第28話 練習船
講習四日目のシャトルポッドの実機での実習は、シミュレーションほど上手くはできなかったが、人並み以上には扱えていたと思う。
シミュレーションであの状態の男爵令嬢をシャトルポッドに乗せるのは、自殺行為ではないかと思ったが、どうも、緊急シークエンスで、完全自動操縦になったらしい。
つまり俺がセレストからシャトルポッドに乗った状態だ。
そのため、事なきを得たようだ。
五日目がシミュレータによる宇宙船の操縦訓練。
今回は、シミュレーションを規定のステージまでさっさと済ませて、とっとと帰った。同じ轍を踏むことはしない。
男爵令嬢? 知らんがな。
そして、六日目の今日は、実際の宇宙船で宇宙を航行する。
「よう、セイヤ。調子はどうだ」
「おはよう、カイト。朝からテンションが高いな」
「高くもなるさ。いよいよ本物の宇宙船を操縦できるからな」
「二人とも、おはよう。いい航行日和だね」
「おう。そうだな」
「おはよう。そんなのがあるのか?」
航行に適した日というのがあるのだろうか?
確かに、シャトルポッドあたりだと、星の並びや、太陽風の影響などありそうな気もするが、ワープできる船には関係ないような気もする。
「何言ってるの、定型の挨拶よ」
「ああ、そうなのか……」
時間になると、講師の男性がやって来て、全員揃っていることを確認すると説明を始めた。
「今日は練習船で実際に航路を飛んでもらうことになるが、講習で習ったことを守って、安全に注意するように。
羽目を外して遠くまで行き過ぎるなよ。
練習船にはワープ4で一日分の魔力しか充填されていないからな」
過去に、羽目を外して遠くまで行ってしまった者がいたのだろうか。
それで、充填する魔力を一日に制限しているのか?
「それと、Cクラスは習った通り、航行には最低二人が必要だ。というわけで、二人組になってくれ」
二人組か、なら、カイトに声をかけるか。
「おい、カイト組まないか?」
「悪いわね、セイヤ。カイトは私と組むのよ!」
「悪いな、セイヤ。ステファに昨日頼まれてな……」
しまった。ステファに先を越された。
こうなったら、誰でもいいから早く声を掛けないと。
しかし、周りを見回すと既に一人を除いてみんなペアになっていた。
残った一人は、当然、男爵令嬢である。
「マジかー」
「何ですかそこのあなた、私が相手では不満ですの!」
「不満ですけど」と言いたいところだが、ここは我慢することにした。
今日一日一緒の船で、二人だけで過ごさなければならない。喧嘩腰ではまずいだろう。
「いえ、男爵令嬢様とペアを組むなんて、畏れ多いと思っただけです」
「そう。私は不満だけど、我慢して差し上げますわ」
この野郎。仲良くできるとは思っていないが、協力し合う気もゼロかよ。
「それじゃあ、組み分けもできたようだし、練習船に乗船してくれ。そうだ、どちらが船長をするか、予め決めてくれよ」
「もちろん私が船長ですわ。文句をありませんよね」
「はいはい。どうぞお好きなように船長様」
「わかればいいのよ。わかれば」
男爵令嬢は、機嫌を良くして練習船に向かって行った。
「はあー。俺も行くか……」
「頑張ってね、セイヤ」
「頑張れよ」
「ありがとう。そっちも頑張って」
ステファとカイトに励まされて、俺は練習船には乗り込んだ。
練習船は、帝国製のカペルナX型。
ハルク千型と違い、背の高い三角錐を横倒しにして少し潰したような形をしていた。
空気抵抗が少なく、速そうだが、宇宙には空気がないから空気抵抗は関係ない。
もっとも、空気以外にエーテルなどでこの宇宙が満たされていれば、それの抵抗を受ける可能性があるが、実際のところはどうなのだろう?
俺が練習船を見ているうちに、男爵令嬢はとっくに船に乗り込んでしまった。
遅れると文句を言われそうだ。
俺は急いで男爵令嬢の後を追った。
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