第22話 お昼

 朝イチで一悶着あったが、午前中の講義は何事もなく無事に終わった。

 昼食は、講習会場内に食堂があったので、そこで済ませることにした。


 カイトとステファも一緒だ。

 男爵令嬢は執事がやって来て、一緒にいなくなった。今頃は高級レストランにでも行っているだろう。


 食堂で俺はハンバーガーセットを注文した。

 ここで出てきたのは、宇宙船で出てきたハンバーガーシェイクではなく。ちゃんとしたハンバーガーとフライドポテトだった。


「おいおい、なに涙を流しながら食べてるんだよ」

「だって、本物のハンバーガーだぜ!」

「セイヤのところってハンバーガーもなかったの。本当に田舎なのね」

 二人に呆れられてしまった。


「まあ、そのせいで、この辺のこともよく知らないから、色々教えてもらえないか?」

「それは構わないわよ」

「何か知りたいことがあるのか」


「ここって帝国領じゃないよな?」

「ああ、このドックは航宙管理局の管理だから帝国領ではないな」

「帝国領は主にエリアSと銀河の中心であるエリアCを占めているわ」


「ここはセクション4だったよな。セクション4に帝国領は無いのか?」

「領といえるものはないが、帝国所有の小さな鉱星は近くにあるぞ」


 鉱星? 鉱山みたいなものかな。

 小さいがどの程度かわからないが、領ではないということは、人は住んでいないのか?


「ブリエル男爵がそこの管理者ね」

「その鉱星に住んでいるのか?」

「鉱星に人は住めないよ。管理事務所はこのドックの中にあるから、ここに住んでるんじゃないか?」


「それで、彼女もここにいるのか」

「ああ、あの令嬢か……」

「航宙管理局の管理下は中立地帯だから、あの態度はいただけないわね」


 ここは中立地帯なのか。だから、シリウス皇国の王族に加担しないように注意しているのか。


「午後からまた、あの令嬢の隣で講義を受けなければならないのか……。セイヤはいいよなステファの隣で」

「左隣はあの令嬢だけどな」

「両手に花じゃないか」


「何言ってんだい、いつまた言いがかりをつけられるか気が気じゃないよ」

「それは俺も同じだ。ステファの隣なだけまだましだと思ってくれ」

「それもそうか。午後からもよろしくな。ステファ」


「ずるいぞセイヤ、俺と席を代われ」

「それは出来ない相談だな」


「まあ、何か、私モテモテ?」

「「それはない」」

「失礼な男たちね」

 二人揃って否定したものだから、ステファがヘソを曲げてしまった。


「ごめんごめん。冗談だから。ステファは綺麗だしきっとモテるよ」

「そうそう、俺に婚約者がいなければ、お付き合いして欲しいほどだ」

「えー。セイヤ、婚約者がいるの」

 いきなりステファのテンションが上がった。


「ああ、一応、田舎に」

「その辺もっと詳しく」

 ステファがグイグイくる。


「裏切り者。リア充爆発しろ」

 カイトが呪いの呪文を唱え始めた。

 リア充じゃないよ。引き篭りだよ。


「あー、もうそろそろ午後の講習が始まる時間だから、また今度な」

「えー。仕方がないわね。また今度聞かせてよね」


 午後の講習は眠気と戦いながらなんとか切り抜けた。


 講習も終わり、教室を出ると、講習会場の入り口でチハルが待っていた。


「お疲れ様、キャプテン」

「チハルもご苦労様。わざわざ迎えすまないな」


「おい、セイヤ。彼女、ハルク専用アシスタントじゃないか」

「なんだ、カイト詳しいな。チハルっていうのだ」

 よく見た目だけでわかるな。俺には人間と区別できんぞ。


「船乗りを目指しているなら当然だろ。それより彼女、セイヤのことをキャプテンと呼んだぞ」

「そうだな。一応船長だからな」

「船長が何で今更ライセンスを取りに来てんだよ!」


「まあ、色々あってな。ライセンスより、船を先に手に入れてしまったのだ」

「婚約者だけでなく船持ちかよ!」

「えー。セイヤ、宇宙船のオーナー船長なの!」

 カイトだけでなくステファも驚いている。


「それで、ハルクの何型だ」

「千型だな」


「千型かあ。まあ、旧型だけどいい船だな」

 カイトのテンションがいきなり下がったぞ。

 まあ、八百年前の船じゃあしょうがないか。


「旧式でもちゃんと飛べるんでしょ。すごいじゃない」

「千型はハルクシリーズの基本にして最高峰。後継は、千型の廉価版に過ぎない」

 いままで黙っていたチハルが急にしゃべり出した。


「へー。そうなのか」

「流石ハルク専用アシスタント、詳しいな。セイヤは自分の船だろう、知っとけよ」

「チハルちゃんていうの、可愛いわね」


 何やら講習会場の入り口で収拾がつかなくなってきた。

 そこに、厄介な人物が現れた。


「あら、船持ちだったの。ただの庶民ではなかったのですね」

 コーディリア男爵令嬢だ。執事を連れての登場だ。


「ですが、ハルクシリーズというのがいただけませんね。シリウス皇国製の船なんて駄目ですわ。帝国製に買い替えをお勧めしますわ」


「ハルク千型は優秀。帝国製に負けない」

「あら、アシスタントのくせに男爵令嬢の私に歯向かうのかしら」


「歯向かってはいない。事実を言っただけ」

「何ですって、その態度が歯向かっているというのよ」

 コーディリアはチハルに手をあげようとした。

 俺は咄嗟にチハルを庇う。


「お嬢様、おやめください」

 執事がコーディリアを止める。


「セバス、あなたまで私に逆らうの」

「いえ。彼、防御の腕輪をしています」

「チッ。庶民のくせに生意気なのよ」


 コーディリアは文句を言いながら、執事を連れて講習会場を出て行った。


「大丈夫だったか」

「ああ、別に打たれてはいない」

「何ですあれ、最低ですね」


「キャプテン、申し訳ない」

「別にチハルは悪くないだろ」

「いえ、敵に逃げられる前に殲滅すべきだった」


「おいおい、冗談だろ。やめてくれよ」

「はい、もちろん冗談」

 本当に冗談なのだろうな。すごく心配なのだが。

 チハルの『仕様』は『良心的な娘』、大丈夫、大丈夫。俺は自分で自分に言い聞かせた。


 ライセンス講習は、波乱含みの幕開けとなった。


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