第27話 シミュレータ午後

 午後からも午前に引き続き、シャトルポッドのシミュレーションだ。

 俺はサクサクと進めていく。


 一応、ステージ15までクリアすれば終了なのだが、時間が余った俺は、ステージ20を挑戦中だ。

 ステージ20は、シャトルポッドでの敵艦攻略だ。

 艦砲射撃を避けながら、敵のシャトルファイターとドッグファイトを繰り広げる。


 シャトルポッドとシャトルファイターでは、速度と旋回性能に差がありすぎる。

 こんなのどうやっても無理ゲーだぞ。


 完全にゲーム感覚で楽しんでいたら、いつの間にか終了時間になっていた。


 既に、ステージ15までクリアした者は先に帰ったようで、大部分の部屋が空いていた。

 そんな中で、まだ使用されている部屋の一つから声が聞こえてくる。

「何で私の指示通りにしないのよ! このポンコツが!!」


 男爵令嬢がステージ15までクリアするには、まだ大分時間がかかりそうだ。居残りに決定だな。


 俺は構わずチハルの待つホテルに帰ろうとしたが、係の女性に呼び止められた。

「ちょっとお待ちください」


 俺は何だろうと足を止めて振り返ってしまった。それが失敗だった。

 そのまま無視して帰って仕舞えばよかったのだ。


「すみません。セイヤさんですね?」

「そうですが、何か?」


「実はご相談なのですが、そこの方に、シミュレーションのやり方をアドバイスしてもらえないでしょうか……」

 そこの方とは、先程声が聞こえて来た部屋のことだ。


「何で俺が、講師の方がいるでしょう」

「講師の方もお手上げなんです」


「だからって、何で俺なのです」

「セイヤさんはステージ19までクリアされていますよね。あれをクリアできる講師はいないんです。その腕を見込んでどうか一つ」

 係の女性は手を合わせて拝み倒す構えだ。


「いやですよ。そこの方って男爵令嬢でしょ。関わりたくありません!」

 俺は前世は日本人だが、今は王族だ。引き篭りであっても、嫌なものは「ノー」と言える。


「そこを何とか。このままだと私帰れないんです(泣)」

 係の女性に泣き付かれてしまった。今度は泣き落としか。

 知ったことかと思うが、美人のお姉さんに縋られれば、嫌とは言いにくい。


「ですが、男爵令嬢が俺の言うことを聞くとはとても思えません」

「それは大丈夫です。セイヤさんはステージ19をクリアしたことにより、名誉アドバイザーの権限が付与されました。シミュレータをタンデム設定にしますので、他の部屋から彼女の操縦をアシストしてあげてください」


「それって、俺が代わりに操縦しろということですか?」

 なんだかんだ理由を付けているが、そういうことだろう。


「ぶっちゃけ、そういうことです!」

 ぶっちゃけちゃうんだ。余程切羽詰まっているのか。


「それって、意味があるのですか?」

「私が早く帰れます!」


「はあー。そうですか。わかりました……」

 仕方がない。やるならやるで、ちゃっちゃと済ませてしまおう。


 俺は、男爵令嬢の隣に部屋に入り、彼女の代わりにシャトルポッドを操縦した。


「何これ? 私のいうこと聞かないわよ!」

 隣に部屋で男爵令嬢が騒いでいるがお構いなしに、全て俺が操縦していく。


「あら、なんだか知らない間にクリアしているわ。私って天才かしら!」

 はあー。もう、呆れてものも言えない。相手にしても、時間の無駄だからどんどん進めよう。


 それから三時間かけて、ステージ15までクリアした。

「はあー。終わった」

 俺がシミュレータの部屋から出ると、隣の男爵令嬢も出てきた。


「あら、あなた、居残りだったの。鈍臭いわね(笑)」

 おいおい、誰のせいだと思っている。だいたい、自分はどうなのだ、自分は!

 俺が代わりにやってやらなければ、まだ終わってないだろう。

 だが、言い返す気力もない。


「お疲れ……」

 そう言って俺はそのまま帰ることにした。


「何ですのあれ、失礼な態度ですわね!」

 男爵令嬢が後ろで文句を言っているが、俺の知ったこっちゃない。

 後は係の女性に任せて、俺はチハルの待つホテルに帰った。


 ホテルに帰ると、チハルに遅くなるなら連絡しろと怒られてしまった。

 何でも、カードでメッセージを送れるそうだ。

 そんな機能もあったのか! ほとんどスマホと変わらない。


 チハルの機嫌を取りつつ、夕飯をルームサービスで頼んだ。

 ピザを食べつつ、何で遅くなったかチハルに聞かれた。

 男爵令嬢のことを話したら「何でそんな女のために、キャプテンがそこまでしなければならない」と、また機嫌が悪くなってしまった。


 男爵令嬢が絡むと、ろくなことにならない。今後は、絶対に関わらないようにしよう。


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