第43話 漂流船

 ドックを出発して五日目、セレストまで後五日。

 俺とチハルがブリッジで、映し出された航宙図を見ながら航路の検討をしていると、ステファがやって来た。


「ブリッジに篭りきりで何かあったの?」

「実は航宙管理局から連絡があって、このまま進むと明日には何か漂流物とぶつかる恐れがあるらしい」

 航宙図上では、俺たちが進もうとする航路と、漂流物の進路が交錯していた。


「航路を変えて、迂回するしかないんだが、どこを通るか検討していたところなんだ」


「そうだったの。ところで、漂流物って何なの?」

「デルタとチハルの見たてでは、漂流船らしい」

「へー。なら、セイヤはギルドにも加入したんだから、漂流船を調べに行って、価値がありそうなら曳航していって、売ればいいんじゃない」


「危険じゃないかな。偽装した海賊船かもしれないだろ」

「こんな田舎に海賊船なんか出ないわよ。この先って本当に何もないところじゃない。まあ、未開のフロンティアが広がっているともいえるけど」


「田舎で悪かったな。だが、まあ、ステファが言うことも尤もだな。海賊の可能性がないなら調べてみるか!」

「私は、キャプテンの判断に任せる」

「じゃあ、調べに行くことで決定ね」


 翌日、俺たちはワープ航行から通常航行に切り替え、漂流船に近付いていた。


「でかいな。貨物船か?」

「外観からしてブルーアライアル型ね。一般的な貨物船だわ」

 大きさはハルク1000Dの三倍位あり、フグを思わせる形をしていた。


「細かい損傷は見られるが、大破しているわけではなさそうだな」

「魔力反応がない、完全に死んでいる」


「さて、曳航していくだけの価値があるかは、中に入って見ないとわからないかな」

「私が見てくる」

「そうだな、チハルと俺で見てこよう。ステファは留守番よろしく」


「私は留守番なの。なんで?」

「王女様に危険な真似はさせられないだろ」

「自分だって王子のくせに!」


「チハル一人を行かせるわけにいかないしさ」

「一人でも大丈夫」

「そう言うなよ。俺も行って見たいんだ」


 結局、俺とチハルがシャトルポッドに乗って見にいくことになった。


 先ずはシャトルポッドで貨物船の周りを一周してみたが、船体に穴が開いている様子はなかった。


「格納庫の扉が開いたままだな。あそこから入ってみよう」

「了解」

 チハルがシャトルポッドを操って格納庫に入り込む。


 格納庫の中は空っぽで、一台のシャトルポッドもなかった。

「乗組員は脱出したのか?」

 それならいいが、そうでないと船内に死体が転がっていることになる。


「プレートがある」

「プレート?」


 チハルが指差す先には、船名を記したプレートが壁に貼られていた。

「第06383ブルーアライアル号」

「ステファ聞こえるか」

『聞こえるわ。何かあったの?』


「船体名がわかった。第06383ブルーアライアル号だ」

『わかったわ。なぜ漂流しているのかこっちで調べてみる』


 さて、ステファが調べている間にこちらも調査を進めるか。


「それで、ここからどうやって貨物室まで行くかだが」

「貨物用エレベーターシャフトがある」

 あれならシャトルポッドのまま降りられそうだ。

 シャトルポッドのマニピュレーターを操って、入り口の柵を開け、縦坑を降りていく。

 貨物用だけあって、余裕で貨物室まで降りられた。


 貨物室には荷物が残されていたが、これはなんだろう? 木箱が積み上げられていた。


 マニピュレーターで箱の一つを開けてみる

「フリーズドライの保存食か?」

「多分、元々は生。時間が経って乾燥した」


 船内は生命維持装置が止まっているから、極低温で真空状態だ。凍っていれば腐ることはないだろうが、長期間放置されればフリーズドライになってしまうか。


『セイヤ聞こえる。船についていくつかわかったわ』

「聞こえるぞ、それで何がわかったって」


『その船が行方不明になったのは、二百五十年前。リゲル星系からベテルキウス星系に向け、支援物資の食料を運んでいる途中で消息不明になっているわ』

「二百五十年前か……。どおりでこのありさまか」


『何かあったの?』

「積荷を確認したら、乾燥肉や乾燥野菜だった」

『それは、二百五十年も経てばそうなるわね』


「積荷は全て食料なのか?」

『記録にはそうなってるわね』


「流石に、二百五十年前の食料は食べられないよな」

『無理でしょうね』

「これ、全部ゴミかよ。折角ボロ儲けできるかと期待していたのに……」


『船主は捜索を諦めて、二百年前に既に所有権を放棄しているわ』

「つまり、見つけた俺の物にしていいということか」

「船の状態が良ければ高く売れる」

「それに、期待するしかないか……」


 俺は魔導核に魔力を充填して、動くか確かめることにした。


 魔導核がある所まで、シャトルポッドで移動する。

 魔導核を交換する時のことを考えて、シャトルポッドで行き来できる作りになっている。


「さて、どうやって魔力を充填すればいいんだ?」

 シャトルポッドの外は真空状態だ。外に出るなら宇宙服が必要だ。


「シャトルポッドと魔力供給ケーブルを継なぐ」

「それで、俺がシャトルポッドに魔力を込めればいいのか」

「その通り。早速ケーブルを継なぐ」


 チハルが器用にマニピュレーターを操って、ケーブルを繋いでいく。

「できた」

「それじゃあ、俺は魔力を込めますか」


 シャトルポッド経由で、魔導核に魔力が充填されていく。

 五分程魔力を込めていると、船内にアナウンスが流れた。


『魔力が充填されました。再起動します――。エスケープシークエンスが実行されました。設定を初期化します。初期化中――。そのまま、しばらくお待ち下さい――』


 このまま初期化できて上手く動けばいいのだが。

 動かなくても、バラして、鉄屑で売ればいいか。


 そうすると、どのみち曳航していかなければならないわけだが、ここからドックまで戻るのは、時間の無駄だな。

 早くセレストに帰りたいし、一旦セレストに曳航して行くか。

 そして、後日、改めてドックに曳航すればいい。

 魔力は余計に消費するが、俺の魔力はタダだからな。気にする必要はない。その案でいくことにしよう。


『初期化が終了しました。メンテナンスモードで起動します――。メンテナンスモードで起動しました』


「メンテナンスモードで起動したようだが、大丈夫なのか?」

「初期化直後なら、これで正常」

「そうなのか」


『生命維持装置を起動。船内が正常化するまでに後二時間。シールド装置を起動。シールド展開。故障箇所を確認、気密不良箇所を八箇所確認。隔壁を閉鎖。格納庫ハッチが開放状態。格納庫ハッチを閉鎖。メイン魔導ジェネレーターの作動を確認。メインエンジンおよびサブエンジンの作動を確認。航行システム作動確認。通常航行可能、ワープ航行可能。――』


 まだ、船内のチェックは続いているが、気密など問題がある所もあるようだが、どうやら航行には問題ないようだ。


「ステファ、聞こえるか、航行には問題ないようだから、一旦セレストに曳航しようと思う」

『了解。曳航の準備を始めるわ』


「チハル、外に出て曳航の準備をしよう」

「わかった」


 シャトルポッドで来た経路を逆に辿って、閉まっていた格納庫のハッチをまた開けてもらい、船外に出る。

 ハルクから出たロープとケーブルを、シャトルポッドで引っ張って貨物船に繋いでいく。


 これで、貨物船の操作と魔力の供給がハルク側からできるようになる。

 俺たちは、曳航準備を完了して、ハルクのブリッジに戻った。


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