第46話 帰還

 ドックを出てから十一日目、途中漂流船に出くわすといったトラブルもあり、若干遅れたが無事にセレストに到着した。

 現在は漂流船を曳航したまま、衛星軌道を周回中である。


「さてと、やっと到着したな。後は地上に降りるだけだが、船ごとというわけにはいかないよな」

「魔力の無駄になるから、普通はシャトルポッドを使う」


 宇宙船の様な巨大で重い物を、地上から宇宙まで上げたり、宇宙からゆっくり地上まで降ろすには、かなりの魔力が必要な様だ。

 ワープ航行の方がかかりそうな気がするが、よくわからんが、原理が違うらしい。

 魔力がただで使いたい放題な俺なら、船で地上に降りても構わないが、まあ、言われた通りシャトルポッドを使うことにしよう。


「ステファは一緒に地上に降りるとして、チハルはどうする。船が無人になってしまうが、デルタがいれば大丈夫か?」

『大丈夫です。お任せください』

「一緒に降りる」

「シャトルポッドは三人乗りだし、一台で降りればいいか」


 俺たちはシャトルポッドに乗って、セレスト皇国の王宮目指して降りていく。

「しかし、田舎とは聞いていたけど、本当に田舎なのね。宇宙船が明らかにオーバーテクノロジーだわ」

「飛行機も飛んでないからな。空を飛べる機械はこれだけだ」

「大空の覇者」

「ワイバーンとか、魔物や鳥は飛んでるけどな」


「魔物がいるのね。龍とかドラゴンもいるの?」

「ドラゴンは、いるにはいるらしいが、滅多に姿を見せることはないらしい。俺は見たことがない」

「引き篭もってたら当然じゃないかしら」


「それはそうなんだが、俺の知ってる限り、ここ五十年は目撃情報がない」

「絶滅しちゃったということはないの?」

「ドラゴンは最強の種属だからな。長生きだし、それはないんじゃないか」


「ふーん。こういう話をしているとフラグになって、現れたりするもんだけど、来ないわね……」

「いやいやいや、来られても困るんだけど!」


「シャトルポッドの武器で不十分なら、宇宙船からビーム砲で射撃する」

「チハル、物騒なこと言うなよ。それこそフラグになりそうだ」


 チハルは自信たっぷり言うが、宇宙船のビーム砲ならドラゴンを一撃で倒せるのだろうか?

 ドラゴンがどれほど強いか俺は知らない。

 それに、よく考えたら、宇宙船のビーム砲の威力も知らないのだ。

 まだ一度も使う機会がなかったからな。

 一度試し打ちしてみた方がいいだろうか……。


「他の魔物はたくさんいるの?」

「森に行けば出会える程度にはいるな。ただ、森の外には出てこないぞ」

「そう、それを聞いて少し安心したわ。シリウス星系には魔物なんていなかったもの」

「そうなのか。まあ、セレストより随分進んでいるんだろうからな。当然か」


 雑談をしているうちに、シャトルポッドは王宮の庭に着陸した。

 後部の扉を開けて外に出ると、父上と母上が息を切らしてやって来た。

 そんなに急ぐ必要ないのに、心配していてくれたのだろう。ありがたいことだ。


「ただいま戻りました」

「セイヤ、お前という奴は……」

「心配してたのよ。無事に戻ってよかったわ」


「心配かけて申し訳ございませんでした」

「それで、やはり天界に行っていたのか?」


 天界? まあ、この星の常識なら宇宙は天界か。

「そうですね。天界を少し旅して来ました」

「そうか」

「ところで、後ろの御二方はどうしたの?」


「あ、そうですね。紹介します。天界のドックで知り合いになった、友人のステファと、俺のアシスタントになったチハルです」

「ステファです。しばらくお世話になります」

「アシスタントのチハル。よろしく」


「あの、天界で知り合ったということは、御二方は神様なの?」

「神様なんてとんでもない。普通の人間です」

「アシスタントはキャプテンの僕?」


「天界には神はいないよ。あれ、だけど、この星の常識でいうと、ステファは神なのか?」

 セレストで神と讃えられているのは、昔やって来たシリウス皇国の王女とその一行だ。

 なら、現在のシリウス皇国の王女であるステファは神にならないだろうか。


「セイヤ!ややこしくなること言わないで」

「はいはい、すみません」


「二人は随分と仲が良さそうだが、神が遣わされた相手ということではないのだろうな」

「神が遣わされた相手? ……。ないない。絶対にないから。第一俺には、リリスがいるじゃないか!」

「まあ、違うんですけどね。強く否定されると複雑な気分だわ……」


「そういえば、リリスの姿が見えないが」


「リリスさんなら、あなたを探して、あちこち走り回っていますよ」

「そうか、リリスにも随分苦労かけさせてしまった様ですね」

「今は、多分、教会の総本山の筈だ。何でも御神体にセイヤを見つける手がかりがあると言っていたな」

「御神体って、カリストのことですか?」


 カリスト?どこかで最近聞いたことがあるような。


「ねえ、そのカリストって?」

「教会の御神体でね。高さ十メートル位のドーム状の金属? なのかな」


「それってあれよね」

「あれです」

 ステファとチハルが顔を見合わせて頷き合った。

「「オメガユニット!」」


「オメガユニット? あー、オメガユニットの一つね。どおりで最近聞いた名前だと思った」


 リリスがそこにいるなら、俺もそこに行ってみよう。

 シャトルポッドで行けばすぐだ。


「では父上、母上、俺はリリスの所へ行ってきます」

「行って来ますって、それに乗って行くのか?」

「はい、これならすぐに行ってこられるので」

「そうなのか……」


「帰って来たばかりなのに、もう行ってしまうの?」

「母上、夕食までには戻りますから、心配しないでください」

「まあ、そうなの。なら、ご馳走を用意して待っているわね」

「それは、そんなに速いのか……」


「では、行って来ます。えーと二人は」

「勿論、一緒に行くわよ」

「行く」


「はいはい。じゃあ、乗って乗って。改めて、行って来ます」

「気をつけてな」

「行ってらっしゃい」


 俺たちはリリスがいる教会の総本山に、シャトルポッドで向かった。


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