第45話 その頃聖女は、パラスク公国
私は、リリスお姉さまとパラスク公国のハイネス王子を訪ねていた。
「ハイネス王子、急な訪問にも関わらず歓待いただき感謝いたします」
「いえ、聖女様のお越しとあればいつでも歓迎いたします」
インテリ眼鏡で神経質そうな、長身のハイネス王子と挨拶を交わします。
「そちらの美しい女性とは初めてお会いすると思いますが、私がパラクス公国第一王子のハイネスです」
「いえ、初めてではございませんわ、ハイネス王子」
「そうですよ、もう何度もお会いしているはずですがお分かりになりませか?」
どうやら、ハイネス王子にはお姉さまのことがわからないようです。
「そうですか、こんな清楚で美しい方を忘れることなどないと思いますが、どちらの御令嬢でしょうか?」
散々デブだと馬鹿にしてきたのに、清楚で美しい方ですか。では、正体を聞いてびっくりしてください。
「ハイネス王子、こちらはリリス様ですよ」
「リリス様? あの丸々太ったデブで醜いリリスメリヤだというのですか。聖女様もお人が悪い、それはあまりにもこちらの御令嬢に失礼ですよ」
失礼なのはお前です。確かにお姉さまは丸々太っていましたが、醜くはありませんでした。むしろ、可愛らしかったはずです。
ほら、傍に控えたアリアさんから殺気が放たれていますよ。
「いえ、私はリリスメリヤなのですが……」
「またまた、ご冗談を。って、そこにいるのはリリスの侍女のアリアじゃないか! では本当にあなたがリリス。いえ、リリスメリヤ嬢なのですか……」
驚きすぎてハイネス王子の眼鏡がずり落ちています。
「これは失礼しました。まさか、リリスメリヤ嬢がこれほど美しい方だったとは、私の目が節穴でした。どうか、これまでの無礼をお許しください。謝罪として私の全身全霊を込めた愛をあなたに捧げます」
おお、いきなり愛を捧げますか。流石は巷で浮き名を流すだけありますね。
「やめてください。私にはセイヤ様という婚約者がいるのですよ」
「ああ、あの残念王子ですか。引き篭りの次は行方不明だというではないですか。そんな使えない奴よりも、私の方が美しいあなたに相応しい」
「そんなことありません。セイヤ様は素敵な方です。私にはもったいないくらいです」
そうですね。お姉さまにはもったいないです。神に仕える私の方がむいています。
「頭脳、腕力、容姿、どれをとっても私の方が上じゃないですか。位だって、あっちは第三王子、私は第一王子ですよ」
どれだけナルシストなんですか。自信過剰にも程がありますね。ましてや、セイヤ様を下に見るなんて許せません。
そうだ、『平穏な日常』の祝福でも授けましょうか。
『平穏な日常』これは、ストーカー行為に悩む人などに向いた祝福です。
別名『闇夜の鴉の呪い』と呼ばれ、存在感が薄くなり、他人から関心を持たれることがなくなります。
自己主張の強いハイネス王子にはぴったりです。
そういえば、昔セイヤ様に仕事に困らなくなる『勤労の賛歌』の祝福を授けようとしたら、跳ね返されたことがありましたね。
今思えば、神に祝福を授けようなんて、烏滸がましい事でしたね。
でも、おかげで『勤労の賛歌』が、別名『馬車馬の呪い』と呼ばれている理由を身をもって知ることができました。
おっと、昔を懐かしんでいる場合ではありませんでした。
「それは聞き捨てなりませんね。同じ王子といっても、セイヤ様は皇国の王子です。今は独立して公国を名乗っていますが、公国は神の皇国の臣下に過ぎないのですよ。
それに、セイヤ様は今この世で一番神に近いお方、無礼な口を聞いてはなりません」
「ララサ……」
おっと、思わず熱く語ってしまいました。お姉さまが面食らっていらっしゃいます。
「聖女様、神を蔑ろにする気はございませんでした。ご容赦ください」
「わかればいいのです。わかれば」
ハイネス王子が謝罪するので、こちらもことを荒立てたりしません。
これから、お願いもしなければならないですしね。
しかし、策を弄することなくハイネス王子はお姉さまが気になる様ですね。
もし、その気がなければ、私がお姉さまに化けて誘惑しようかと作戦を考えていましたが、折角の作戦が無駄になりましたね。
なにせ、私とお姉さまは双子の姉妹ですからね。私がベールをとって、聖女の服を着替えれば、お姉さまと見分けがつかないはずです。
それで、夜中にこっそりとハイネス王子を呼び出して、甘い言葉の一つもかけようかと考えていたのですが、作戦が実行できず、少し残念です。
ですが、この様子だと、作戦が実行できなくてよかったかもしれません。
ハイネス王子と夜中に二人きりになったら、そのまま襲われ、貞操の危機に陥ってもおかしくない勢いです。
おっと、また余計なことを考えていました。さっさとお願いしてしまいましょう。
「ところで、今回こちらを訪ねたのは、お願いしたいことがあったからなのですが」
「お願いですか? 教会が私にどの様なことでしょう」
「実は、セイヤ様のことを調べているうちに、教会の御神体が一種の魔道具ではないかとわかったのです」
「御神体とはカリストのことですか?」
「そうです。そこで、私たちで魔力を込めてみたのですが、変化がありませんでした」
「あれほどの大きさとなると、一人や二人の魔力でどうにかなる物ではないでしょうね」
「どうにか魔力を込める方法はないでしょうか?」
「そうですね。一度、物を見て検討してみましょう」
「よろしいのですか?」
「聖女様とリリスメリヤ嬢の願いとあれば蔑ろにできません。この私の魔道具の知識をフルに活かしてご期待に応えてみせましょう」
これは、お姉さまにいいところを見せて、アピールしたいのでしょうね。
頑張ってお姉さまの気を引いてください。
そして、セイヤ様とお姉さまの婚約がなかったことにもっていってくださいな。
期待していますよ。インテリ眼鏡王子。
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