第13話 ピット
ドワーフのようなおっさんの後をついてドック内の廊下をしばらく歩くと、商談スペースのような場所にたどり着いた。
おっさんは俺に椅子に座るように勧め、自身もテーブルを挟んだ向かい側に座った。
「何か飲むか?」
おっさんが紙ペラのメニューを渡してくる。
えーと。
コーヒー、紅茶、コーラ、オレンジ、グレープ、アップル、ミネラルウォータ。
うん。普通だ。
でも、コーラがある。
船内では年齢制限で飲めなかったが、ここなら大丈夫なのか?
試してみるか。怒られたら他の物にすればいい。
「じゃあコーラで」
「なに。コーラ?」
睨まれた。やはりまずかったか。
「おーい。コーラとコーヒー」
おっさんが奥に声をかける。
「はい、コーラとコーヒーですね」
奥から女性の声がした。
大丈夫だったようだが、なら、なぜ睨まれた?
「さてと、今回は定期メンテナンスだな」
「はい」
「最初に注意しておくが、宇宙船てものわだな、乗らなくても時間が経てば傷む物なんだ。
魔導核や魔導ジェネレーターは問題ないかもしれないが、気密を保つためのパッキンなどは経年劣化で傷んでいくんだ。最悪、気密が保てなくなって、エアー漏れを起こせば、死ぬことにもなりかねないんだぞ。
そのことをよく頭に刻んでおいて、定期メンテナンスは必ず受けるんだぞ」
「はい、わかりました!」
俺が頭を下げていると、スタイルいい女性がやってきた。
「コーラになります」
「ありがとうございます」
俺はテーブルに置かれたコーラにストローを挿して飲んだ。
うーん。懐かしいこの味。口の中がピリピリ……。ピリピリしない?
完全に炭酸が抜けている。コーラ味の水だ。
こんなのコーラじゃない!
コーラを注文した時、おっさんに睨まれた気がしたが、あれは、「こんなもん飲む、もの好きがいるもんだな」という視線だったのだろう。
俺は、一口飲むとそのままテーブルにそれを置いたのだった。
おっさんは俺がコーラを飲むのをやめたのを見計らって、書類を出してきた。
「それじゃあこの書類にサインしてくれ」
「何の書類ですか?」
「メンテナンスに必要な、船へのアクセス権限を与えるという書類だ。これがないと船に入ることもできない」
「ああ、なるほど、わかりました」
ドアに鍵など無かったが、セキュリティーは掛かっていたのか。
俺は書類にサインをし、それをおっさんに返す。
おっさんは、それを確認する。
「セイヤ S シリウスだな。シリウス?」
「何か?」
「いや、なんでもない」
おっさんは俺の姓が気になる様子だが、深くは聞いてこない。
「ところでお前さん、一人で乗ってきたようだが他の乗組員はどうした?」
「他にはいませんけど?」
「他にはいないって、あの大きさの船は最低限乗組員が二人必要だろ」
「そうなのですか? 一人でも動きましたけど」
「そうじゃない、規則上の問題だよ。お前さん、ライセンスは、免許は持ってるのか?」
元々不愛想だったおっさんの顔が、だんだんと険しさを増してきた。
「免許ですか? 宇宙船に乗るには免許が必要なんですか?」
「当たり前だろ! 何でライセンスも持ってないのに乗ってきたんだ!」
ついにおっさんは大声でがなり始めた。だが、そんなことを言われても、こちらは何も知らないのだ。俺はびくびくしながらも、事実を告げるしかなかった。
「えー。何か緊急シークエンスだとか言って、勝手に動き出して……」
「なるほど、そういうことか」
おっさんは落ち着きを取り戻したようだ。前のめりになっていた体を元に戻し、椅子の背もたれに寄りかかり腕を組んだ。
「お前さん運が良かったな」
「何がですか?」
俺はおっさんが何のことを言っているのかわからず困惑する。
「緊急シークエンスということは、生命に関わるトラブルが起きそうだということだ。五百年間もメンテナンスをしていなかったら、そうなってもおかしくない。無事ここまで辿り着けて運が良かったじゃないか」
下手をしたらここに辿り着く前に、途中で船が壊れて死んでいたかもしれないということか。
それは確かに、俺は運が良かったようだ。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます