オメガユニット編

第47話 その頃聖女は、カリスト

 私とリリスお姉さまは、パラスク公国のハイネス王子を連れて、御神体であるカリストの前に来ています。


 来る途中、馬車でアリアさんも含めて四人一緒でしたが、車内は何とも言えない雰囲気が漂っていました。


 ハイネス王子は少しでもお姉さまの気を引こうとしているのですが、今までハイネス王子に嫌われていたお姉さまにとっては何を今更ですし、しつこく迫られてうんざりしているようです。


 アリアさんに至っては殺気をビンビン飛ばしています。


 ハイネス王子も、もう少し控え目にすればいいのに、わかっていませんね。

 これでは逆効果なのもいいところです。


 私がアドバイスしようにも、アリアさんに睨まれるのが怖いのでそうもいきません。


 思わず、不眠症の人に授ける祝福である『微睡の午後』別名『羊たちの呪い』で、全員強制睡眠させてしまいました。


 カリストの前に着くと、ハイネス王子は沢山の計測器を運び込み、何やらカリストを調べているようです。


「どうですか、何か分かりましたか?」

「これは魔道具で間違いがないですね」

「やはりそうですか……」


「何の魔道具かはまだ分かりませんが、これに魔力を込めるには、延べ百万人の魔力が必要ですね」

「百万人ですか。それは難しいですね……」


「確かに、難しいですが、無理ではありません。必要なのは一日八時間魔力を込める計算で延べ百万人です。

 一万人で込めれば百日で済みますし、一日中二十四時間交代で込めれば、約一月で済みます」

「成る程、一度に込める必要はないのですね!」


「そうなんです。それだけの魔力を溜め込める装置がこの中にあるようです。是非、中が見てみたいものです」

「それは難しいかもしれませんね。今まで誰も傷一つ付けられていませんから」

「そうですね。この周りを覆っている金属にも興味がありますね。一体どれだけの力に耐えられるのでしょうか」


 インテリ眼鏡王子はカリストに興味深々のようです。

 ですが、それについては、今はどうでもいいでしょう。


「そうなると兎に角沢山、魔力を込めてくれる人が必要になりますね」

「一日一万人を三交代で一月ですか……」

 お姉さまが思案顔です。


「現実的には千人を集めるのも大変かと思いますが」

「そんな。それでは十ヶ月以上かかってしまうではないですか。教会で信者を集めればどうにかなりませんか?」

「そうですね……」


 私は、お得意の考える振りです。

 記録によれば、前回、天界に行った方は半年で戻って来ています。

 流石に十ヶ月より前には戻っているのではないでしょうか。


「何か急ぐ必要があるのですか?」

 ハイネス王子にはまだ、これがセイヤ様に繋がる手がかりだと言っていませんでした。


「それは、これがセイヤ様の手がかりだからです」

「残念王子のですか? なぜ御神体が手がかりに?」

「セイヤ様は神に近い方だからですよ」


「二人とも残念王子を買い被り過ぎじゃないですか。あんなのより、私の方が何倍も優秀ですから!」

「あんなのとは、セイヤ様に対して失礼ですよ!」

「リリスメリヤ嬢、そんなことを言っても、戻ってくるかもわからない残念王子を待つよりも、目の前にいる優秀な私に乗り換えた方がいいですよ」


「私がセイヤ様以外を想うことはありません!」

「強がっていても本当は寂しいのだろう。私が慰めてあげるよ」

「結構です!」


「そんなに粋がるなって」

 ハイネス王子がお姉さまの手を取ろうとします。

 アリアがすかさず間に入って、それを阻止します。

 あの動きは、普通の侍女の動きではありませんね。


「侍女の分際で私の邪魔をするのか!」

「お嬢様には指一本触らせません!」


 一触即発の状態で睨み合います。


 これはまずいですね。ハイネス王子は公国とはいえ王子ですからね。


 その時です! 天空から謎の球体が降りて来ました!!


「あれは、セイヤ様! セイヤ様が戻ったのですね」


 あれが、セイヤ様が乗っていったものですか。いかにも神秘的ですね。

 ですが、予定より随分と早いお帰りですね。

 これでは、お姉さまとの婚約を破棄する計画は断念するしかありません。

 どうしたものでしょうか……。

 そうだ、密かにお姉様と入れ替わってしまいましょうか。


 球体は目の前に着陸すると、扉が開き、中からセイヤ様が出てきました。

 お姉さまが駆け寄って抱きつきます。


「セイヤ様! セイヤ様! セイヤ様!」

「あー。リリス、随分と心配をかけてしまったようだね。すまなかった」

「いいんです。セイヤ様がこうして無事に戻ってくだされば」


「相変わらず、リリスは優しいね。少し痩せたかい」

「そうですね。少し……」


 いやいや、少しという見た目じゃないでしょう。


「そうかい、痩せてもリリスは可愛いよ」

「セイヤ様こそ、いつも素敵ですよ」


 この乳繰り合いはいつまで続くのでしょう? 砂糖を吐きそうです。

 それより、セイヤ様はやっぱりデブ専だったのでしょうか? 痩せたのを残念がっているようにも聞こえます。


「そうだ、リリスに紹介しなければならない人がいるんだ」

「どなたかいらっしゃるのですか?」


 セイヤ様の言葉を受けて、球体から女性が二人出てきました。


「ステファとチハルだよ」

「ステファさんとチハルさんですか。私、セイヤ様の婚約者のリリスメリヤです」


「セイヤにお世話になることになったステファニアよ。よろしくね」

「キャプテンに買ってもらった、チハル」


「え、チハルさん。キャプテンとは、セイヤ様のことですか?」

「そう。キャプテンはセイヤ」


「セイヤ様、チハルさんを買ったって、どういうことですか? それにステファニアさんをお世話するって!」

「えっ。リリス? リリスさん。顔が怖いんですけど……」


 あの、温厚なお姉さまが怒っています。これは、血の雨が降るかもしれません。念仏を唱える用意をするとしましょう。


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