第14話 アシスタント

 ドック入りして船を降りた俺は、商談スペースでおっさんと打合せをしていた。


「となると、帰りはどうするんだ?」

「帰りですか?」


「緊急事態じゃないからな。ライセンスを持った乗組員が二人必要だぞ」

 そんなこと急に言われても困るのだが……。


「えー。どうにかなりませんかね?」

「どうにもならんな!」


「そんなー。俺はどうしたらいいのです?」

「そうだな。簡単なのは乗組員を二人雇うことだ」

 簡単だと言われても、乗組員を雇うお金はないし、雇った乗組員も片田舎に連れて行かれては困るだろう。


「他の方法はないですか」

「乗組員を雇わない方法か。それなら、自分でライセンスを取ることだな。これで乗組員一人分になる」

 人を雇うよりは自分でライセンスを取る方がいいな。だが、俺でも取れるものなのか?


「ライセンスって簡単に取れるのですか」

「一週間もあればここでも取れるぞ。メンテナンスに十日はかかるから、ちょうどいいじゃないか」

「メンテナンスに十日もかかるのですか」

「当たり前だろ」

 想定外であったが、あれだけの大きさだ。当然か。


 ところで、俺がライセンスをとっても乗組員一人分にしかならない。

「それで、もう一人分はどうするのですか」

「もう一人分は、乗組員代わりのアシスタントを買えばいい」


 アシスタントを買うって何だ? アシスタントは乗組員と違うのだろうか。それに雇うでなく買うとはどういうことだ。

「あの、乗組員の代わりになるアシスタントというのは?」

「ああ、今連れてくるよ。ちょうどお勧めのがあるんだ」


 そう言うとおっさんは奥に行き、制服を着た黒髪の女の子を連れて来た。

 この女の子を俺に買えというのか。

 宇宙には奴隷制度があるのだろうか?


「ハルク専用アシスタント、チハル」

 女の子はピョコリと頭を下げて挨拶した。


「どうだ、可愛いだろう」

「はあ、そうですね」


「その上、ハルク専用だから高性能だぞ。ナビゲーターとも連携が取れるし、船内のことなら全て任せられる」

「はあ、そうですか」


「普通なら八千万G(ギャラクティ貨)のところ、今なら大負けに負けて三千万Gでどうだ」


 ギャラクティ貨の価値がどの程度かわからないので、安いのか高いのかわからないが、値引き率はすごいな。

 確かに可愛いし、船の運航にも必要なのだろう。

 それに、これなら帰りは一人ぼっちにならなくてすむ。


 だが、俺は人身売買には関わらない。

 それに、買いたくてもお金がない。


「なんだ、気に入らないか?」

「俺は、人身売買はちょっと……」


「おいおい。何勘違いしているんだ。こいつはアンドロイドだ」

「人間じゃないのですか! 見分けがつかないですけど」


「そうだろう。最新式だからな」

「最新式なのに、随分値引くのですね」


「それは、ほれ、このご時世だから色々あるだろう」

 何だろうこのご時世って? 俺に言われてもわからないのだが……。


 俺が、まるでわからないと顔に出ていたのだろう。

 そんな俺の様子におっさんも疑問に思ったようだ。


「お前さん、シリウス皇国の王族じゃないのか?」

「いえ、王族は王族なのですけど、セレスト皇国の王族なのですが……」


「セレスト皇国? 聞いたことねえぞ」

「そうですよね。片田舎の国ですから」


「片田舎ね……。そのせいで常識がねえのか」

 まあ、そのとおりなのだが面と向かって言われるとカチンとくる。

「すみませんね。常識がなくて」

 俺は少し拗ねて言い返す。


「しょうがねえな。教えてやるよ。

 お前さんの船と同じ、ハルクシリーズの宇宙船を作っているのはシリウス皇国だ。

 そのシリウス皇国だが、最近、帝国に狙われている。

 もうすぐ戦争になるかもしれない。

 そして、戦争になれば、まずシリウス皇国は勝てない。完全に滅ぼされてしまうかもしれない。

 そうなると、ハルクシリーズの宇宙船は今後生産されない。

 船が生産されなくなれば、今後の販売を見越して仕入れておいた専用アシスタントは余る。

 つまり、不良在庫になるというこだ」


 俺の船がシリウス皇国製だというのは知っていたが、シリウス皇国がそんな状態になっていたとは驚きである。


「そんな情勢になっていたのですね」

「納得したか。それでどうだ。買わないか!」

「買いたいところなのですが、お金がありません」


 ギャラクティ貨なんて見たことも聞いたこともないのに、持っているはずがない。


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