第15話 ロストプラネット

 ピットのおっさんにアシスタントの購入を勧められたが、俺はお金を持っていなかった。


「金がないだ! 王族だろう?」

「それが、先程も言ったように片田舎でして。ギャラクティ貨なんて見たこともありません」


「おいおい、片田舎っていってもほどがあるぞ。どの辺だ」

「どの辺と言われても……、ここからワープ4で十日ということ以外、全くわかりません」


「ワープ4で十日の所って、そこまで片田舎じゃねえじゃねえか。だが、セレスト皇国なんて聞いたことねえぞ? もしかして、ロストプラネットなのか!」


「ロストプラネット?」

「戦争などでその星の文明が衰退してしまったり、航路が超新星爆発で使えなくなったり、理由は様々だがな、航宙管理局の航路から外れてしまって、記録が抹消されてしまった星のことだ」


「もしかするとそうかもしれませんね。この場合、航宙管理局に届けた方がいいんですか?」

「それは考え所だな。他の星と対等にやっていけるだけの何かが有ればそれもいいが、そうでないなら占領されるだけだぞ!」


「やはりそうなりますか……」

 先程、帝国とシリウス皇国の話を聞いたばかりだ。なんとなく、そんな気はしていた。


「航宙管理局に届けるのは、同盟を組めるような星を見つけてからの方がいいだろうな」

「そうですね。そうします」


「俺もこのことは他で話さないようにするから心配するな」

「そうしてもらえると助かります」


「だが、そうなるとお前さん1Gも持ってないんだな」

「そうですね」


「じゃあ、これから十日間どうするんだ?」

「船で寝起きするつもりですが」

 味気ないがフードディスペンサーがあるから食事にも困らない。


「メンテナンス中は乗り組員でも乗船禁止だぞ」

「え、じゃあ俺はどこで寝ればいいんです? それに食事は?」


「それを俺が聞いたんだがな」

 おっさんが呆れている。


 ここで、俺はとんでもないことに思い至った。

「あれ、もしかして、メンテナンスの費用もかかるのですか?」

 日頃お金を使うことがないから、完全にすっぽ抜けていた。


「それは心配ない。お前さんの船はクワトロ無制限に入っているからな」

「クワトロ無制限?」


「対人、対物、本体が壊れた場合の無制限補償だけでなく、メンテナンスも無制限に補償される保険の制度だ。千年満期だから、後二百年は気にしなくても大丈夫だ」

 千年満期とか、どれだけだよ。宇宙の標準がよくわからん。


「そうですか、それは一安心なのですが、お金の問題をどうにかしないと今夜寝る場所に困ります」

「もう借金するしかねえな」


 借金か。できればしたくないのだが。

「借金するにしても、身元がわからない俺にお金を貸してくれる所があるでしょか」

「それは大丈夫だ。宇宙船を担保にすれば、どこでも喜んで貸してくれるぞ。ついでに、宿代だけでなく、こいつの購入資金とライセンスを取るための講習料も借りた方がいいぞ」

 そうだ、ライセンスを取るにも講習料が必要だった。これは借金するしかないか。


「宇宙船を担保にですか。仕方ないですね。アシスタントも必要なのでしょうからその分も借ります」

「そうか、アシスタントも購入でいいんだな?」

「はい」


「お買い上げありがとう。キャプテン」

「ああ、これからよろしくな、チハル」


 結局俺はアシスタントのチハルを購入することにした。


「それで、どこでお金が借りられるのです?」

「どこでもいいならギャラクシー銀行がお奨めだな。お前さんカードも持ってないんだろう」


「持ってないですね」

「カードがないと支払いできないぞ」

「そうなのですか?」

 ここでは現金はあつかわないのだろうか。


「心配だな。お前さん、常識がなさすぎるぞ。街に出るときにはアシスタントを連れて行け」

 ドックの中に街があるのか。これも常識か?


「船内以外でもアシスタントは使えるのですか?」

「普通は船内で使うものだが、お前さんより遥かに常識がある」

「外でもキャプテンの役に立てる」

 何か馬鹿にされている気もするが、宇宙での常識がないのは事実だし、チハルは可愛いからいいか。


「わかった、じゃあチハルを連れて行こう。まずは銀行かな」

「この書類を持っていけ。宇宙船を担保にするための書類だ」

「それではキャプテン、ギャラクシー銀行に案内する」


 俺はおっさんから書類を受け取ると、チハルに案内されて銀行に向かった。


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