第55話 ガニメデ

 オメガユニットの最後の一つ、ガニメデは御神体ではなかった。

 そにため、聖女に聞いても今どこにあるかわからない。

 現状では行方不明である。

 一から探さなければならないわけだ。


「先ずは、ガニメデの名が付いた地名がないか洗い出しだな」

「そうですね、エウロパは、エウロパ湖、イオは、イオ火山になっていましたからね」


「それと、謎の球体の情報がないか、調べないとな」

「それは、セイヤ様がいらっしゃらない間に調べました」


「そういえば、俺が戻って来た時、リリスはカリストを調べていたな。何でだ?」

「いえ、セイヤ様を探す手がかりになればと調べていただけです」

「ああ、そんなこと父上も言っていたか……」


 それから何日か経ったが、ガニメデという地名は見つからず、目新しい情報もなかった。


「新しい情報はなしか。大体、ガニメデはいつ頃地上に落ちたんだ?」

「大体三百年前」


「それなら、何か記録は残ってないのかな?」

「そうですね。人が住んでいる近くに落ちていれば、記録がありそうですが……」

 教会の記録を捲りながら聖女が答える。


「山の奥とか、海の上だと目撃情報はないかもですね」

「海の上だとな、それこそ探すのは難しいな」


「海ですか。……。ちょっと待ってください」

 聖女が教会の記録を改めて確認する。


「三百年前に、地震もないのに、村に津波が押し寄せた記録があります」

「遠くで地震があった場合、揺れを感じなくても津波が来ることはあるんだが、被害があったのは村一つだけか」


「教会の記録を見る限りではそうですね」

「なら、他に当てもないし、その村に行ってみるか」


 俺たちはシャトルポッドで、三百年前に津波の被害にあった村に向かった。


 村に着いて、聞き込みをすると、確かに三百年前に津波の被害があったようだが、それ以上の詳しいことはわからなかった。


「折角来たが、ガニメデに繋がる情報はなかったな」

「まあ、新鮮なお魚が食べられたから、それだけでもいいじゃない」

「確かに新鮮で美味しいですよね」


 リリスが嬉しそうに笑顔を見せる。

 ここのところ、根を詰めて、リリスの笑顔を見ていなかったからな。リリスの笑顔を見れただけでも良しとするか。


「見つけた」

「チハル、何を見つけたんだ?」

 チハルは、タブレットのような物を見ながら、何か操作していた。


「沖合の海底にガニメデがあった」

「え、いつの間に見つけたんだ?」


「無人機を飛ばして捜索していた。チハル、できる子」

「おお、チハル、でかしたぞ。お前はできる子だ」

 俺は、チハルの頭をぐりぐり撫で回す。


「村の情報は私が見つけたのに、チハルさんに全部持って行かれてしまいました」

 何故か聖女が悔しがっている。


「聖女の情報のおかげだな、感謝しているよ」

「ああ、私などに、なんと勿体ないお言葉」

 一応、感謝の言葉を伝えておくが、いちいち聖女の反応が面倒くさいな。


「さて、見つけたとはいえ海底だ。どうやって引き上げようか?」

「既にオメガユニットが三基あるから、トラクタービームで引き上げられる」


「そんなのできるのか?」

「これで操作する」

 チハルからタブレットを渡される。


「これで、各オメガユニットの位置を移動、これでトラクタービームの強さを調整。さあ、キャプテンやってみて」

 画面を見ながら操作ができるようだ。ヴァーチャルクレーンゲームといった感じだ。


「良し、任せろ、俺はこういうのは得意だ!」

 俺は画面を見ながら慎重にガニメデを引き上げていく。


 みんなも気になるのか画面を覗き込んでいる。


 バランスを考え、慎重に引き上げた結果、ガニメデが海面に顔を出す。あと少し。


「キャプテン、上手い」

「そうだろう」

 チハルに褒められて、チラリとそちらを見てしまう。

 何故かチハルは浮き輪をしていた。


「チハル、その浮き輪はどうした?」

「対津波防御」


「津波が来るのか?」

「念のため」


「そうか」

「あ!」

「あっ!」


 目を離した隙に、ガニメデがバランスを崩して海中に落ちてしまった。


「しまった! チハルに気を取られてしくじった」

「集中力が足りないな。はい、交代よ」


 ステファが俺からタブレットを取り上げる。


「私に任せておきなさい!」


 ステファは意気込んでいたが、海中の半分も引き上げたところで、ガニメデを落としてしまう。


「次、私が、いいですか?」


 次はリリスが挑戦するようだ。

 リリスは悪戦苦闘していたが、殆ど引き上げられずに諦めて、タブレットを聖女に渡した。


「神の御心のままに」


 聖女は割と上手く引き上げたが、海面にでたところで、滑り落ちてしまった。


「おー。ジーザス!」


 聖女にあるまじき嘆き方だな。


 聖女からタブレットを受け取ったのはアリアだった。

 俺が、アリアもやるのか、という視線で見れば。

 アリアは「当然やりますけど、何か?」と言いたそうな視線を返してきた。


 アリアはリリスとどっこいどっこいだった。流石主従関係、似た者同士、といったところだ。


「みんな、なってない」

 チハルがアリアからタブレットを受け取る。


「このゲームはこうする」


 あれー。チハルさん。今ゲームって言いませんでしたか。

 確かに、ゲームみたいに楽しんだけど。それを言っちゃいますかー。


 チハルはタブレットを巧みに操ると、ガニメデを海中から引き上げ、そのまま、トラクタービームで衛星軌道まで引き上げてしまった。


「ざっとこんなもん」

 チハルが珍しくドヤ顔だ。


「次は負けないわよ!」

「私も頑張ります!」


「ステファにリリス、次はないから」

 完全にゲームと勘違いしてないか。


「えっ! リベンジの機会はないのですか?」

 アリア、お前もか。


「どうでしょう、わざと一つ地上に落としてみては?」

 聖女、お前、なんてこと言うんだ。

 他の三人から期待の眼差しを向けられてしまう。


「なに、馬鹿なこと言ってるんだ。さあ、さっさと撤収するぞ!」

「はーい」

 四人が明らかに落胆していたが、そんなことできるわけないだろう。


 しかし、少し可哀想なので、船の工作室でクレーンゲームを作ってやることにした。


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