第26話 シミュレータ
今日は講習三日目、昨日より早くホテルを出る。
今日は絶対にカイトとの席取り合戦に負けるわけにはいかない。
早めに講習会場に着いて、教室に入ろうとしたら、係の女性に呼び止められた。
「今日からは実技実習ですから、そちらの教室ではなく、今日はシミュレーション室ですよ」
「えっ? そうなのですか!」
「日によって時間と場所が違いますから、カードできちんと予定を確認するようにしてください」
そういえばそんなことを言われたような気がする。
最初だけで、その後は確認していなかった。
「すみませんでした。これからは気をつけます」
係の女性にお辞儀をしてからシミュレーション室に向かう。
待つこと三十分、カイトがやって来た。
「お、セイヤ、おはよう。随分と早いお着きだな」
「カイト、おはよう。お前、知っていて教えてくれなかったな!」
「何のことかな?」
「とぼけるなよ。今日は実技で、教室は使わないということだよ!」
「あれー。セイヤは知らなかったのかー。それは悪かったな(笑)」
「白々しいのだよ!」
「おはよう。朝から賑やかね」
「「おはよう」」
ステファもやって来た。
「今日から実技実習よね。楽しみだわ」
「今日はシミュレータだけどな!」
「それは最初から実機とはいかないわよ。でも、明日には実機に乗れるんでしょ」
「シミュレータで問題なければな!」
「セイヤは、なぜ機嫌が悪そうなの?」
「いや、何でもないのだ、気にしないでくれ……」
「こいつ、今日も教室だと思って早く来てたんだ」
「予定はちゃんと確認しなきゃ駄目よ」
「係の女性にも言われたよ……」
少し待つと、講師が来て、一人一部屋ずつ、一畳程度の部屋が割り当てられる。これがシミュレータだ。
今日は宇宙船でなく、シャトルポッドのシミュレーションをする。
基本操作から始まり、発進、着船、船外活動と様々な場面を想定したステージをクリアしていく。
前世でも引きこもっていた俺は、この手のゲームも得意である。
昼食の時間になり、他の二人とお決まりの食堂で、フライドチキンを食べながら話を聞くと、俺は二人よりもかなり進んでいるらしい。
俺は既にステージ10をクリアし、次はマニピュレーターを使った船外修理のステージだ。
カイトはステージ7、ステファはステージ8に挑戦中だ。
カイトよりステファの方が進んでいるのは意外だった。
「カイト、頑張らないと居残りになるぞ」
「ふん。自分が進んでるからといい気になりやがって!」
「お昼までにステージ7までいけば優秀よ。目標はステージ5のクリアだもの」
「自分はステージ8のくせに!」
「ステファは優秀なのだな」
「既にステージ10をクリアしたセイヤは異常よ」
「この手のシミュレーションは得意なのだ」
「シミュレーションと実際は違うからな。実機での操作では負けないぞ!」
「まあ、そうだな」
「余裕そうなのがむかつくわね!」
素直にそう思っただけで、余裕ではないのだけど、カイトだけでなく、ステファにもライバル心を持たれてしまった。
「そういえば、男爵令嬢、今日も騒いでたわね」
「ああ、『船のライセンスを取るのに、何でシャトルポッドの実習が必要なのよ』だっけ。あの様子だと、あまりステージをクリアできてないのだろうな」
「話の様子からステージ3みたいよ」
「ステージ3って着船だろ。どこにつまづくところがあるのだ?」
着船したいところを指定すれば、後はほぼ自動操縦だ、失敗のしようがない。
「自分が止めたいところに、他のシャトルポッドが止まっていて邪魔してくるらしいわよ」
「何だそれ?」
「あー。なるほど」
俺が先に座っているのに退けと言ってくる、あの男爵令嬢ならありえるな。
「帝国の貴族って、あんなのばっかりじゃないよな」
「流石にあそこまでのは、いないんじゃないか?」
俺の疑念にカイトは楽観的な答えを返してきた。
「帝国の貴族なんて、どいつも似たり寄ったりよ!」
ステファは他の帝国貴族にも嫌な思いをさせられているのかな。随分と嫌悪感がこもっているのだが。
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