第54話 イオ

 熱い。


 今日は、オメガユニットの一つ、イオを手に入れるため、イオ火山に来ている。

 山頂から見下ろす火口の中に、溶岩に浮いたイオが確認できた。


 さて、どうしたものだろう。火口に降りて行って、直接イオに魔力を込めるのは熱くて無理そうだ。


「チハル、シャトルポッドで行って、魔力の充填ができないかな」

 貨物船の時には、シャトルポッドからケーブルで繋いで魔力の充填を行った。


「無理、ケーブルを繋ぐ口が下になってる」

「ああ、流石に溶岩の中じゃ無理だな」


 となると、何かいい方法があるだろうか?


「対恒星用冷凍爆弾がある」

「チハル、それ使ったら、惑星全体凍りつくから! 氷河期どころの話じゃなくなるから!」

「チハルちゃん、恒星用を惑星に使ったら駄目だよ」


「大丈夫、耐寒装備は完璧」

 チハルはどこからかマフラーを取り出すと、首に巻いた。


「自分だけかよ。というか、そんな物でどうにかなるレベルじゃないから!」

「チッ」


 あ、今舌打ちしたよ。チハルの『仕様』は『良心的な娘』の筈だけど、どうなってるんだ?


「あの、冷やすのであれば私が魔法を使いますが」

「リリスの魔法では溶岩を冷やすのは無理じゃないか?」

「確かにそれは無理ですけど、セイヤ様の周りを冷やすぐらいはできますよ」


「それだと、リリスも火口に降りなければならないぞ」

「お嬢様、それは危険すぎます」

「セイヤ様と一緒なら平気です」


 俺としてもリリスに危険な真似をしてほしくはないが。

「他に案もないし、リリスに頼むとするか」


 結局、俺とリリスをそれぞれロープで括り、そのロープをシャトルポッドで吊って、イオの上に下ろすことになった。


 リリスには俺が魔力を込めている間、冷凍魔法で周囲の温度を下げてもらうことにした。


「リリス、準備は大丈夫か?」

「はい、大丈夫です!」

「チハル、頼む」


 チハルがシャトルポッドを操って、俺たちを吊り上げ、火口の中へと下ろしていく。


「流石に熱いな」

「今、冷凍魔法をかけますね」


 リリスは魔法をかけると、冷たい空気で俺たちを取り囲む。

「おお、いい感じだ。リリスは大丈夫か?」

「はい、問題ありません」


 問題ないようなので、そのままイオまで下ろしてもらう。

 イオの表面は熱いかと思ったら、そんなことはなく、触っても問題なかった。一見金属だが、一体何でできているのだろう?


 俺はそのまま、魔力を込めていく。

 リリスもそのまま、冷凍魔法をかけ続ける。


「キャプテン、もう十分」

 五分位魔力を込めたところで、チハルからOKがでた。


「チハル、それじゃあ吊り上げてくれ」

「了解」


 シャトルポッドが高度を上げていくのに伴い、俺たちも吊り上げていく。

 だが、ここでアクシデントが起こった。

 俺を吊っていたロープが切れたのである。

 リリスの魔法の効果範囲外になった部分が、熱で焼けて炭化していたようだ。


「セイヤ様!」

 リリスが手を伸ばすが届かず、俺はイオに落っこちる。そして、そのままイオの上を転がり、溶岩目掛けて転げ落ちていく。


「アイスアロー!」

 リリスが自分のロープを氷の矢で断ち切り、俺を追ってイオの上を滑り降りてくる。


「セイヤ様!」

「リリス!」

 リリスが追いついて俺を捕まえるが、リリスのロープは切ってしまっている。リリスを支える物はない。

 そのまま、二人で滑り落ち、溶岩の上に落ちてしまった。


「熱、熱、熱! あれ? 熱くない?」

「セイヤ様、これは、どういうことでしょう?」


 俺たちは灼熱に溶岩の上に落ちて、体が半分程沈んでいるが、火傷をするどころか、熱くもない。


 そこに、チハルが操るシャトルポッドが急降下して来て、マニピュレーターで俺たちを掴みあげる。

「キャプテン、無事でよかった」


「ありがとう、チハル。でも何で無事なんだ?」

「腕輪のシールドが発動した」


「ああ、これのおかげか」

「この前、セイヤ様にいただいた腕輪のおかげなのですね」


 あの時、リリスに渡しておいてよかった。でなければ、今頃大変なことになっていた。

 そのままチハルに火口の外まで運んでもらい、みんなが待つ所に下ろしてもらう。


「お嬢様、ご無事なのですか?」

 アリアが真っ先にリリスに駆け寄る。


「アリア、大丈夫よ。セイヤ様からいただいた腕輪のおかげで何ともないわ」

「しかし、肝が冷えました。お嬢様、無茶のしすぎです!」

「そうね、少し考えが足りなかったわね」


「もう、ビックリさせないでよ! 防御の腕輪が役に立ったのね」

 ステファも心配してくれたようだ。


「おれも、駄目かと思ったが、備えあれば憂いなしだな」

「だからって、腕輪を過信して、無茶はしないでよ」


「そんなことする気はないさ。もう、リリスに怖い思いをさせたくないしな」

「そうね、その方がいいわね。彼女、何の躊躇いもなくロープを切ったわよ」

「そうだな……」


 逆の立場だったらどうだろう。何が最善かわからないが、俺には躊躇なくロープを切ることはできない気がする。


「セイヤ様、あれが神の御業なのですね!」

「いや、ただの魔道具だから」


 聖女は相変わらずのようだ。


「チハル、イオもハルクとドッキングさせてくれ」

「わかった」


 火口からイオが飛び立ち、天空へ向かって行く。

 俺たちもシャトルポッドでハルクに戻ることにした。


 火口で溶岩に浮いていたイオであったが、機能に問題はなく、魔力の充填も順調に進んでいる。


「さて、イオも無事に回収できたし、残るはガニメデ一つだな」

「全部で四つなのですか?」


「そうだぞ、聖女。それで、ガニメデはどこにある」

「?」

 聖女が首を傾げている。何やら非常に困惑している様子だ。


「あの、聖女さん。御神体のガニメデはどこにあるのかな?」

 少し丁寧に聞き直してみた。


「セイヤ様、御神体は三つです。最初に話したと思いますが」

「あれ、そうだっけ?」


「そう言っていた」

 チハルがそう言うならそうなのだろう。


「そうすると、ガニメデはどうした?」

「私に聞かれてもわかりません」

「行方不明」


 ここまで順調に見つかっていたから、油断した。

 見つけることから始めねばならないのか……。


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