」

「憲兵隊が来ている。いいから来い!」


 私は無理矢理応接室に引きずりだされました。


「何ですか? まったく」

「コーディリア・ブリエルだな。お前に、シリウス皇国王族襲撃及び殺害未遂の嫌疑がかけられている」

「何ですかそれ? 身に覚えがありませんわ」


「お前は執事のセバスに男を殺すように命令しただろう!」

「それなら確かにしましたわ」

「コーディリア、なんてことを命令しているんだ」


「だって、相手はただの平民ですわ」

「平民だといったって、人を殺せば殺人罪だぞ」

「そうですの? たかだか平民におかしいですわね」

「コーディリア……」


「殺害を命令したことを認めるんだな!」

「はい、そう言いましたわ」


「よし、コーディリア・ブリエルを連行しろ」

「ちょっと、何をしますの。失礼ですわよ」

 憲兵が私を拘束します。


「大人しくしろ、お前が殺そうとした相手が、シリウス皇国の王族だ」

「そんな、平民のはずですわ」


「平民が王族専用船に乗っているわけないだろ」

「確かに平民のくせに船を持っていたわね」


「わかったら大人しく連行されることだな。逆らえば余計に罪が増えるぞ」

 そんな、あの男がシリウス皇国の王族だったなんて……。


「でも、相手がシリウス皇国なら構わないじゃない。これから占領するんだから」

「その計画は、お前の軽はずみな行為によって頓挫することになるだろうよ」


「何でですの? わけがわかりませんわ」

「お前の頭では理解できないだろうな」


「失礼な人ですわね。大体私は男爵令嬢ですのよ。気安く触らないでいただきたいわ」

「あー!もううるさいから、誰かこいつに猿轡を噛ませて喋れないようにしておけ」


 なぜか私は口を塞がれ、憲兵隊に連行されることになってしまいました。


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