第23話 講習二日目

 今朝はベッドで目を覚ました。

 昨日はライセンス講習から帰った後、ホテルを別の場所に変えて、ツインの部屋を取った。

 お陰で、ベッドでゆっくり寝ることができた。


 チハルには不評だったが、流石にあのホテルに泊まり続けるのははばかられた。


「チハル、おはよう」

「おはようございます、キャプテン」


「今日は、一人で行くから、チハルは自由にしてくれ」

「了解した」


「あと、この部屋を七泊分取って、ここを定宿にしよう」

「前のホテルの方が良かった」


「――ああいう所はたまに行くからいいのだよ」

「わかった。また、連れて行って欲しい」


「機会があったらな」

「約束」

 約束はしたが、機会は二度とないだろう。


「それと迎えも必要ないからな」

「了解した」

 また、男爵令嬢に絡まれると困る。


「さて、少し早いけどもう出るか」

「行ってらっしゃい」


 俺は道に迷っても間に合うように、早めにホテルを出て講習会場に向かった。


 それなのになぜだか、到着したのは時間ギリギリだった。

 どこで曲がる場所を間違えたのだろう。今考えても見当がつかない。


 それでも早めに出たのでなんとか間に合った。

 俺は滑り込みで教室に入る。

 席に座ろうとして、昨日座った席を見ると、そこにはカイトが既に座っていた。

 教室を見渡したが、昨日カイトが座っていた席しか空いていない。


「おい、カイト、ずるいぞ、そこは俺が昨日座っていた席じゃないか」

「昨日は昨日、今日は今日。早いもの順だ。文句を言われる筋合いはない」

「くそう。途中で道に迷わなければ……」


「セイヤ君おはよう。残念だったわね」

「ステファ、おはよう。まあ、仕方がないよ」

「そうそう。諦めろ」


「明日は早く来て取り返してやる」

「まあ、頑張れよ。明日があればな」


 カイトの奴め、人のこと煽りやがって、いい性格をしている。


 俺は、仕方なく、昨日カイトが座っていた、一番後ろの左端の席に座った。

 当然、右隣は男爵令嬢だ。


 一応挨拶をしておいた方がいいか。

「おはようございます。隣の席に失礼します」

「朝から席を取り合うなんて子供なのね」


 はぁー。お前が言うな!


 二日目の講習は、船の構造や、非常事態への対処などだった。


 宇宙船もシャトルポッドも広義で言えば魔道具の一種だ。

 ただ、俺の知っている魔道具と違うのは、魔導核と呼ばれる魔力を蓄積しておける特殊な装置を有していることだ。


 普通の魔道具にも、直接魔力を込めるのでなく、蓄積された魔力を利用する魔道具はある。

 魔導ライトなどがそうであるが、それらに使われているのは魔石である。


 それでは、その二つに違いがあるかといえば、その違いは、魔力を蓄積する方法とその圧倒的な出力である。

 例えるなら、電池と原子力発電所を比べているようなものである。


 因みに、俺の魔力は、原子力発電所に匹敵するから、その魔力で電池に充電しようと思ったら、それは電池が破裂するよな。


 つまり、その二つは、同じように見えて、全く別物である。


 そして、魔導核の膨大な魔力を利用できるように取り出すのが、魔導ジェネレーターになる。


 この講習を聞いて、ふと思いついたのだが、魔導ジェネレーターを使えば、俺の魔力でも普通の魔道具や魔法が使えるようになるのではないだろうか。

 超小型の魔導ジェネレーターがないか調べてみよう。なければ作れないか研究だな。


 話は逸れたが、魔導ジェネレーターによって取り出された魔力によって、宇宙船やシャトルポッドを動かしているわけであるが、シャトルポッドと違って、宇宙船にはワープエンジンがある。

 当然だが、このワープエンジンは大量に魔力を消費する。


 ハルクで見た魔導核の列を考えれば、その消費量を想像することは難しくない。


 だが、ここで俺は思い当たってしまった。

 宇宙船の魔導核に魔力を充填できる俺って、本当に人間か?

 他にできる人がいるだろうか?

 だが、ハルク1000Dにはキャプテンシートに充填用の装置が付いていた。

 充填できる人もいないのに、そんな装置は付けないだろう。

 となれば、宇宙には普通にいるのかもしれない。


 俺は疑問を解決するため講師に聞いてみた。


「すみません。質問いいですか」

「はい、どうぞ」


「魔導核に人が魔力を込めることは可能でしょうか?」

「その件は午後に緊急事態の対処として話そうと思いましたが、魔導核に魔力を込めること自体は可能です。

 ただ、どの程度充填できるかは、その人の魔力によって変わってきます。

 魔力の低い方でも、シャトルポッドの生命維持装置を動かし続ける位はできますし。

 魔力の高い方なら、十分間充填すれば、一分間シャトルポッドを動かすこと位はできるでしょう」


 十分間充填して一分間。それも、シャトルポッドを動かせる程度なのか。


「そうなると宇宙船は無理ですよね?」

「宇宙船の生命維持装置を動かし続けるのは無理ですね。そうなった場合は、シャトルポッドに退避する必要があります」


「宇宙船を動かすなんてことは……」

「そうですね。何十年間か充填し続ければ動くかもしれませんね。

 実際、遭難した旅客船を、乗客乗員数千名で協力して動かして助かった事例があります」


「わかりました。ありがとうございます」

 自分がとんでもないことがよく理解できた。


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